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中国テック事情:トルコ悲願の国産EVにも中国製バッテリー
Emin Dzhafarov/Kommersant/Sipa USA via AP Images
China Report: How a Chinese battery company powers Turkey’s home-grown EVs

中国テック事情:トルコ悲願の国産EVにも中国製バッテリー

トルコ市場は、中国テック企業にとって欧州市場参入へ向けた第一歩となっている。米中対立の激化で、米国における展開が難しくなっている中国テック企業は、トルコ市場をきっかけに欧州へ足を伸ばそうとしている。 by Zeyi Yang2023.05.23

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

私はトルコを旅している。休暇は数日前に始まったばかりで、イスタンブールの通りで猫を撫でたり、屋外で時を過ごしたりしている。しかし、私はジャーナリストだ。身の周りのテック関連ニュースに注意を払わずにはいられない。2023年は、トルコにとって非常に重要な年だ。トルコ共和国建国100周年を迎え、重要な選挙を控えているだけではない。テクノロジーの側面から見れば、将来の経済成長の象徴となる国産初の電気自動車(EV)の出荷が開始される年でもあるのだ。

2018年、トルコの主要企業5社が、国内初のEVメーカー「トッグ(Togg)」を設立した。数回の延期を経て、トッグ製EVがついに今年発売される予定だ。すでに大きな人気を集めている様子で、3月末、同社は約18万人の応募者の中から最初の所有者として2万人を選ぶ抽選をした(第1号車は、4月3日にレジェップ・タイップ・エルドアン大統領に納車された。エルドアン大統領はトッグを自らの重要な政治プロジェクトとして位置づけている)。

私は中国が世界をリードするEV産業を築き上げた経緯を説明する記事を書いているので、中国が歩んだ途と、トルコが現在進んでいる途に多くの共通点を見出せる。両国とも自動車製造が盛んな国であるため、自動車サプライチェーンの下流に留まることには満足しない。なぜなら、EVは従来の自動車産業を混乱させ、世界のエネルギー転換に不可欠な存在になろうとしており、急成長する新市場に参入するチャンスを与えてくれるからだ。両国で異なる点は、EVレースにおいて中国はすでに数周先を進んでいるのに対し、トルコはまだスタートしたばかりだということだ。

そもそも、両国間には多くの交易がある。EVビジネスをゼロから始めるのは困難なことだが、EVの最も重要な部品である電池(バッテリー)を作るのはさらに難しい。だからこそ、トルコは単独ではなく、ファラシス(孚能科技)と提携している。ファラシスは、中国のCATL(寧徳時代新能源科技)、BYD(比亜迪)、CALB(中創新航)といったEV業界のリーダー企業に迫る、中国のトップ級バッテリー企業の1つだ。2019年、トッグとファラシスはそれぞれが50%の株式を持つ合弁会社シロ(SiRo)を設立し、トッグ製EVに電力を供給するリチウムイオン・バッテリーを生産する工場をイスタンブールから東に50キロメートルほどに位置するゲブゼに建設した。

トルコに進出している中国テック企業はファラシスだけではない。トルコの地元紙は1月、アリババが10億ドル以上を投じてトルコにデータセンターと物流センターを建設する予定だと報じた。アリババはトルコ最大の電子商取引企業トレンドヨル(Trendyol)を所有しており、同社の海外向けショッピング・アプリ「アリエクスプレス(AliExpress)」は、トルコのグーグル・プレイ・ストアの無料アプリ部門の順位で、最も多くダウンロードされたアプリによくなっている。昨年12月、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、10年間中国国内のみで生産してきた、中国ファストファッション業界の主要企業シーイン(希音)がトルコで生産を開始したと報じた

トルコが常に中国と密接な経済関係を築いてきたことを考えれば、こうした企業がトルコを選ぶのは驚くことではない。トルコは中国政府が推進する一帯一路構想で重要な役割を果たしている。ロシアとウクライナの戦争が始まり、ロシア経由の鉄道物流が難しくなってから、一帯一路の役割はますます重要性を増している。

また、トルコは欧州とアジアの交差点に位置するため、中国テック企業にとって、トルコ市場は欧州市場参入への第一歩となり得るという点でも重要だ。

EV業界はその好例だ。中国バッテリー企業は、米国に進出しようとして規制に直面してきた。例えば、中国バッテリー企業大手CATLが2月にミシガン州でEV向けバッテリー製造契約をフォードと結んだとき、マルコ・ルビオ上院議員はすぐに対米外国投資委員会(CFIUS)にこの契約を調査するよう要請し、さらにはCATLを始めとする中国EV企業が中国のテクノロジーを使用する場合は税控除を禁止することも求めた。

欧州は米国よりは(中国企業の)参入規制の少ない市場のようだが、順風満帆とは言えない。2019年、メルセデス・ベンツはファラシスに3%の戦略的出資をして、EV向けバッテリーの供給で協力することになった。ドイツにバッテリー工場を建設する予定だったが、建設は大幅に遅れて中止に追い込まれたと報じられている。トルコでの合弁会社はファラシスの代替案のようだ。

中国テック企業のグローバル化へ向けた取り組みについて語るとき、通常は米国に関心が集まり、ティックトック(TikTok)やシーインのような企業が米国市場でどのように成功し、あるいは失敗しているかが注目されることが多い。しかし、中国企業は米国以外の世界各地に進出しており、トルコのように積極的に中国企業を誘致している国もあることを心に留めておく必要がある。

米中関係が過熱するなか、中国テック企業は米国進出を断念し、他の市場に目を向ける傾向がさらに強まるだろう。そうした精力的な動きが、世界のテック産業や地域社会をどのように形成していくのかは興味深いところだ。

中国関連の最新ニュース

1.中国政府は3月31日、米半導体製造企業マイクロン・テクノロジー(Micron Technology)に対して国家安全保障上の調査を開始した。米国政府が中国の半導体製造企業に課している規制の拡大に対する報復の可能性が高い。(フィナンシャル・タイムズ紙

2.暗号通貨取引所FTXの創業者サム・バンクマン・フリードが、2021年に少なくとも1人の中国政府当局者に4000万ドルを渡した贈賄の罪で追起訴された。(NBCニュース

3.米国がティックトックを禁止すれば、米国のユーザーだけでなく、米国からの広告収入やトラフィックに頼る世界中のティックトック・インフルエンサーも影響を受ける。(レスト・オブ・ワールド

4.中国の人気電子商取引アプリ「ピンドゥドゥ(拼多多)」は、アンドロイド(Android)OSの脆弱性を悪用するマルウェアを使って、ユーザー・データを窃取し売上を伸ばしていた。(CNN

5. 中国の巨大テック企業アリババは、6社に分割すると発表した。(ロイター通信

  • 同社の物流部門であるツァイニャオ(菜鳥)は、すでに香港での新規株式公開に向け準備を進めている。(ブルームバーグ

6. 欧州における中国政府の影響力を抑制するため、米国当局はクロアチアと中国との港湾改修契約を阻止するための作戦を密かに実行し、成功した。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙

7. 世界に170店舗以上を展開する小籠包で有名な台湾のレストランチェーン「ディンタイフォン(鼎泰豊)」のヤン・ピンイー(楊秉彝)共同創業者が96歳で亡くなった。(NPR

8. ティックトックとアマゾンは、中国で人気のライブ動画配信による電子商取引事業を米国でも始めたが、米国の消費者は興味がないようだ。(ワイアード

ECアプリとサプライヤーの出会いと別れ

中国企業のPDDホールディングス(PDD Holdings)が所有する新しい電子商取引(EC)アプリ「ティームー(Temu)」は、数百万ドルを投じてスーパーボウルの試合中に広告を2回放映した結果、売上が急増し、その対応に苦労している。中国の経済誌ジャイミアン(界面新聞)によると、注文が急増した結果、2週間にわたって倉庫や物流に問題が生じているという。対応する時間的猶予をアプリ・チーム以外の部門に与えるために、ユーザー獲得活動を一時停止せざるを得なかったほどだ。

ティームーは、中国の姉妹アプリであるピンドゥドゥ(Pinduoduo)の成功を再現しようとしている。ピンドゥドゥと同様、ティームーは激安価格で商品を販売している。このような割引を可能にするために、ティームーは多くの厳しい価格決定ポリシーを設け、サプライヤーの怒りを買っている。プラットフォームで30日間に30点売れなかった商品には「売れない」ラベルが付けられ、価格を下げるか、Webサイトから削除する必要がある。

旧正月休暇で多くの中国サプライヤーが休みを取っていた1月、ティームーはプラットフォームがサプライヤーの合意なしに任意に出品価格を下げられる新ルールを制定した。このため、多くの中国サプライヤーは、プラットフォームに搾取されていると考え、ティームーとの取引をやめる決断をした。

あともう1つ

ネットで手に入らないものはない。3月末、中国の民間衛星会社コムサット(九天微星)が、中国の人気電子商取引ショップのタオバオ(淘宝)で3種類の商用人工衛星の販売を開始した。価格は29万ドルから400万ドル超(打ち上げ費用込み)。中間価格の衛星には面白い機能が搭載されており、地球を周回する間に宇宙を背景としたユーザーの画像を写真撮影できるセルフィー衛星だ(下中央の画像)。他の2種類の衛星は、リモート・センシングや通信など、ごく一般的な機能しか装備されていない。同社によると、すでに2人の購入者がいるとのこと。

 

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MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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