KADOKAWA Technology Review
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カトリック教会を
世界の気候ネットワークに、
地図学者が描く夢
Isabel Magowan
気候変動/エネルギー 無料会員限定
The Catholic cartographer who wants to help the church fight climate change

カトリック教会を
世界の気候ネットワークに、
地図学者が描く夢

非営利団体を運営するコロンビア大学のモリー・バーハンズ助教授は、カトリック教会の持つ力を気候変動に影響を与えたいと考えている。カトリック教会が全世界に所有する膨大な土地の地図を作成し、その活用を支援している。 by Whitney Bauck2023.07.03

モリー・バーハンズは、気候変動対策に取り組むため、カトリック教会が全世界に所有する土地の地図を作成しようと考えた。それは彼女にとってはごく当たり前のアイデアだったので、もう誰かが進めているに違いないと思った。

地図製作者であるバーハンズは当時、エコロジカルデザインを学ぶ大学院生で、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)マッピングに足を踏み入れたばかりだった。バーハンズは、修道女と一緒に過ごすことが好きな敬虔なカトリック信者でもあった。十分に活用されていない広大な芝地を抱える修道院を訪れた際に、カトリック教会はどれだけの土地を所有しているのか、そしてその土地が責任をもって管理されたときに気候にどれだけの影響を与えることができるか、考えるようになった。

「カトリック教会は、非政府組織としては世界最大の医療機関、世界最大の教育機関であり、人道支援ネットワークとしても世界第2位の規模を誇ります。それも国連の全組織を一体と捉えた場合にのみ首位の座を譲るほどの規模です」。バーハンズは、彼女の堅信名の由来になった聖人である、中世の博学者ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの肖像が飾られているネックレスを指でいじりながら、こう話す。「『世界最大の自然保護区ネットワークを持っているに違いない。誰が運営しているのかは調べれば分かるだろう』と思っていました」。

ところが、2014年にこの仕事に取り組み始めたときに明らかになったのは、教会にはそのようなネットワークが存在しないどころか、連絡をとった小教区の大半が、どの土地を所有しているかを書き留めた記録さえ持っていないということだった。教会の長い歴史と分散化の結果だ。この問題はカトリック教会の最上層部にまで届いた。すでにバーハンズは、イェール大学の学生ボランティアの助けを借り、公開データを用いて地図構築を開始していた。その地図の肉付けに役立つ記録の閲覧を願い出るために、バチカンでの謁見の機会を得た際に、ローマ教皇庁が保有している地図でさえ、1901年以降は一切更新されていないことが分かった。

この隔たりこそ、バーハンズが率いる団体グッドランズ(GoodLands)で埋めようとしていることだ。現在33歳の彼女は、現在非常勤の助教授として教鞭を執っているコロンビア大学建築学部のがらんとした講堂で、筆者にそう説明してくれた。バーハンズ助教授は、アークマップ(ArcMap)というGISプログラムと機械学習を活用して、教会が所有する土地の地図を作成し、それぞれの土地を種類別に分類して、責任ある土地管理手法を提案している。世界のカトリック教会がどれだけの土地を所有しているのか誰も正確に把握していないが、推定によると全世界でおよそ71万6000平方キロメートルにもなるという。別々の種類のデータを1つにまとめられる点で、GISは非常に強力だ。ある地域の地価、分水界、所有権の境界、土壌の種類、先住民族の土地、樹木被覆、絶滅危惧種の生息地の地図を個別に作らなくても、アークマップを使用すれば、そのすべての情報やその他の情報を「スーパーマップ」と呼ぶべき地図に埋め込めるのだ。

「人間の活動と地球の相互関係は、気候変動が突き付ける課題の解決に地図作成と分析が貢献している分野の1つです」。著名なGISソフトウェア企業、エズリ(Esri:Environmental Systems Research Institute)の創業者兼社長であるジャック・デンジャモンドは言う。バーハンズ助教授の仕事は「これらのテクノロジーをより持続可能な土地管理に応用」しており、注目に値するという。

地図情報を保護活動に活用するために、グッドランズでは、個々の教区が所有している可能性のある土地を特定することから始め、それぞれの土地を分類し(病院か大学か修養施設か、都市の平坦な土地か田舎の山がちな土地か)、その後に機械学習を利用して責任ある土地管理の方法を提案する。これによって、神父や女子修道院長、その他の意思決定権者に、そのカトリック・コミュニティにとって何が適切かを見極めるための出発点を提示している。

グッドランズが支援する決定は、植林の場所を決めるのと同じぐらい簡単なことかもしれない。ある教区が限られた予算で管轄地域の森林再生を支援したいと考えたとき、グッドランズは、GISマップを利用して、教区長が教区の所有地を理解できるようにし、環境への効果を最大化するにはどこに重点を置けばよいかを提案する。「すでに多くの林冠がある郊外の小教区に樹木を500本植えても、その効果は周囲に林冠がまったくない都市部の小教区に15本の樹木を植えるより小さくなります」とバーハンズ助教授は言う。

2015年にグッドランズが創設されて以来、バーハンズ助教授の取り組みはローマ法王や世界経済フォーラム(World Economic Forum)の目に留まったほか、国連の地球大賞若者部 …

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