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「パワポの発明」が
世界を変えた、知られざる
企業プレゼンの歴史
1987年のサーブ9000CDセダンの発売を記念して集まった2500人の聴衆は、高さ8メートルのスクリーン、大勢の合唱団、ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団、50人あまりのパフォーマーによるオペレッタを楽しんだ。(Douglas Mesney/Incredible slidemakers)
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Next slide, please: A brief history of the corporate presentation

「パワポの発明」が
世界を変えた、知られざる
企業プレゼンの歴史

かつて、スライドを使った企業のプレゼンテーションは多額の費用と手間がかかる特別なものだった。それを誰もが簡単に作れるようにしたのがマイクロソフトの「パワーポイント」だ。パワーポイントの登場は企業プレゼンを大きく変えた。 by Claire L. Evans2023.09.01

1948年は、お酒にとってはあまりいい年ではなかった。禁酒法(1920〜1933)はすでに廃止され、酒は再び買い手市場になっていた。酒造メーカーであるシーグラム(Seagram)の年次販売会議を見ても、それは明らかだった。同社の年次販売会議は、全国的な売上を伸ばすことを狙って11都市を巡回する豪華な祭典である。費用は惜しまない。ウイスキーの販売員の人生をプロの俳優が演じる2時間の舞台劇。美しい装飾が施された待合室に、ドリンクの無料サービス。だが、その最大のハイライトは「スライドショー」だった。

「シーグラム・ヴィタラマ(Seagram-Vitarama)」をただのスライドショーと呼ぶのは、あまりにも控え目な表現かもしれない。それはある種の「体験」だった。蒸留過程をとらえた数百枚もの画像が、音楽に合わせて、幅12メートル・高さ5メートルの5つのスクリーンに映し出される。「写真で構成されているのに静的ではないのです」。驚いたある参加者はこうコメントした。「全体の効果は絶大なものです」。シーグラム・ヴィタラマは、1939年のニューヨーク万国博覧会で公開されたイーストマン・コダックの展示から着想を得た企画だった。販売会議で披露された初のAVプレゼンテーションである。それが最後になるはずがない。

1940年代後半、マルチメディアはまだ目新しい存在だった。だが、1960年代初めになると、全国規模の広告予算を持つ企業はほぼすべてと言っていいほど、販売研修や宣伝、広報活動、社内コミュニケーションの一環としてマルチメディア機器を使うようになった。16ミリ映写機、スライド映写機、フィルムストリップ映写機、オーバーヘッド・プロジェクター(OHP)といった機器である。多くの企業は専属のAVディレクターを雇い、彼らは技術者であると同時に興行師でもあった。プレゼンテーションは得てして退屈なものだが、うまくやれば劇場にもできる。ビジネス界はそれを知っている。ヴィタラマの時代から現在に至るまで、企業は映像のドラマチックな力を活かして、自社のアイデアを世界に売り込んできたのだ。

次のスライド、お願いします

カシャカシャカシャというスライドの音は本来耳障りなものだ。だが、シャンパンがひっきりなしに注がれ、大音量を鳴らす音響システムが支配する空間では気にならない。集まった2500人の要人やVIPは、豪華な旅をテーマにした1時間のオペレッタで、もてなしを受ける。ステージ上では大勢の合唱団、ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団が勢揃いし、50人あまりのダンサーやパフォーマーが2台のサーブ9000CDセダンの周りを飛び回る。クロムメッキ加工された細部やレザーのシート、走行シーンなどの見事な映像が、ステージのバックにある高さ約8メートルのスクリーンを舞う。どれもこれもアナログだ。およそ7000枚のフィルム・スライドが、ずらっと並んだコダック製の80台の映写機に念入りに配置されているのだ。1987年当時、これ以上のスライドショーはないだろうと思われた。

パワーポイント以前、そしてデジタル・プロジェクターが登場するずっと前には、35ミリのフィルムスライドが王様だった。CEOなどの企業幹部が、株主、従業員、販売員向けの年次総会でインパクトの強いプレゼンテーションをしようと思えば、16ミリフィルムよりも大きく鮮明で制作コストが低く、ビデオよりもカラフルで高解像度だったスライドを選ぶしかなかった。ビジネス界で「マルチイメージ」ショーと呼ばれたこの種のプレゼンテーションを成功させるには、プロデューサー、写真家、ライブ制作スタッフなど、精鋭部隊の力が必要だった。まずショー全体の脚本を書き、絵コンテを作成し、伴走する楽曲を作らなければならない。ライブラリーから画像を選び、写真撮影を手配し、アニメーションや特殊効果を制作する。白手袋をはめた技術者が、スライドを現像してマウントし、ホコリを払ってカルーセルに入れていく。ショーを制御するコンピューターに何千ものキューをプログラムし、テストを繰り返す。コンピューターはクラッシュするし、プロジェクターの電球は切れる。スライドのカルーセルが詰まることもある。

「機械や接続、それ以外のあれやこれやを思うと、映写がうまくいっただけでも奇跡でした」。商業写真家からスライド・プロデューサーに転向したダグラス・メスニーは言う。メスニーの経営するインクレディブル・スライドメーカーズ(Incredible Slidemakers)は、80台のプロジェクターを駆使したサーブ(Saab)の発表会をプロデュースした。現在77歳のメスニーは、引退後のプロジェクトとして、今では忘れ去られてしまったスライド・ビジネスのアーカイブに取り組んでいる。メスニーは、1972年のニューヨーク・ボート・ショーで6つのスクリーンを使ったスライドを観て感銘を受け、1970 年代初めにマルチイメージ・ショーの制作に軸足を移した。ペントハウス誌や自動車雑誌のグラビアを撮影してきたメスニーは、広告クライアントへの売り込みの際に、コダックのプロジェクターを持ち込むことがあった。それが「いきなり6台ものプロジェクターパフォーマンスを見せられて、すっかりたまげてしまいました」とメスニーは回想する。

6台は始まりにすぎなかった。キャリアの最盛期にメスニーが制作したショーでは、旋回する装置に100台ものプロジェクターを固定するようになっていた。複数のプロジェクターを同じスクリーンに向けることで、継ぎ目のないパノラマ写真や複雑なアニメーションを作り出し、すべてをテープと同期させることができた。大惨事に陥るリスクは常に付きまとったが、やり通せればショーは観衆を魅了し、企業を一流に仕立て上げてみせた。メスニーはイケア、サーブ、コダック、シェルといった企業をクライアントに抱え、数十万ドル規模の制作予算を要求した。それでもマルチイメージのビジネスでは、安いほうだった。カラビナ・インターナショナル(Carabiner International)のような大手AVステージング企業は、企業総会の制作費に100万ドルを請求することもあった。レーザー光線ショー、ダンス・ナンバーに加え、ホール&オーツ、オールマン・ブラザーズ・バンド、さらにはマペット(Muppets)といった一流のタレントを起用して、一般的なマルチイメージの「モジュール」を派手に盛り立てた。「音楽バンドのライブツアーのローディー(設営スタッフ)によく例えるのですが、私はツアー・バスに乗ったことはありません」。キャリアのほとんどをカラビナ・インターナショナルのスクリーンの裏で積んできたスライド・プログラマーのスーザン・バックランドは言う。

スライド・プロデューサーの業界団体であるマルチイメージ協会(Association for Multi-Image)は、1976年の設立から1980年代半ばまでに5000人の会員を抱えるまでに成長した。最盛期 …

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