パーキンソン病患者にES細胞由来ドーパミン細胞を移植
バイエル傘下のバイオテック企業などが、12人のパーキンソン病患者の脳に、胚性幹細胞(ES細胞)由来のドーパミンニューロンを移植する治験を実施した。同社によると、現時点では症状が緩和している被験者もいるという。 by Antonio Regalado2023.09.04
あるバイオテック企業が、幹細胞医療の重要な実験の一環として、研究室で作られたニューロンを12人のパーキンソン病患者の脳に移植したと発表した。現時点では安全と見られ、一部の患者では症状が緩和した可能性があるという。
移植された細胞は、神経伝達物質であるドーパミンを生成しているはずだ。ドーパミンの不足は、パーキンソン病の悲惨な症状である運動障害を引き起こす。
「目標は、移植した細胞がシナプスを形成し、他の細胞と、まるで同じ人間から生まれた存在であるかのようにやり取りするようになることです」と話すのは、カリフォルニア大学アーバイン校の神経学者であり、本研究のリーダーの1人であるクレア・ヘンチクリフ医師だ。「大変興味深いのは、こうした細胞の送達が可能であり、宿主とのやり取りを始められるということです」。
今回の研究は、胚性幹細胞(ES細胞)技術に関するものとしては過去最大規模のものであり、かかっている費用も過去最大級だ。胚性幹細胞技術とは、IVF胚から取り出した幹細胞を使用して代替組織や臓器を作り出す手法である。論争の的であるとともに、大きな注目を浴びている。
冒頭で触れた12人を対象にした治験は、胚性幹細胞技術の手法の安全性を示すことを主目的としており、ブルーロック・セラピューティクス(BlueRock Therapeutics)がスポンサーとなっている。大手医薬品企業バイエルの子会社だ。代替ニューロンは、体外受精のプロセスによって作られたヒト胚を元にした強力な幹細胞を使って作られたものだ。
コペンハーゲンで開かれた国際パーキンソン病・運動障害疾患会議(International Congress for Parkinson’s Disease and Movement Disorder)において8月28日にヘンチクリフ医師らによって提示されたデータには、治療から1年後も移植された細胞は生き延び、患者の症状の軽減につながっていた可能性も示されている。
移植による改善を示す手がかりをもたらしたのは脳スキャンだった。患者の脳内でドーパミン生成細胞が増えたことを示していたのである。さらに別の手がかりとなったのが「オフタイム」の減少だ。オフタイムとは、実験に志願した患者たちが、1日のうち自分の症状によって動けなくなったと感じた時間のことである。
しかし、外部の専門家たちは今回の発見の解釈については慎重になるべきだとしている。示されている効果に一貫性がないように見え、一部は治療によるものではなく、プラセボ効果によるものかもしれないという。
「今回の治験によって安全に関する懸念が出ることもなく、さらに何かしら恩恵を得られる可能性があるというのは、励みになります」と話すのは、ケンブリッジ大学でパーキンソン病の研究をしているロジャー・バーカー教授である。しかし、バーカー教授は、移植された細胞が生き延びたとするエビデンス(科学的根拠)については「少々失望している」としている。
細胞が人間の頭に入ってしまえば、研究者は細胞を直に見ることはできない。代わりに、研究者は人間にドーパミンの放射性前駆体を投与し、PETスキャナーで人間の脳内に放射性前駆体が取り込まれるのを観察することで、細胞の位置を追 …
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