AIの安全性に関する米大統領令、押さえておくべき3つのポイント
米国のバイデン大統領は10月30日、AIの安全性向上を目的とした大統領令に署名した。大統領令の内容と今後の影響について、知っておくべき3つの重要事項を解説する。 by Melissa Heikkilä2023.11.14
米国政府は2023年10月30日、これまでで最も包括的な人工知能(AI)に関する規則と指針を、ジョー・バイデン大統領が発令した大統領令で公表した。AI企業に対し、開発するモデルの仕組みの透明性を高めることを求めるとともに、AI生成コンテンツのラベリングを中心に多数の新基準を設けようとする内容だ。
ホワイトハウスによると、今回の大統領令の目的は「AIの安全性とセキュリティ」の向上だという。また、開発者に対し、新しいAIモデルの安全性テストの結果を米国政府と共有し、そのテクノロジーが国家安全保障に危険を及ぼす可能性が明らかになった場合は報告することを義務づける。これは、通常は国家的緊急事態の際に適用される国防生産法を発動する驚くべき動きである。
ホワイトハウスが8月に定めたAI政策の自主的要件を前進させる内容だが、規制の方法については具体性に欠ける。大統領令は、将来の大統領がいつ覆してもおかしくないものだ。また、短期的には実現しないと思われる、AIに関する議会立法の裏づけもない。
デジタル規制を専門とするコロンビア大学法科大学院のアヌ・ブラッドフォード教授は、「議会は二極化が進み、機能不全とも言える状況で、近い将来に意味のあるAI関連法案が提出される可能性はほとんどありません」と説明する。
にもかかわらず、AIの専門家たちは、今回の大統領令を大きな前進として歓迎し、特に電子透かしと米国国立標準技術研究所(NIST)が設定した基準を強調している点を評価している。一方で、この内容ではAIによる切迫した危険から人々を守るには不十分だとの声も上がっている。
今回の大統領令の内容と今後の影響について、知っておくべき3つの重要事項を以下に挙げる。
AIが生成したコンテンツのラベリングに関する新規則とは何か?
ホワイトハウスの大統領令は、商務省に対し、AIが生成したコンテンツのラベリングの指針を作成することを義務づけている。AI企業は、この指針をもとに、連邦政府機関が採用できるようなラベリングや電子透かしのツールを開発することになる。「連邦政府機関はこれらのツールを使って、国民が政府から受け取る通信が本物であることを容易に判断できるようにする。そして、世界中の民間企業や政府にひとつの模範を示す」と、ホワイトハウスが発表後に共有したファクト・シートには記されている。
テキスト、オーディオ、ビジュアル・コンテンツの来歴をラベリングすることで、ネット上でAIを使って作られたものを把握しやすくするのが理想だ。この種のツールは、ディープフェイクやデマなど、AIの力で現実になった問題の解決策として広く提案されている。グーグルやオープンAI(OpenAI)などの大手AI企業は、ホワイトハウスと交わした8月発表の自主誓約の中で、そのようなテクノロジーを開発することを約束した。
問題は、電子透かしのようなテクノロジーはまだ完成していないということだ。現時点では、テキストにラベルを付けたり、コンテンツの一部を機械が生成したかどうかを調査したりする上で、確実と言える方法はない。AI検出ツールもまだ簡単に騙せる。
また、この大統領令は、業界や政府機関にこれらのテクノロジーの使用を義務づけるには至っていない。
10月29日のホワイトハウスと記者団との電話会談 …
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