KADOKAWA Technology Review
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スマホで遊ぶ「デジタルかくれんぼ」が中国の若者の間で流行中
Photo Illustration Stephanie Arnett/MITTR | Getty, Midjourney
This viral game in China reinvents hide-and-seek for the digital age

スマホで遊ぶ「デジタルかくれんぼ」が中国の若者の間で流行中

スマホの地図アプリを利用するデジタル版かくれんぼ「猫とネズミ」が、中国の若者の間で大流行している。毎日の通勤時に人々を案内するアプリでゲームをするとは思いつきもしなかった記者が、体験してみた。 by Zeyi Yang2023.12.03

10月下旬のある夕方、私は香港の公園で木の陰に隠れていた。警戒を怠らず、こっちに歩いてくる人たち全員に用心深く視線を走らせる。そして、数秒おきにスマートフォンをチェックし、私を捕えようとしている何十人もの人々の位置を確認した。

私は実際に危険な目に遭っていたわけではない。悪名高かった九龍の城壁都市跡地に作られた約2万8000平方メートルの公園で、40人の見知らぬ人たちと「かくれんぼ」をして遊んでいたのだ。しかし、普通のかくれんぼではなく、デジタル時代のかくれんぼだった。探す側も隠れる側も、自分のスマホの地図でリアルタイムにお互いの位置を追跡して、追いかけたり逃げたりするのである。

現地で通常「猫とネズミゲーム」と呼ばれるこの遊びは、今年中国で大流行した。毎週開かれるいくつものイベントには、全国から何千人もの人々が集まってくる。子どもの頃の遊び、対面でのネットワーク作り、最新の位置情報共有テクノロジー、そしてミームに値する体験が組み合わさった、楽しいゲームである。2月にこのゲームが初めて登場したとき、かくれんぼプレイヤーが木に登ったり、下水道に隠れたりして夢中で遊ぶ動画が、ソーシャルメディアで数百万回視聴された。

それぞれの競技会では、所定のエリア(たいていは大きな都市公園)に数十人が集まる。そして全員が中国のグーグル・マップにあたる「エーマップ(Amap)」アプリのグループに参加し、位置情報をリアルタイムに共有する。参加者の90%が「ネズミ」に指定され、5分の持ち時間の間に逃げて隠れる。5分経つと残り10%の「猫」が出動し、共有している位置情報の助けを借りて、それぞれのネズミを追い詰める。参加者たちの手首には、参加者以外の人たちと視覚的に区別するためのネオンリストバンドも巻かれている。ネズミは一旦捕まると立場が入れ替わり、ネコの仲間入りをする。そのため、残っているネズミたちにとっては、ゲームがどんどん難しくなる。

@hypnus1127 


@hypnus1127


私は先月、香港へ小旅行している間に、市内で2件の猫とネズミゲームに参加した。どちらも参加者は40人ほどで、ゲーム時間は1時間だった。最初の公園は広くて人が少なく、走ったり追いかけたりするのに最高だった。2つ目の公園はもっと狭くて混雑していたので、通行人に紛れ込むにはちょうどよかった。

インドア派の私は、集団で体を動かすアクティビティは必ずしも好きではない。だが、この2つの体験は期待をはるかに超えるものだった。位置情報の共有が加わったことで、子どもたちの遊びだったかくれんぼが、「ポケモンGO(Pokémon Go)」をよりインタラクティブにしたゲームに変わったのだ。ゲーム中ずっと同じ場所に隠れ続けようとしても、猫たちには私の居場所が常に見えているので不可能だった。私はもっと創造的に逃避計画を立てる必要があった。光るブレスレットを隠したり、単にジョギングをしているだけの人のふりをしたり、スマホをあまり頻繁にチェックしないようにしたりするなどの「ごまかし」も、良いネズミになるためには不可欠であることをすぐに学んだ。

アプリでみんなの位置を監視することだけでも、強烈な体験だった。何十体もの小さなアバターが一度に公園内をさまよい、ゲームが進むにつれて徐々に猫の数がネズミの数を上回っていった。遅延やバグはたくさんあったが、それによってゲームの楽しさと難しさが増した。あるときには、周囲に猫がいないのを確認して安心したところ、その数秒後に数十メートル向こうから猫が突然こちらに近づいてきて、パニックになった。 どうやら位置共有に遅延が生じていたらしい。

初参加としては、まあまあの成績だった。最初のゲームでは、最後の数分までネズミとして生き残った。他の参加者はほとんど全員、猫に変わっていた。2回目はゲームの途中で猫に変わり、2匹のネズミを捕まえた。

私よりずっと上手な人が何人かいたことは、素直に認める。19歳の大学生、ホン・シーチェは、2回目のゲームで終了までに11匹のネズミを捕まえて「猫王」の栄冠に輝いた。「このアクティビティは運動と遊びの両方ができるので、気に入っています」と、ホンは言う。ホンは中国のソーシャルメディアでシェアされた動画を通してこのゲームのことを初めて知り、それ以来、香港と中国本土で開催されたいくつかのゲームに参加した。最も大規模だったゲームには140人以上が参加したと、ホンは話してくれた。愛犬を公園に連れて行ったこともあり、それでもゲームに勝ったという。

成功の秘訣はなんだろうか? たくさんの嘘と策略だという。「ネズミと取り引きをして、他の小さなネズミを見つけるのを手伝ってもらえます。ネズミのふりをして、彼らとチャットすることもできます」。

ホンがゲームで出会った仲間のプレイヤーの半数は学生で、もう半数は若い社会人だった。アルティメット・フリスビーや、以前中国で流行した他のソーシャルアクティビティと同様に、猫とネズミゲームも若者同士が出会い、新しい友人を作るための素晴らしい方法と考えられている。私が香港で参加した2回のゲームでは、多くの参加者がゲーム開始前におしゃべりしているのを見た。参加者の多くは香港に来るのが初めてで、人との出会いを熱望していた。

だが、ゲームの開催はビジネスにもなっている。私が参加した2回目のゲームのように、参加者に少額の参加費(通常は10ドル以下)を課す場合もある。私が参加した2回目のゲームは、キャンプ旅行やボードゲーム、バーベキュー・パーティなどのアクティビティを毎週開催している地元グループの主催だった。

普通の地図アプリを変身させる

多くの猫とネズミゲームで、アリババ(Alibaba)製のエーマップが使われている。中国ではグーグルのサービスがブロックされていて、アップルのユーザーもそれほど多くない。そのため、エーマップは国内で特に人気のある地図アプリの1つになっており、アクティブユーザー数は毎日1億人を超える。

エーマップは少なくとも2017年から、少人数グループ内での位置情報のリアルタイム共有を可能にしてきた。近年は、グループの最大規模を100人まで拡大している。この機能はこれまで、家族がお互いの居場所を追跡したり、ハイカーが野山でお互いの場所を把握したりするといった使い方で宣伝されてきた。

おそらくポケモンGOの圧倒的な成功に触発され、エーマップもゲームでいくつか実験をしてきた。中国の数社のゲームスタジオやアリババのeコマース・プラットフォームと協力してゲームを開発し、個別またはグループ内でリアルタイムの位置情報を追跡する機能を組み込んだのだ。しかし、それらのゲームはどれも流行らなかった。今年の状況の変化は、どちらかというと偶然だったように思える。猫とネズミゲームは最初、ウィーチャット(WeChat)でプレイされていたが、プレイヤーが徐々にエーマップに移行し、デフォルトのアプリとなった。

この記事を書くにあたりエーマップに取材を申し込んだが、拒否された。しかし、同社は突然の人気に気づいている。9月以降、このアプリはプレイヤーのニーズに応える機能をいくつか導入してきた。現在、ユーザーはアプリ内で「猫とネズミゲーム・グループ」を立ち上げ、通常の上限である100人を超えるグループを作成できる。ネズミと猫の役割をランダムに割り当てることも可能だ。さらに、ユーザーがルールをカスタマイズして設定することや、捕まったプレイヤーのネズミのアバターを猫に変更するなど、以前は手作業でしていた一部のプロセスを自動化することもできるようになった。

どれもあれば助かる機能だが、必要不可欠ではないかもしれない。少なくとも私が参加した2つのゲームで主催者が使用したのは、最も基本的な機能であるグループ内位置情報共有だけだった。そもそもこのアプリにグループ機能があることを知らない者さえいた(これは、私たちがいた場所のせいもあるかもしれない。香港で他のアプリよりもずっと人気があるグーグル・マップは、2人の間での位置情報共有しかできない)。

主催者が参加者全員にエーマップの使い方を説明し、正しい設定になっているかのチェックをするのに少し時間がかかった。だが、このアプリはとても使いやすいため、私を含めグループ全員がすぐにコツをつかんだ。

私はしばらくの間、畏敬の念に打たれ、毎日の通勤時に人々を案内するアプリでゲームをするとは思いもしなかったことを反省した。しかしすぐに、そんなことを考えている暇はなくなった。猫が近づいてきたのだ。生き残るために逃げなければならなかった。

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ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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