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産油国の本音と建前が見え隠れするCOP28
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Why the UN climate talks are a moment of reckoning for oil and gas companies

産油国の本音と建前が見え隠れするCOP28

11月30日から12月12日までドバイで国連の気候変動サミット「COP28」が開催中だ。議長国となるアラブ首長国連邦は、温室効果ガスの排出源である化石燃料の取引会場としてCOP28を利用しようとしている形跡が見える。 by Casey Crownhart2023.12.06

アラブ首長国連邦は世界最大の産油国の1つだ。同国最大の都市であるドバイで、今年の国連気候変動サミット「COP28」が11月30日に開幕した。

ドバイをCOP28の開催地とする選択は、物議を醸すものであることは確かだ。しかし、石油・ガス産業には、気候変動への対処という面で大きな余力があることも事実である。石油・ガス産業が事業運営をよりクリーンなものにすれば、あるいはその巨万の富を新たなテクノロジーに投入し、専門知識を成長分野に提供すれば、気候変動対策への貢献になるだろう。もちろん問題もある。石油・ガス産業は、二酸化炭素排出量削減の進展を遅らせる力や、現状を維持させる既得権益も持っているのだ。

石油・ガス産業は世界中で1200万人近い労働者を雇用し、毎年3兆5000億ドルの収益を上げている。世界経済のうち大きな割合を占めていると同時に、化石燃料を燃やす際に発生する温室効果ガスの大量排出源でもある。

国際エネルギー機関(IEA)の新たな報告書の予測によると、世界の温室効果ガス排出量が実質ゼロになると、石油とガスの需要は2050年までに現在よりも75%減少している可能性がある。

つまり、実質ゼロとなった未来の世界でも生き残りたいのであれば、石油会社はすぐに何かを変える必要があるということだ。「石油・ガス産業は、ドバイで開催されるCOP28で、最後の審判に直面しようとしています」と、国際エネルギー機関のファティ・ビロル事務局長はプレスリリースに記している。 「世界中の石油・ガス業者は、世界のエネルギー業界における自らの将来の位置づけについて、重大な決断を下す必要があります」。

自分自身の後始末

企業が問題解決の一翼を担うとしたら、どのような方法があるだろうか? その1つが、事業運営をよりクリーンなものにするために投資することだ。

長期的には、化石燃料の使用を削減することは重大な課題となっている。しかし、特に今のところは、少なくともある程度の化石燃料は欠かせない。

2050年に世界が排出量実質ゼロを達成し、新たなプロジェクトの立ち上げに制限がかかるというシナリオが実現したとしても、重工業のようなクリーン化が困難な業界に燃料を供給するため、ある程度の石油とガスは必要だろう。良いニュースもある。私たちが使う化石燃料をよりクリーンにする方法があるのだ。

エネルギー業界は全体で、世界の二酸化炭素排出量のおよそ4分の3に関わっている。そのうちの15%は、化石燃料の採掘、加工、輸送から発生するものだ。しかし、この数字はかなり下がる可能性がある。IEAの報告書によれば、企業は既存の技術でメタンの漏出を防ぐことができる。また、施設の動力にもっと電気を使ったり、発電所に二酸化炭素回収技術を追加したりして、排出量の削減に役立てることも可能だ。

(現実的な話をすると、気候変動目標を達成するには、何らかの二酸化炭素除去手段が不可欠になるだろうが、通常通りに事業を続けながら大気から炭素を吸い取るだけでは、有効な解決策にはならない。電力需要も、現在の値より多くなるだろう。そのため、二酸化炭素除去に関する約束は、どれもうのみにしない方がいい)。

排出量実質ゼロへの動きを軌道に載せるには、石油・ガス産業が2030年までに、生産と加工から発生する排出量をおよそ60%削減する必要がある。これは急激な変化であり、実現には今後10年間で約6000億ドルのコストがかかる。

しかし、実質ゼロを達成するには、生産から発生する排出量の削減だけでは足りないだろう。そのため企業は、化石燃料の生産量を減らしながら、戦略を方向転換する方法を見つけ、新たなテクノロジーに資金と専門知識を投入する必要もある。

2015年にパリで開催されたCOP21で世界各国が合意した「パリ協定」の気候変動目標が達成されるとしたら、石油・ガスの需要は大幅に減っているはずだ。つまり、新規採掘プロジェクトへの投資を削減し、さらに既存のプロジェクトの一部を停止する必要もあるということになる。石油・ガス会社がエネルギー転換の一翼を担いながら数十年後もまだ生き残っていたいなら、戦略の焦点を見直し、いくつかの新しいテクノロジーへの投資を始める必要がある。

現在のクリーン・エネルギーへの投資額のうち、石油・ガス産業が占める割合はわずか1%で、その大半が4社だけによるものである。しかし、石油・ガス産業は今後、地熱エネルギー、洋上風力発電、低排出ガス水素などの成長分野において、主要な企業となる可能性がある。

上記の成長分野の一部は、石油やガスと重なる可能性が大きい。例えば、石油やガスの採掘のために開発された技術は、次世代の地熱発電プロジェクトにおいて重要な役割を果たす可能性がある。そのことは、ファーヴォ・エナジー(Fervo Energy)のようなスタートアップ企業が、石油・ガス業界で用いられているものと同様の手法を使用していることからも明らかである。

より大きな利害関係

しかし、化石燃料に由来する二酸化炭素排出量の削減に関しては、言っていることと、実際にやっていることの間に大きな隔たりがある。COP28で議長を務めるスルタン・アル・ジャベールは、最近いくつかのメディアからインタビューを受けているが、その話の内容からは、気候変動の現状と化石燃料の役割に関して実利主義のリアリストのような印象を受ける。

「化石燃料の段階的縮小は避けられないし、必要不可欠です」と、アル・ジャベールは今月タイム誌に掲載されたインタビューで記者に語っている。変化に賛同している人物の言葉のように聞こえるだろう。

しかし、アル・ジャベールがトップを務める石油会社は、今後数年間で1500億ドル程度を投入する大規模な事業拡張を計画している。投資の一部は再生可能エネルギーに向けられるが、同社は原油の生産能力も拡大する構えだ。

BBCと気候報告センター(Centre for Climate Reporting )の新たなニュースによれば、UAEは今年の気候変動会議を石油取引に利用するつもりだったようだ。資料で十数カ国との会議に使用される予定の議題が示されているが、この資料からは新たな化石燃料プロジェクトの開発計画があることがうかがえる。また、UAEの国営石油会社が、モザンビークやオーストラリアなどの国々で液化天然ガスを産出する機会について、中国と共同で評価しようとしていることを示す資料もあった。

この新事実こそがまさしく、気候変動について化石燃料企業が発表する約束について、まだ批判的な目を向けることが絶対に必要な理由だ。確かに、石油・ガス会社は気候変動問題の解決で一翼を担う可能性がある。気候変動対策について世界の熱が高まるにつれ、目標はますます野心的になっているように見える。その高い目標に向かい私たちが努力を続ける中で、気候会議に産油国や石油・ガス産業が参加することの重要性は、おそらく極めて高くなるだろう。

しかし同時に、私たちが気候変動で最悪の事態を回避できるシナリオを目指して努力することに、すべての人が本当に賛同しているという保証はない。

ドバイで数週間にわたって協議が繰り広げられる間、私たちはUAEの化石燃料拡大計画の新たな兆候や、気候変動の影響悪化に対処する資金を途上国に提供に関する交渉の行方を、注意深く見守る必要がある。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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