KADOKAWA Technology Review
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途上国支援で名を馳せた
P2P融資の先駆者は
なぜ変節したのか
Andrea D'Aquino
倫理/政策 Insider Online限定
What happened to the microfinance company Kiva?

途上国支援で名を馳せた
P2P融資の先駆者は
なぜ変節したのか

高額な役員報酬、不透明な手数料——。米国や欧州の裕福な人が途上国の人に小口融資を提供する非営利団体「キーヴァ(Kiva)」が揺れている。P2P融資、マイクロファイナンスの先駆者はなぜ変わったのか。 by Mara Kardas-Nelson2024.01.10

2021年8月のある朝、約10年間ほぼ毎朝そうしていたようにジャニス・スミスはPCを開いて、サンフランシスコを拠点とする非営利団体「キーヴァ(Kiva)」のWebサイト「Kiva.org」にアクセスした。キーヴァは一般の人が世界中の借り手に少額融資(マイクロローン)ができるように支援している団体だ。ミネソタ州エルクリバーに住むジャニスは、メキシコのパン屋、ウガンダの仕立て屋、アルバニアの農家のプロフィールをスクロールしながら調べた。ジャニスは、1回に25ドルを融資することで、起業的な事業に資金を提供し、貧しい人々の自助努力を支援できるというアイデアを気に入っていた。

しかし、ある朝、ジャニスはキーヴァのWebサイトが何か違うことに気づいた。借り手に請求される可能性のある推定金利などの、重要な情報が見つけにくくなっていたのだ。誰に融資するかを決定する上で不可欠なこうした情報は、前日までは簡単にアクセスできていたはずだった。ジャニスはそのページを夫のビルに見せた。彼も熱心にキーヴァで融資をしている。困惑した2人は、キーヴァで長年融資をしている知人たちに連絡を取ることにした。ブログ投稿やプレスリリース、納税申告書をくまなく調べたものの、なぜサイトがこれほど前と別物のようになってしまったか、明確な説明は見つからなかった。そしてさらに大きな変化、つまり衝撃を与える変化を彼らは知ることになった。

キーヴァは、世界中の提携企業や組織を介して個人へ少額融資をするクラウドファンディングにより、裕福なコミュニティの人々と貧しいコミュニティの人々を結び付けている。キーヴァの貸し手となる個人は利息を受け取らない。貸し手の資金はマイクロファイナンス(小口金融)組織(団体や企業など)に無料で提供され、元金のみが返される。貸し手にお金が戻ってくると分かれば、彼らはその後の融資をいとわなくなる。キーヴァはこのモデルによって1人当たりの支出を少額に抑え、マイクロファイナンスの永続的なサイクルの促進を期待している。

こうしたモデルは2005年の設立以来、非営利団体のキーヴァの根幹となっている。しかし今、スミス夫妻は状況が変わり始めているのではないかと懸念している。

スミス夫妻と知人の貸し手たちは、2019年にキーヴァがマイクロファイナンス組織に手数料を請求し始めたことを知った。キーヴァは長年、組織に無利子で資金提供をしているとしていたが、現在では資金提供の手数料が8%にも達する可能性があるということをスミス夫妻は最近になって知った。また、「キーヴァ・キャピタル(Kiva Capital)」という新しい存在についても知った。キーヴァ・キャピタルは、大規模な投資家(グーグルもその1つ)がマイクロファイナンス企業へ大規模に投資し、経済的なリターンを受け取ることを可能にしている。スミス夫妻は奇妙に感じた。彼らのような数千人もの一般的な貸し手は、10年以上にわたって無償で融資を提供してきたのに、なぜ今、グーグルはマイクロファイナンス企業に投資して利益を得ようとしているのだろうか。

キーヴァのユーザーは、キーヴァの役員への報酬が大幅に増加するにつれて、変化が起こったことに気づいた。2020年、最高経営責任者(CEO)は80万ドル以上を手にしている。キーヴァの役職上位10人の幹部の2020年の収入は、合計で350万ドル近くになる。2021年、キーヴァの収益のほぼ半分はスタッフの俸給に当てられた。

あらゆる変化と驚くような役員報酬を考慮すると、「常に出てくるのは『胡散臭い』という言葉でした」とビルは話した。「彼らの行為は合法だったのかもしれませんが、完全な透明性があるわけではないようです」(ビル)。スミス夫妻は、主に補助金や寄付に依存して存続していた組織が、今では世界に変化をもたらす方法よりも、お金を稼ぐ方法に重点を置いているように感じたのだった。

一方キーヴァは、より多くの借り手に融資を届けるためには、こうした変化が不可欠だと述べている。さまざまな懸念について話を聞いたキーヴァのキャシー・ガイス投資担当副社長はこのように語っている。「キーヴァがこれまでに、そして現在に至るすべての決定は、金融アクセスを拡大するという私たちの使命を支援するものです」。

2021年、スミス夫妻とほかの約200人の貸し手は「貸し手のストライキ」を開始した。この記事のため、懸念を抱いた十数人の貸し手(および6人のキーヴァのスタッフ)から話を聞かせてもらった。彼らは今回の変化が明確になるまで、そして理想的には変化が取り消されるまで、今後キーヴァを通じた貸し付けは1セントでも、そして組織の運営への寄付も、拒否している。

キーヴァが2005年にマット・フラナリーとジェシカ・ジャックリーによって設立されたとき、マイクロファイナンス(マイクロクレジットとも呼ばれる)の世界的なブームは最高潮に達していた。国連は2005年を「国際マイクロクレジット年」とした。その1年後の2006年、バングラデシュのムハマド・ユヌス博士と彼が1980年代に設立したグラミン銀行(Grameen Bank)が、ノーベル委員会の言葉を借りれば「下からの経済社会発展」を生み出したことによりノーベル平和賞を受賞している。東アフリカへの旅行中、フラナリーとジャックリーは素晴らしいアイデアがひらめいた。米国や欧州などの比較的裕福な個人が、タンザニアやケニアなどの比較的貧しいビジネス人に融資できるように支援することで、マイクロファイナンスを拡大してはどうだろうかと考えたのだ。彼らは、キーヴァが手助けする融資は、補助金や寄付によって賄うべきだとは考えていなかった。資金は有限であり、最終的には枯渇するだろうと考えていた。その代わり、25ドル程度の少額融資であれば、貸し手への全額返済が可能だ。

裕福な個人と貧しい人々を結び付けることは、キーヴァの「ピア・ツー・ピア(P2P)」モデルの一部だった。2つ目の部分、つまりWebサイト「Kiva.org」を介しインターネットを通じて資金を調達するというアイデアは、シリコンバレーをヒントにしたものだ。フラナリー共同創設者は家庭用テレビ録画機器など手がけるティーボ(TiVo)、もう1人のキーヴァの共同創設者プレマール・シャーはペイパル(PayPal)と、どちらもテック業界で働いていた。キーヴァは、クラウドファンディングのゴーファンドミー(GoFundMe)などの人気サイトに先駆けて立ち上げられた、最初のクラウドファンディング・プラットフォームの1つだったのだ。

しかし、キーヴァはほかのクラウドファンディング・サイトに比べて直接的ではない。貸し手はWebサイトを通じて酪農家や果物販売者のプロフィールをめくって借り手を「選ぶ」が、直接お金が借り手に送られるわけではない。その代わり、キーヴァを経由する融資はまとめられ、提携するマイクロファイナンス組織の1つに送られる。例えば、米国の誰かがモンゴルの女性を借り手に選ぶと、キーヴァは現地の組織に資金を提供し、その組織が起業を希望する女性に融資するのだ。

たとえ資金が回り道をしたとしても、個人への融資という前提が非常に効果的であることが証明された。アルメニアのパン屋やモロッコのレンガ職人に関する物語は、スミス夫妻のような貸し手が、何か大きなもの、目的と意味のあるものとのつながりを感じるのに役立っている。そして貸し手の元にはお金が返って来たので、低いリスクで気分が良くなるという大きな報酬を得ることができた。「寄付ではなく融資です」とキーヴァのWebサイトは今でも強調している。キーヴァの運営費は米国政府、民間の財団、企業からの資金提供と、個人の貸し手からの寄付で賄われており、融資に上乗せしてキーヴァの運営費用を支援することもできる。

個人とつながっているという感覚と、寄付ではなく融資の促進に重点を置いていることが、最初にジャニスを惹きつけた。ジャニスがマイクロファイナンスのことを知ったのは、ビル・クリントンの著書『Giving(与えるということ)』(2007年刊、未邦訳)がきっかけだった。その後ジャニスは、米国の俳優オプラ・ウィンフリーが発表している2010年の「オプラのお気に入り」に選ばれたKiva.orgを知ったのだった。特にジャニスは、(融資した25ドルが返済されれば)同じ25ドルを何度も貸し出せるというアイデアに惹かれた。「借り手のプロフィールを見て、特定の人を助けられると感じるのが好きでした。そのお金が、借り手ではなくマイクロファイナンス組織に渡っていると分かっても、借り手と1対1の関係であるかのように思えたのです」。

キーヴァの使いやすいWebサイトと、返済に重点を置いたコンセプトにより、この貧困層への少額融資のアイデアはさらに普及した。多くの米国人にとって、マイクロファイナンスについて聞いたことがあるとすれば、それは自分または友人、家族がこのプラットフォームを通じて融資をしたことがあるからだ。キーヴァの広報担当者によると、2023年の時点で190カ国240万人以上が実行した融資は、最終的に95カ国500万人以上の借り手に届いているという。広報担当者はまた、マイクロファイナンスの顧客1万8000人を対象とした2022年の調査についても言及した。88%の利用者が、融資やその他の金融サービスを利用するようになってから、生活の質が向上したと回答している。また4分の1が、融資やその他のサービスによって投資や事業の成長能力が高まったと回答している。

しかし、キーヴァは長年にわたり、特に透明性に関する批判にさらされてきた。Kiva.orgのユーザーとサイトで紹介されている個人の借り手との間に、実際には存在しない直接のつながりを示唆しているという明らかな問題があったからだ。また、借り手が支払う利息が開示されていないという文句もあった。当初キーヴァは、資金を提供したマイクロファイナンス組織に手数料を請求していなかったが、(組織は)個人の借り手への融資に金利をかけている。キーヴァと提携している組織は、その金利で運営コストを賄い、場合によっては利益を上げている。

批評家たちは、マイクロファイナンス組織による融資の金利が2桁をはるかに超える可能性があるこ …

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