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米国初のCRISPR療法、ライセンス契約で特許訴訟を回避
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
Vertex will pay tens of millions to license a controversial CRISPR patent

米国初のCRISPR療法、ライセンス契約で特許訴訟を回避

遺伝子編集技術CRISPRを用いた鎌状赤血球症の治療が米国で初承認された。バーテックス・ファーマシューティカルズはライバルのエディタス・メディシンとブロード研究所に数百万ドルを支払う。 by Antonio Regalado2023.12.15

バーテックス・ファーマシューティカルズ(Vertex Pharmaceuticals)は、ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学(MIT)ブロード研究所が所有するCRISPR(クリスパー)特許の使用権を購入することで合意し、遺伝子編集技術を用いた鎌状赤血球症の新たな治療法をめぐる訴訟の可能性を回避した。

この合意により、バーテックスは12月8日に承認された自社の治療法の販売を、特許侵害の申し立てを恐れることなく開始できる。この1回限りの治療薬の価格は220万ドルで、これまで販売された薬の中でも特に高価なものの1つとなる。

遺伝子編集技術CRISPRの特許(リンク先は米国版)は、2014年にマサチューセッツ州ケンブリッジにある研究機関、ブロード研究所が最も重要な用途に関する権利を獲得して以来、10年にわたる法廷闘争の中心となってきた。

カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)は、ジェニファー・ダウドナ教授とエマニュエル・シャルパンティエ教授(現在はマックス・プランク研究所に所属)がこの手法の真の発明者だと主張し、ブロード研究所の特許請求に反論してきた。2人はこのテクノロジーの研究によって、2020年にノーベル賞を受賞している。

ブロード研究所の特許の独占ライセンスは以前、競合するCRISPR編集企業であるエディタス・メディシン(Editas Medicine)に販売されていた。エディタス・メディシンは鎌状赤血球症に対する独自の治療法開発を進めている企業だ。

12月13日に発表されたエディタスとの合意に基づき、バーテックスはエディタスに5000万ドルを支払い、特許が切れる2034年まで年間1000万ドルから4000万ドルを支払うことになる。この金額の中から、主要な特許請求項に記載されている従業員が所属するブロード研究所とハーバード大学は「二桁半ば」の割合を受け取る。

MITテクノロジーレビューでは2週間前、この特許問題が山場を迎える可能性があると予測したが、関係者の間には治療の妨げになるため訴訟には至らないだろうとの見方もあった。

バーテックスの研究責任者であるデイビッド・アルトシューラーは先週、「自社の特許に関する立場に自信を持っている」とコメントしていた。しかし、その時点でバーテックスがブロード研究所の特許を使用する権利を獲得し、取引成立が間近に迫っていることを知っていたはずだ。

アルトシューラーは2015年にバーテックスに入社する前、ブロード研究所の上級副所長を務めており、特許権者に名を連ねる同センターの主要科学者フェン・チャン教授とはオフィスや研究スペースを共有していたほどだ。チャン教授は鎌状赤血球症治療の初期研究にも貢献した人物である。こうした背景から、一部の観測筋は和解の可能性が高いと見ていた。

バーテックスの広報責任者は、契約内容についてコメントすることを避けた。プレスリリースの中でエディタスは、今回得られることになった収入によって2026年までの事業資金を賄うことができると述べている。

ライセンス契約がブロード研究所とUCバークレーの熾烈な特許争いに終止符が打つものかどうかは、まだわからない。UCバークレーは依然としてライバルであるブロード研究所の主張を覆すべく、米国特許裁判所での係争を続けている。

「このライセンス契約は、ジェニファー・ダウドナ教授とチャン・フェン教授との10年にわたる論争に終止符を打つものではないように思われます」と話すのは、イリノイ大学法学部のジェイコブ・シャーコウ教授だ。「このまま終わりを迎えることになるのでしょうか。それともこのライセンス契約は単なる一過性のものなのでしょうか」

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アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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