ダンスと署名で大企業を動かす、K-POPファンの気候革命
小規模なボランティア・グループ「Kpop4プラネット(Kpop4planet)」が、世界中のK-POPファンたちの力で気候対策に取り組んでいる。製品やサービスの提供に必要な電力を再生可能エネルギーに置き換えるよう求める運動を展開しているのだ。 by Zeyi Yang2024.08.13
- この記事の3つのポイント
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- K-POPファンのグループが気候問題に立ち上がった
- ストリーミングのカーボンフットプリントに着目
- 大手テック企業に再エネ転換を要求、すでに成果も
2023年のバレンタインデーの日、5人のK-POPファンがソウル中心部のにぎやかな通りに現れた。うち1人はミツバチのコスチュームを着ていた。5人は、ボーイズバンドNCT Dreamの楽曲『Candy』に合わせて踊り始め、メッセージが書かれた横断幕を広げた。それは、韓国最大の音楽ストリーミング・プラットフォーム「メロン(Melon)」に向けたものだった。「メロン、100%再生可能エネルギーを使って、次の100年もK-POPと一緒に楽しく過ごしましょう」。
その数週間後、韓国で400万人以上のアクティブ・ユーザーを抱えるメロンは、要求通りにすると約束した。2030年までに自社のデータセンターで100%再生可能エネルギーを使うと誓ったのだ。
それは、小規模なボランティアグループ「Kpop4プラネット(Kpop4planet)」が主催したキャンペーンの集大成だった。Kpop4プラネットは、K-POPファンを動員して音楽業界のエネルギー集約的な慣行に反対し、予想外の成功を収めている。ここ数年で気候目標達成に向けた一連の行動を主導し、音楽ストリーミングのカーボン・フットプリントを削減する誓約を取り付けた。また、国際的なブランドに対しても、化石燃料を使用しないサプライチェーンへ転換するように圧力をかけてきた。
K-POPファンは長年、信じられないほどの組織力で知られてきた。世界中で数が増えるにつれ、ファンたちは影響力のある政治勢力となり、選挙の形勢を形作ったり、社会変革を提唱したりしてきた。2人の若いファン、韓国のダヨン・リーとインドネシアのヌルル・サリファに刺激を与え、2021年にKpop4プラネットを創設するきっかけになったのも、そうしたK-POPファンたちの行動だった。特に環境問題を懸念していた2人は、K-POP文化のいくつかの側面が環境問題をさらに悪化させる可能性について考え始めた。対して、過度の音楽ストリーミングは、リクエストを処理するデータセンターから音楽を再生するデバイスまで、あらゆる段階で二酸化炭素の排出を生み出す可能性がある。
「私は(当初)、物理的なアルバムの廃棄問題の方がはるかに重要だと思っていました」。現在は日本に住む21歳の大学生であるリーは話す。「しかし、少し背景を調べて、本当に驚きました。(中略)そしてストリーミングの問題の方がはるかに深刻であることに気づいたのです。ストリーミングは長期的な問題だからです」 。
もちろん、物理的な録音媒体の生産と販売にもカーボン・フットプリントが伴うが、環境問題のほとんどは最初に購入された後、そこで終わる。デジタル配信の場合、そうはいかない。英国のキール大学で実施された2019年の研究によれば、1枚のアルバムを27回以上ストリーミング再生すると、CDの生産よりも多くのエネルギーを使う可能性が高い。K-POP文化では頻繁にそのような音楽の聴き方がされ、ファンたちにはしばしば、同じ曲を繰り返し再生する「ストリーミング・パーティー」が奨励される。
ストリーミング・キャンペーンの成功によって活気づいたKpop4プラネットは最近、K-POPアイドルとのコラボレーションで利益を得てきた音楽業界以外の企業をターゲットにしている。K-POPファンたちからの継続的な支援を確保するために、再生可能エネルギーやその他の気候目標について同様の誓約をするように求めているのだ。Kpop4プラネットは、インドネシア最大の電子商取引企業トコペディア(Tokopedia)に対し、脱炭素化計画を策定するように圧力をかけてきた。また、K-POPバンドのBTSをブランド・アンバサダーとして起用しているヒョンデ(現代自動車)が、新設の石炭発電所に依存する企業からアルミニウムを調達する契約を批判し、追求してきた。これが再び、大きな勝利につながった。2024年3月にヒョンデが、アルミニウムの調達先として代わりのサプライヤーを探すことに同意したのだ。
正規のメンバーが10人しかいないグループにとって、それらの勝利は驚くべきことかもしれない。ヒョンデとメロンにコメントを求めたが返答がなかったため、方針を変更した正確な理由を知るのは難しい。しかし、リーはグループの成功は巨大なファン層の純粋な気持ちを代弁し、その要求に企業の関心を向けさせたからだと考えている。Kpop4プラネットのネット署名運動は、223カ国のファンたちから合計約6万人分の署名を集めた。そしてこのグループは、自分たちが望むものを手に入れるまで手を止めない。
「私たちは企業とK-POPファンの間の、メッセンジャー役となる必要があります」とリーは言う。「また私たちは、キャンペーン活動をより多くのグローバル企業に拡大したいと考えています。K-POPファンには、社会をより持続可能なものにするために必要な、十分な力と影響力があると信じているからです」。
「ストリーミング・パーティー」のカーボン・フットプリント
ストリーミングが音楽の聴き方の主流になったにもかかわらず、遠く離れた場所にあるデータセンターや目に見えない伝送通信におけるエネルギー消費は、エンドユーザーにとって認識しにくいままである。
「ストリーミングが特にひどいと思うのは、その悪影響が遠く離れた場所や目に見えない形で起こっているからです」。米ドレクセル大学の助教授、ジョー・スタインハートは言う。同助教授は音楽産業について研究しており、『Why to Resist Streaming Music & How(ストリーミング音楽に抵抗する理由と方法)』(2021年刊、未邦訳)の著者でもある。同助教授はストリーミングを「使い捨てのリスニング」と呼んでいる。アプリがデータをローカルに保存せず、クラウドから取得し続けるからだ。
しかし、それでもストリーミングが環境に与えるダメージは、物理的な媒体のコピーを購入するよりも大きいかどうかについて、明確な結論を出すのは難しい。実際のカーボン・フットプリントは、多くの要因に左右されるからだ。例えば、音楽や歌詞の映像をテレビでストリーミング再生すると、スマートフォンのようなエネルギー効率の高いデバイスを使う場合よりもかなり多くの電力を消費する。しかし、スマートフォン …
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