ミックステープ文化の逆襲、
スポティファイで失われた
音楽の楽しみを取り戻す方法
スポティファイは人々が望んでいると思われるものを提供することで、音楽を発見する喜びを葬ってしまったのだろうか? パーソナライズされたプレイリストではなく、自らが音楽を探すための手段を提供することで、リスニング体験の多様化を目指す動きがある。 by Tiffany Ng2024.09.13
- この記事の3つのポイント
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- スポティファイのパーソナライズは音楽発見を単純化している
- アルゴリズムは新しいものへの好奇心を失わせ人間性を排除している
- コミュニティを通じた能動的な音楽発見がアルゴリズムのバブルから脱却させる
ラジオ、レコード、カセットテープ、MP3プレーヤーの時代が終わった後、音楽のブランディングはロックやヒップホップといった大まかなジャンルから、「パラノーマル・ダーク・キャバレー・アフタヌーン」や「シンセ・スペース」といったより細分化されたジャンルへと進化し、音楽を聴く手段はストリーミングが主流となった。ラジオのDJは人工知能(AI)に取って代わられ、新しい音楽を発見する儀式は、毎週更新される30曲のプレイリストの中にコンパクトにまとめられている。音楽ストリーミングにおける唯一のルールは、現代の他の業界と同じく「パーソナライズ(個別化)」である。
しかし、便利さが増した一方で、私たちは好奇心を失ってしまった。確かに、無制限にアクセスできるおかげで、スウェーデンのトロピカル・ハウスやニュージャージーのハードコアを私たちは聴くことができる。しかし、この豊富な選択肢が、実は私たちのリスニング体験を拡張性や多様性の乏しいものにしている。
私たちのほとんどは、ストリーミング・サービス経由で音楽にアクセスしている。正確に言えば、全世界で6億人以上がストリーミングを利用している。そして、そのうちの30.5%以上をユーザーに抱え、他のストリーミング・サービスのおよそ2倍の市場シェアを持つのが、スポティファイ(Spotify)である。スポティファイは2015年に、ユーザーのリスニング習慣に合わせた選曲された革新的なプレイリスト「ディスカバー・ウィークリー(Discover Weekly)」をリリースすることで、選択肢が多すぎる問題に対する解決策として、パーソナライズされた音楽体験を提示した。
しかし、人々が望んでいると思われるものを効率的に提供することで、スポティファイは実質的に選択肢を取り除き、音楽を聴く、そして音楽を発見するという全体的な体験から人間性を排除してしまった。流通戦略コンサルタントのディストリビューション・ストラテジー・グループ(Distribution Strategy Group)が発表した2022年の報告書によると、スポティファイで配信される曲の少なくとも30%が、AIが推薦した曲である。ディスカバー・ウィークリーの成功によって、1日を通して変化する気分に合わせたプレイリストや、リスニング習慣に基づいて音楽を推薦する「音楽占い」のような機能が生まれた。アップル・ミュージックやアマゾン・ミュージックなどの他のストリーミング・プラットフォームも後に続いた。パーソナライズに対するこれらすべての考え方には、共通の欠点がある。プレイリストが互いに似ていることがあまりに多く、同じような曲のバリエーションで埋め尽くされていることだ。
スポティファイの元エンジニアで、同社の膨大な音楽ジャンルの開発に大きく貢献した、「データの錬金術師」を自称するグレン・マクドナルドは、新しい音楽にアクセスすることは技術的には容易だが、私たちの多くはそうしていないと考えている。その主な理由は、どこから探し始めればいいのか分からないからだという。
生成されたプレイリストをシャッフル再生する便利さに慣れるにつれ、私たちは、音楽の発見が能動的な活動であることを忘れてしまう。
大きすぎるアルゴリズムへの期待
マクドナルドによれば、スポティファイのパーソナライズは、同社が買収したデータインテリジェンス・プラットフォーム「エコー・ネスト(Echo Nest)」を通して曲を分解することから始まる。信号処理と音楽学者によるリスニングの組み合わせを通して、スポティファイはそれぞれの曲に約10の異なる属性(キーシグネチャー、ダンサビリティなど)を割り当ててから、曲をグループ化してライブラリーに収録する。その後、AIプログラムがそれらのバケットの中から曲を選び出し、ユーザーごとのリスニング習慣に合わせてパーソナライズされたプレイリストを生成する。スポティファイがどのように音楽を分類するかによって、私たちのプレイリストにどの曲が表示されるかが決まる。同時に、アーティストがどのジャンルに分類され、どれだけの露出が得られるかも具体化される。
マクドナルドは、私たちのリスニング習慣を、3つの同心円状のクラスターに分類する。毎日聴いているもの、普段聴いている曲と似ているもの、そして偶然見つけたすべてのものである。スポティファイが自動生成するプレイリストの曲は、ほとんどが1つ目のクラスター内の曲だけにとどまるが、時々2つ目のクラスターに踏み込むこともある。3つ目は偶発的なものだ。スポティファイは、完全に異なるものは何も提供しない。
スポティファイは、たとえ私たちが何か新しいものを聴きたいと言い出しても、結局は慣れ親しんだものに戻ってくると考えている——。マクドナルドはこう説明する。実際、「ベッドルーム・ポップ(主にドリーミーなメロディーと静かなボーカルを特徴とするジャンル)」のプレイリストにレゲエの曲を潜り込ませると、たいていは心地よさに欠けるリスニング体験になるとマクドナルドは主張する。「何か新しいものを提供されたら、奇妙に感じます。世界中のランダムな場所に3分ごとに瞬間移動させられるのは、楽しい観光旅行体験ではないのと同じことです」。
マクドナルドによれば、スポティファイは自社のデータベースにある6291のマイクロジャンルを構築するために、ソーシャルデータを利用しているという。同じアーティストのリスナーがそのアーティストの曲をどのように仕分けしているか、そして他にどのアーティストの曲を聴いているか、といったデータである。スポティファイのジャンルに絶対的な境界線はないが、ユーザーの音楽の聴き方に関する緩やかでダイナミックなコンセンサスが反映されていると、マクドナルドは説明する。重複するリスニング習慣の小さなクラスターが、これらの緩やかなカテゴリーを定義していくとともに、コンスタントなやり取りによってそれらのカテゴリーのバリエーションが生まれていく。「中心部分に位置するジャンルは誰もが理解していて、外側に行けば行くほど主観的なものになっていきます」。マクドナルドは分類プロセスを回想しながらこう話す。マクドナルドはこの音楽の風景をマッピングして、個人サイト「Everynoise.com」に掲載している。
私たちのそれぞれのリスニング習慣は、すべてを合わせて考えることで、ダイナミックなネットワークを形成する。そして、それによって私たちが集合的に音楽をどのように理解しているのか、明らかになるのだ。スポティファイの現在の使い方では、私たちを孤立したアルゴリズムのバブルの中だけに閉じ込めてしまっている。これは残念なことだ。
コンテキストとコミュニティ
パーソナライズは、大まかに言えば、インターネット上に無限に存在するコンテンツを見て回る行動の利便性を信じられないほど向上させてきた。私たちは好きなものを提供され、買うべきものを教えられ、言うべきことを指示される。音楽ストリーミング・アプリにも同じことを期待するのは当然だろう。だが、アルゴリズムを使って音楽の発見を最適化するには、私たちが望むものを明確に定義する必要がある。問題は、私たちが望むものは、私たちが偶然出くわすものによって簡単に形作られてしまう可能性があることだ。アルゴリズムに私たちの視野を広げることを求めるのは、「何でもいいよ」と言いながら、提案するメニューをことごとく却下する友人とランチをするようなものだ。「好奇心は能動的な状態のことです」とマクドナルドは言う。バブルの外に出るかどうかは、私たち次第なのだ。
熱心な音楽ファンたちは、この好奇心の感覚を再び活性化させる新しい方法を生み出しており、競争的なレコメンド・リーグからインタラクティブな音楽マップまで、さまざまなツールを構築している。ストリーミング以前、音楽を発見することは、疑いようもない感情的な見返りをもたらす作業だった。「大学時代は、友人が聴いているものは何でも聴きました」。フォーブス誌の元上級音楽編集者、ザック・オマリー・グリーンバーグは振り返る。友人とCDを交換し、何時間もかけて好きな曲とそうではない曲を決めた。その後、新しい音楽を手に入れることは、USBメモリーの中のオーディオ・ファイルを選別したり、いかがわしいWebサイトからMP3を(違法に)ダウンロードしたりする行為になった。音楽を共有することはもっと個人的なピア・ツー・ピアの体験であり、好きな人にミックステープを送ることは相当の手間がかかる愛のこもった仕事だった。音楽を共有する社会的文化は、自動レコメンド・システムに置き換えられてしまった。今日、私たちが選ぶ匿名のプレイリストは、編集され、共有されることもあるが、感情的な関わりははるかに希薄なものになっている。
音楽を個人的に薦めることは、自分の好みを明らかにすることだっため、私たちは推薦する曲と特別な利害関係があった。しかし、アルゴリズムはリスクを一切負わず、単に数学的に正いものを提供するだけだ。
「音楽ストリーミングに欠けていると私が思うことは、特定の曲を私が好きなはずであると考え …
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