KADOKAWA Technology Review
×
AI規制で120超の法案、
安全とイノベーションの
バランス模索する米議会
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Public Domain/rawpixel
倫理/政策 Insider Online限定
There are more than 120 AI bills in Congress right now

AI規制で120超の法案、
安全とイノベーションの
バランス模索する米議会

米議会で、AIに関する120以上の法案が提出されている。規制の範囲は教育から核兵器使用まで多岐にわたり、イノベーションを阻害せずに安全性を確保する方法を模索している。多くの法案は成立しないと見られるが、法案の内容からは議員らの関心がうかがえる。 by Scott J Mulligan2024.10.01

この記事の3つのポイント
  1. 米国議会では120以上のAI関連法案が審議中
  2. 法案の内容は教育から核兵器使用まで多岐にわたる
  3. 大半は可決されないだろうが政策立案者の関心事が分かる
summarized by Claude 3

現在、米国議会では人工知能(AI)の規制に関連する120以上の法案が飛び交っている。

その内容は実にさまざまだ。公立学校におけるAIに関する知識の向上を目的とする法案もあれば、モデル開発者に対してAIの訓練に使用する著作権で保護された素材の開示を求める法案もある。AIを使ったロボコール(自動音声通話)による影響の軽減に関する3つの法案や、AIによる生物学的リスクを扱う2つの法案もある。AIが独自判断で核兵器を発射することを禁止する法案さえある。

この大量の法案は、技術の急速な進歩に追いつこうと議会が必死になっていることを物語っている。「危機感があります。この問題は急速に発展しており、米国の経済にとって極めて重要であるため、問題に取り組むという強い決意があるのです」と下院科学・宇宙・技術委員会(US House of Representatives Committee on Science, Space, and Technology)の広報部長を務めるヘザー・ヴォーンは話す。

議会の仕組み上、これらの法案の大半は成立することはない。しかし、現在動きのあるさまざまな法案を見るだけで、政策立案者たちの目下の関心事を知ることができる。彼らがどこに危険性を感じているのか、各政党は何に注目しているのか、そしてより広い視点では、AIに関して米国はどのようなビジョンを追い求め、どのように規制すべきかということが浮かび上がる。

そこでMITテクノロジーレビューは、現在議会のさまざまな委員会で審議されているすべてのAI法案を追跡するツールを作成した、非営利の法律および公共政策研究所「ブレナン司法センター(Brennan Center for Justice)」の協力を得て、この大量の法案から何を学べるかを詳しく調査した。

この状況を見ると、議会はAIに関して一度に全てを処理しようとしているように見える。どの法案が実際に可決される可能性があるのかを知るためには、現在進展している法案を確認することが重要だ。

法案は通常、議会全体で採決される前に委員会、つまり議会のより小規模な組織で可決される必要がある。多くの法案はこの段階で頓挫し、その他の法案は紹介されるだけで、それ以降触れられることはない。これは、各会期には非常に多くの法案が提出され、すべてが平等に審議されるわけではないためである。党の指導者たちがある法案の可決が難しいと感じた場合、その法案は推進されないだろう。また、議会の構成にもよるが、法案の発案者は通常、その法案を可決させるために反対党の議員の支持を得る必要がある。現在の偏向した米国の政治情勢では、これは非常に困難な作業となる。

議会はこれまでもAIに関する法案を可決してきた。2020年に策定された「国家AIイニシアティブ法(National AI Initiative Act)」は「国防権限法(Defense Authorization Act)」の一部であり、この法律はAI研究に資源を投入し、AIに関する公教育と労働者訓練の支援を提供するものである。

また、現在いくつかの法案が法律化に向けて審議中だ。上院商業委員会(Senate Commerce Committee)は7月末に5つのAI関連法案を可決した。これらの法案は、AIモデルのテスト・ベッド(試験環境や評価システムなど)と自主ガイドラインを作成するため、新たに設立された米国AI安全研究所(AISI)に権限を与えることに焦点を当てたものだ。その他の法案は、AIに関する教育の拡大、AI研究のための公共コンピューティング・リソースの確立、ディープフェイク・ポルノ公開の違法化などに重点を置いている。次のステップは、これらの法案を議会日程に載せ、採決、審議、修正することになるだろう。

「米国AI安全研究所は、企業と市民社会の当事者がコンソーシアムを構築し、容易に協力できるすばらしい場です。まさに私たちが必要としているものです」とハギング・フェイス(Hugging Face)のAI研究者、ヤシーヌ・ジャーニテ博士は話す。

AI による社会規模のリスクの軽減を標榜する非営利団体「AI安全行動基金センター(Center for AI Safety Action Fund)」のヴァルン・クロヴィ常任理事は …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. A tiny new open-source AI model performs as well as powerful big ones 720億パラメーターでも「GPT-4o超え」、Ai2のオープンモデル
  2. This is the reason Demis Hassabis started DeepMind ノーベル化学賞受賞 デミス・ハサビスが語った 科学にピボットした理由
  3. Geoffrey Hinton, AI pioneer and figurehead of doomerism, wins Nobel Prize in Physics ジェフリー・ヒントン、 ノーベル物理学賞を受賞
  4. Geoffrey Hinton tells us why he’s now scared of the tech he helped build ジェフリー・ヒントン独白 「深層学習の父」はなぜ、 AIを恐れているのか?
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者は11月発表予定です。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る