タコの吸盤にヒント、くっつき放せる新技術 水中作業にも
バージニア工科大の研究チームが、タコの吸盤を模倣した新しい接着技術を開発した。水中や凹凸面などさまざまな環境で物体を掴み、放すことが可能で、海洋工事や医療分野での応用が期待される。 by Jenna Ahart2024.10.11
- この記事の3つのポイント
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- タコの吸盤を模倣した新しい接着技術が開発された
- 吸着のオンオフ切り替えにより多様な物体を巧みに操ることが可能
- 水中建設手法の改善や日常的なデバイスへの応用に期待
新しい接着技術が、自然界において特に強力な吸引力の源の1つであるタコの触手を参考にして開発された。研究者たちは、タコの強力なグリップ力と制御しながら放す技を再現し、さまざまな物体を巧みに操るツールを作成した。この技術は、水中建設手法の改善に役立つ可能性がある。また、補助グローブのような日常的なデバイスへの応用も期待できそうだ。
タコの腕に沿って並ぶ吸盤には、漏斗状器官と呼ばれる柔軟な組織構造が備わっている。タコの吸盤は、この柔らかい湾曲のおかげで、曲面、粗い表面、水中の物体など、さまざまな表面とすばやく接着したり離れたりできるのだ。
バージニア工科大学の研究者チームは、この動作を研究室で再現するために、湾曲したゴム製の柄とシリコンベースの接着膜を組み合わせた。接着膜は、柄内部のガスの圧力を増減させることで制御されている。風船の空気をポンプで出し入れするような仕組みだ。柄から空気が抜かれると膜が吸い込み、物体を掴み上げる。そして、吸い込みを制御することで、物体を放すことができる。
「湾曲した柄を組み合わせることで、難しい表面でも接触面を作り出すことができます」。アドバンスト・サイエンス誌に掲載された研究を主導したバージニア工科大学の軟質材料工学者、マイケル・バートレット准教授は言う。「吸着のオンとオフを切り替えるために膜を使うことによって、非常に多様な物体を巧みに操ることができるようになりました」。
バートレット准教授の研究チームは、貝殻や岩など、でこぼこで複雑な形の物体への吸着をテストした。接着装置は汎用性と高い精度を兼ね備えているため、研究チームはケアンと呼ばれる水中の石塔を組み立てることができた。たいてい手作業でしか達成できないタスクだ。また、岩を1週間にわたって吊り下げた後、要求に応じて放すという実験も実施され、吸着力の安定性が証明された。
「オンとオフの切り替えが可能な接着ツールは、接着テクノロジーの究極の目標です」。高分子物理学を専門とするノースダコタ州立大学の物理学者、アンドリュー・クロール教授は言う。既存の接着ツールの中には、水中でも接着力を維持できるものもあるが、このデバイスと同じような直接的な制御はできない。たとえば、粘着フィルムは手作業で貼り付けたり剥がしたりしなければならない。この新しい吸引手法と同じキャッチ&リリース方式を提供する他のツールはあるが、滑らかで平らな表面でしか使えない。
「これらのテストでは、大きな容量の物体を正確に放出することが求められました。そしてそれを何度も繰り返し実行できる能力が、私たちの求めていたことでした」。バートレット准教授は話す。
バートレット准教授らのチームは、このプロジェクトが海洋環境において特に有用になると考えている。例えば水中溶接工が、船の修理中に浮き上がってしまうのを避けるため、この吸引技術が使われるかもしれない。だが、このツールは海以外でも同様に役に立つ。手術中の医師が、組織を一時的に固定するためにこの吸引技術を使うことも可能だろう。あるいは、補装具に組み込むことで、水分や物体の形状を気にすることなく、あらゆる家庭用品を巧みに操作できるようになるかもしれない。
「この技術が、特にさまざまな日常作業で支援を必要としている人々をどのように助けることができるか、その未来についてもっと詳しく考えることに本当にわくわくしています」と、バートレット准教授は言う。
新しい吸着技術が日常的に使えるようになるには、まだ時間が必要かもしれない。クロール教授によれば、もっとスリムで耐久性が高まれば、さらに有用になる可能性があるという。設計の改良によって、この新しい接着デバイスが家庭用工具箱の新たな定番になるかもしれない。
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