KADOKAWA Technology Review
×
リチウム価格急騰で、ネバダ州に「リチウム・ラッシュ」
The Rush for Lithium Is On in Nevada

リチウム価格急騰で、ネバダ州に「リチウム・ラッシュ」

リチウムの価格が急騰している。スマホなどの携帯機器向けから、電気自動車や蓄電にまで用途が拡大し、供給が需要に追いついていないのだ。そこで注目されているのが、リチウムを豊富に含む地下水がある、ネバダ州の渓谷だ。 by Jamie Condliffe2017.03.31

金、銀、銅はこの際どうでもいい。今起きているのは「リチウム・ラッシュ」だ。

リチウムは、ほとんどの携帯機器の電力源であるリチウム・イオン電池に不可欠の材料であり、リチウムの需要は今後も高まるばかりだ。毎週のようにリチウム以外を使った高性能次世代電池のニュースを目にするが、実際には新型電池がすぐに大量生産され、市販できるわけではなく、今後しばらくはリチウム電池が使われ続ける。

現代社会では電話やコンピューターだけでなく、電気自動車や送電網に接続するような大規模の蓄電にまでリチウム・イオン電池の用途は拡大しており、リチウム電池の製造にはリチウムをもっと採掘する必要がある。もっと広い視点でいえば、クリーン・エネルギーの未来ですら、リチウム頼みだ。

リチウム・イオン電池の材料には、黒鉛やコバルト等の金属もある。MIT Technology Reviewは以前、先進国で「クリーン」なイメージのある電池の材料を確保するために、発展途上国では健康被害を伴う形で資源が採掘されていることを記事にした。鉱山労働者は命を危険にさらして働いており、記事を読めば、どんなハイテク好きでも、ラッディズム(機械に反対すること)が頭をよぎるだろう。

一方、リチウムそのものも問題に直面している。リチウムの大半は従来、オーストラリアやチリ、アルゼンチン、中国で採掘されていた。しかし現在、世界の需要を支える産出国は、リチウムを十分に供給できずにおり、リチウム価格はここ数年で2倍以上高騰している。また、リチウム取引の長期保証契約の場合、価格は従来の4、5倍にもなる。

ブルームバーグによると、採掘業者は別の場所に目を付けている。19世紀半ばに銀鉱脈が発見されて人口が急増し、ユタ準州から分離、1864年には米国36番目の州に昇格し「シルバー・ステート」の別名があるネバダ州だ。ただし、現在の採掘業者が注目しているのは、リチウムを豊富に含むクレイトン・バレーの地下水だ。価格が急騰し、採掘コストがかけられるようになったため、クレイトン・バレー一帯の帯水層を掘削し、巨大なプールにため、プール内の水を蒸発させてリチウム塩を取り出そうというのだ。

ブルームバーグによれば、最近6社以上のスタートアップ企業がクレイトン・バレーでのリチウム掘削に乗り出しており、リチウム高騰の波に乗って一儲けしようと躍起になっている。だが、岩石から採掘するのとは異なり、蒸発でリチウムを採集するのは巨大プールで大規模な化学実験をするようなもので、難しい。特に、蒸発で水分を取り除く工程は扱いが難しく、やり方を間違えれば、誰も買いたがらない低品質の結晶が作り出される。

だが、困難を克服できれば、ネバダ州は電池が多用される社会に移行するのに欠かせない原材料の新たな産出地になる。19世紀半ばにカリフォルニア州でゴールド・ラッシュが起き、鉄道の中継拠点としてラスベガス(ネバダ州最大の都市)が栄えた頃より、ずっと大きな価値をもたらすだろう。

(関連記事:Bloomberg, “電池のイノベーション うまくいかない本当の理由,” “コンゴの炭鉱労働者 自宅の床でコバルトを掘る,” “コロンビア革命軍:コカインよりスマホメーカーに金を売った方が儲かる”)

人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
タグ
クレジット Photograph by Doc Searls | Flickr
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る