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絶好調だった気候テックを襲ったトランプ・ショック、業界に激震
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock, Envato
The vibes are shifting for US climate tech

絶好調だった気候テックを襲ったトランプ・ショック、業界に激震

第二次トランプ政権が2025年1月に発足して以来、米国の気候テック関連のプロジェクトは全体として減速を余儀なくされている。ここ数年、明るい話題が続いていた業界の雰囲気が明らかに変わりつつある。 by Casey Crownhart2025.05.04

この記事の3つのポイント
  1. トランプ政権発足後、米国の気候テック業界の投資が停滞している
  2. 中止や縮小された気候関連プロジェクトが80億ドル相当に上る
  3. 今後中国がエネルギー分野でますます主導権を握る可能性がある
summarized by Claude 3

ここ数年、米国の気候テック業界は絶え間なく朗報が続いてきた。政府からの数十億ドル規模の助成金、大規模な民間資金調達ラウンド、次々と進歩を生み出す研究機関など、明るいニュースが日常的になっていた。しかし今、状況は変化し始めている。

2025年に入ってからこれまでに、約80億ドル相当の米国の気候テック関連プロジェクトが中止または縮小されている(中止されたプロジェクトの地図は、こちらの記事で確認できる)。

中には進行中のプロジェクトもあるが、これらの中止は間違いなく良い兆候ではない。そして今、我々は関税について考えなければならず、追加の費用と、さらに悪いことに、不確実性が加わっている。企業、特に多額の資金を必要とする計画を持つ企業は、不確実性を本当に好まない。正直なところ、私はまだ気候テックにとってそれほどポジティブではない環境に慣れていない。どれくらい心配すべきだろうか? 状況を見ていこう。

時として、1つのニュースが、はるかに大きなトレンドを本当に実感させることがある。例えば、私は極端な気象と地球温暖化に関する膨大な数の研究論文をずっと読んできた。だが、ハリケーンが私の母のフロリダの家の近くに来るたびに、気候変動に起因する極端な気象の脅威をずっと現実的なものに感じる。気候テックに関する最近の発表は、私にまったく同じような衝撃を与えた。

2025年2月、アスペン・エアロゲル(Aspen Aerogels)は、バッテリー火災を抑制できる材料を製造するジョージア州の新工場の計画を断念すると発表した。この知らせに私は驚いた。なぜなら、わずか数カ月前の昨年10月に、私はこのプロジェクトが米国エネルギー省から6億7000万ドルの融資を獲得したことについての記事を書いたからだ。この技術に魅了されたことと、MITテクノロジーレビューが独占的にこれを最初に報道したことの両方から、私にとって本当に興味深い記事だった。

そして現在、その計画は突然、頓挫した。アスペンは、生産の一部をロードアイランド州の工場に移管し、一部を海外に移すと述べた(私は記事執筆のために同社に質問を送ったが、返事はなかった)。

一つの事例が必ずしもトレンドを意味するわけではない。私は一度、寿司レストランで食中毒になったことがあるが、刺身を永久に断ったわけではない。しかし、悪いニュースなのは、アスペンの計画中止は多くの事例の一つに過ぎないということだ。非営利団体のE2が新しいレポートで集計したように、2025年に入って、気候関連の十数件の大きなプロジェクトが中止されている。そのようなことはめったにない。

さらに私は、気候テックのサプライチェーンへの投資を追跡するデータベース「ビッグ・グリーンマシン(Big Green Machine)」を運営しているジェイ・ターナーからいくつかの追加の情報を得た。ターナーのデータベースには、E2が考慮していないデータが含まれている。プロジェクトが遅延したり、前進したりするニュースだ。ビッグ・グリーンマシンのチームは4月19日に、ターナーが「懸念される」と呼んだ新しいアップデートをリリースした。

ドナルド・トランプ大統領が2025年1月20日に就任して以来、気候技術プロジェクトへの投資額約105億ドル相当が何らかの形で進展している。これは基本的に、26のプロジェクトが発表され、新たな資金調達を確保し、規模を拡大し、建設や生産を開始したことを意味する。

一方で、14のプロジェクトにまたがる122億ドルは、何らかの形で減速している。これは、中止されたり、大幅に遅延したり、資金を失ったりしたプロジェクト、そして倒産した企業を含む。したがって、ターナーの追跡によると、投資総額で見ると、気候テック分野における悪いニュースは良いニュースを上回っているのだ。

ここで明るい兆しを探したくなるのは無理もないことだ。それでも前進し続けているプロジェクトがあるのは確かにポジティブであり、さらに不確実な時期に突入するにつれて、一部の企業が進歩を遂げ続ける姿を見られるのを期待したい。しかし、兆候は芳しくないように見える。

今後の疑問の1つは、米国の気候技術の減速が避けられないように見える中で、それが世界の他の地域にどのように波及するかである。私が話をした複数の専門家は、これが中国にとって大きなプラスになるという点で意見が一致しているようだ。中国は、電気自動車(EV)やバッテリーなどの産業において、自国をグローバルな超大国として確立するために、積極的かつ一貫して取り組んできた。

言い換えれば、エネルギー転換は進行中だ。米国は取り残されてしまうのだろうか。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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