KADOKAWA Technology Review
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生成AIが再編する
韓国ウェブコミック産業
作家に残された仕事は?
COURTESY OF THE PUBLISHER
人工知能(AI) Insider Online限定
Generative AI is reshaping South Korea’s webcomics industry

生成AIが再編する
韓国ウェブコミック産業
作家に残された仕事は?

世界的な人気の「縦スクロールコミック」を生み出した韓国のコミック産業で今、生成AIが制作現場に進出。作画をAIに任せる作家、「魂のある絵」にこだわる若手たち、物語創作に集中したい脚本家——。AIの台頭は創造性の本質と漫画家の役割に新たな問いを投げかけている。 by Michelle Kim2025.05.08

この記事の3つのポイント
  1. 世界で人気の韓国発ウェブトゥーン産業に生成AIが進出、制作工程に変革
  2. 遺産継承や効率化にAIを歓迎する作家と、「魂のある絵」にこだわる作家で意見が分かれる
  3. 作家の役割が「創造的ディレクター」へと変化する可能性と、著作権問題など課題が共存
summarized by Claude 3

「私の頭はまだ冴えているし、手も問題なく動くので、人工知能(AI)に手伝ってもらって絵を描いたり物語を作ったりすることには興味ありません」。イ・ヒョンセ(李賢世)はこう話す。イは勇壮な負け犬野球選手たちの成長物語を描いた、独創性に富む1983年の『恐怖の外人球団』シリーズのマンファ(韓国語で「マンガ」を意味する)で知られる韓国の伝説的な漫画家だ。「それでも、私の作ったキャラクターのカッチ、オムジ、マ・ドンタクを不滅のものにするため、私はAIと手を組んでいます」。

生成AIを採用することで、イは韓国のWebマンガ産業に新たな創造的フロンティアを切り開こうとしている。今世紀に入ってマンガ雑誌が衰退して以来、ウェブコミック(縦スクロールマンガ、ウェブトゥーン)は、ニッチなサブカルチャーから世界的なエンタテインメントの主力となり、世界中で何億人もの読者を惹きつけている。イは長い間その最前線に立ち、自らの技術の限界を押し広げてきた人物だ。

イは、韓国初のプロ野球チームのひとつで、軍事独裁政権によって抑圧された国を魅了した粘り強さを持つサムミ・スーパースターズから、反逆心を持って戦う野球選手たちを描くインスピレーションを得た。この『恐怖の外人球団』シリーズは、政治的抑圧からの創造的な逃避を求める読者の間でカルト的な人気を博した。マンガの常識を覆すイの大胆な画風と映画のような構図に、読者は圧倒されたのだ。

『恐怖の外人球団』の反抗的な主人公、カッチはイの分身である。カッチは整えられていないトゲトゲの髪が特徴のタフな異端児で、たゆまぬ情熱と勇敢な心で世界に挑む、ファンの人気者だ。カッチはイの代表作のいたるところで登場し、そのたびに新たなキャラクター性を持って描かれてきた。例えば『アルマゲドン』では、エイリアンの攻撃から地球を救う超自然的な力を持つ戦士として、『カロンの夜明け』では強力な犯罪組織と戦う型破りな警察官として描かれている。何十年にもわたってカッチは、韓国の文化的アイコンであり続けてきたのだ。

しかし、イはカッチの将来を懸念している。「韓国では作家が死ぬと、その作家が作ったキャラクターも墓に埋められてしまいます」。イは、スーパーマンやスパイダーマンといった不朽のアメコミキャラクターと対比してこう語る。イが切望しているのは芸術的な不滅だ。彼は自分の作ったキャラクターが読者の記憶の中だけでなく、Webマンガのプラットフォーム上でも生き続けることを望んでいる。「私が死んだ後でも、私の世界観やキャラクターが新しい時代の人々へと伝わり、共鳴してほしいと思っています。それが私の望む不滅です」。

イは、AIがビジョンを実現する手助けをしてくれると考えている。ソウルを拠点とするWebマンガ制作会社のジェダム・メディア(Jaedam Media)と提携し、英国を拠点とするスタートアップ企業のスタビリティAI(Stability AI)が作成したオープンソースのAIアート・ジェネレーター「ステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)」を微調整して、「イ・ヒョンセAIモデル」を開発した。イが46年にわたって出版してきた5000冊のマンガのデータセットを使用して作られたこのモデルは、イの特徴的なスタイルでマンガを生成する。

イは今年、1994年に発表した自身のマンガ『カロンの夜明け』のリメイク版を、初のAI支援Webマンガとして出版する準備をしている。ジェダム・メディアの脚本家たちはこの物語を、現代のソウルで働く警察官のカッチと、彼が恋心を抱く大胆不敵な検事のオムジを主人公として、現代風にアレンジした犯罪ドラマに仕立てようとしている。イがマンガを教えている世宗(セジョン)大学の学生たちは、このAIモデルを使って作品を制作している。

このモデルによる創造プロセスは、いくつかの段階で展開される。イのAIモデルはまず、テキストプロンプト(指示テキスト)と、さまざまな動きやジェスチャーの手がかりとなる3D解剖学モデルや手描きのスケッチのような参照画像に基づいて、イラストを生成する。その後、イの生徒たちはそのイラストを集めて編集し、キャラクターのポーズを調節し、表情を調整し、AIでは作れないマンガ的な構図へと統合する。何度も改良と修正が繰り返された後、イが最終版の指揮を執り、独特のアートスタイルを加える。

「私の流儀では、キャラクターが怒っていても悲しい目つきをしていたり、喜んでいても怒っているような獰猛な目をしていたりします」とイは語る。「それは破壊的な表現であって、AIではなかなかこのニュアンスを捉えることができません。そのようなデリケートな部分は自分で作る必要があるのです」。

イは最終的に、人間の表情に対する自身の細かいアプローチを実現するAIシステムを構築したいと考えている。イの実験的AIプロジェクトが掲げる壮大なビジョンは、「イ・ヒョンセのシミュレーション・エージェント」、つまりイの創造的精神を複製する彼のAIモデルの高度なバージョンを作ることだ。そのモデルは、イのエッセー、インタビュー、そして2024年に韓国国立図書館で開催された展示のテーマにもなった彼のマンガ作品に含まれる文章のデジタルアーカイブを使って訓練され、彼の哲学、人格、価値観をエンコードするものとなるだろう。「非常に多くの作品を発表してきましたから、AIが私の多種多様な世界観を学ぶには時間がかかるでしょう」とイは言う。

このイのデジタルクローンは、彼の芸術的直感に沿って新しいマンガを生み出し、彼と同じように環境を認識し、創造的な選択をすることになるだろう。もしかしたら、はるか未来には未来人のカッチを主人公にしたシリーズが出版されるかもしれない。「今から50年後の世界をイ・ヒョンセが目にしたとしたら、どのようなマンガを作るでしょうか?」。イはそう問いかける。「これは非常におもしろい問いだと思っています」。

永続的な芸術的遺産を求めるイの探求は、テクノロジーによって推進される、より広範な創造的進化の一部だ。その出現以来、数十年間、Webマンガはストーリーテリングの芸術を変容させ、自動彩色プログラムのような新しいツール …

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