脳でタイプ、AIが代筆
ニューラリンクが
ALS患者に開いた道
ニューラリンクの脳インプラントを埋め込んだALS患者が、考えるだけでテキストをSNSに入力できるようになった。生成AIの力も借りて、コミュニケーションのスピードアップを実現している。 by Antonio Regalado2025.05.12
- この記事の3つのポイント
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- ALS患者が脳インプラントを埋め込み、考えるだけでコンピューターの操作が可能に
- 脳インプラントとAIの組み合わせにより、コミュニケーションが大幅に改善
- 一方で自己と技術の境界線があいまいになるなど、倫理的な問題も提起している
2024年11月、ブラッドフォード・G・スミスは、イーロン・マスクが所有する企業、ニューラリンク(Neuralink)の脳インプラントを手に入れた。コンピューターと一連の細いワイヤーで接続された25セント硬貨数枚ほどの厚さの装置を頭蓋骨の中に収めることで、スミスは、自分の考えでコンピューター画面上のポインターを動かせるようになったのだ。
そして先日、スミスはそのことをXへの投稿で明らかにした。
「私はニューラリンクの脳インプラントを受け取った世界で3番目の人物です。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者としては初めてで、発話できない者としても初めてです。私は自分の脳を使ってこれをタイピングしています。これが私の主なコミュニケーション手段です」と、スミスは投稿した。「何でも質問してください! 少なくとも認証済みユーザーにはすべて答えます!」
スミスの事例は、脳インプラントを介してコミュニケーションしているだけでなく、XのAIチャットボット「グロック(Grok)」の助けも得ていることで、関心を集めている。Grokは、スミスがどのように会話に加わることができるか提案しており、Xに投稿した返信のいくつかを下書きした。
この生成AIは、スミスがコミュニケーションできるスピードを速めている。だが、本当に話をしているのはスミスなのか、それともGrokなのかという疑問も投げかける。
「スピードと正確さはトレードオフの関係にあります。脳コンピューター・インターフェイスが約束していることは、人工知能(AI)と組み合わせることができれば大幅なスピードアップが可能ということです」。脳インプラントの倫理を研究しているワシントン大学の神経学者、エラン・クライン助教授は言う。
スミスは3人の子どもを持つモルモン教徒だ。教会のドッジボールの試合で負った肩の怪我が治らないことで、自分がALSを患っていることを知った。病気の進行に伴い、スミスは眼以外のあらゆる場所を動かす能力を失い、話すこともできなくなってしまった。肺のポンプ機能が停止したとき、スミスは呼吸用チューブを使って生き続けることを決断した。
2024年から、スミスは「恥知らずな自己宣伝キャンペーン」を通して、ニューラリンクのインプラント研究への参加許可を取り付けようとし始めたと、アリゾナ州の地元紙に語っている。「本当にこれが欲しかったのです」。
脳インプラント手術の前日、マスク自身が携帯電話の画面に現れ、スミスの無事を祈った。この通話を録画した映像によると、マスクは「あなたとあなたのご家族にとって、脳インプラントがゲームチェンジャーになることを願っています」と話した。
「これを頭の中に入れるのがとても楽しみです」と、スミスは目の動きを追跡する装置を使って文字を入力し、返答した。スミスはそれまでこの装置を使って、スピードは遅いもののコミュニケーションをとっていた。
スミスは脳手術を受けようとしていたが、マスクのバーチャルな登場は、もっと大きな変化が起こることを予言するものだった。スミスの脳は、はるかに大きなテクノロジーとメディアのエコシ …
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