AIブームで原子力回帰へ、
時間軸のズレは埋められるか
AIブームが加速する中、グーグル、アマゾン、マイクロソフトといった巨大テック企業が相次いで原子力分野への参入を表明している。24時間安定稼働が求められるデータセンターにとって、原子力は理想的な電力源に映る。しかし、新たな原子炉の建設には最大10年を要する一方、AIが求める電力は今後3〜5年で急増する見通しだ。 by Casey Crownhart2025.05.23
- この記事の3つのポイント
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- 大手テック企業がAIの電力需要増加に備え原子力発電に注目している
- 既存原子炉の再稼働や出力増強で短期的需要に対応する動きがある
- AIブームへの対応で現在の技術選択が長期的エネルギー構成を左右する可能性も
人工知能(AI)の軍拡競争では、すべての主要プレーヤーが原子力を導入したい考えを表明している。
この1年の間に、メタ、アマゾン、マイクロソフト、グーグルなどの企業が、立て続けに原子力エネルギー関連の発表をしてきた。既存の発電所からの電力購入契約に関するものもあれば、まだ実証されていない先端技術の推進を目指す投資に関するものもある。
それらの、どこか意外性のあるパートナーシップは、原子力発電業界と大手テック企業の双方にとって成功につながる可能性がある。テック業界の巨大企業は、安定したエネルギー供給源を必要としており、さらに多くが気候目標を達成するために低排出エネルギーを模索している。一方、原子力発電所の運営者や原子力技術の開発者にとっては、大規模で確立された顧客による資金的支援が、老朽化した発電所の稼働維持や新技術の推進に貢献する可能性がある。
「原子力には多くの利点があります」と語るのは、グーグルのクリーンエネルギー・炭素削減担当上級部長、マイケル・テレルである。特に、「クリーンで、堅固で、カーボンフリーで、ほぼどこにでも設置できる」点が魅力だという。ここで言う「堅固な」エネルギー源とは、安定的・持続的に電力を供給できるものを指す。
しかし、明らかな障害が1つ、潜在的に存在する。タイミングだ。「さまざまな時間軸でニーズが発生しています」と、原子力イノベーション・アライアンス(Nuclear Innovation Alliance)の元研究部長、パトリック・ホワイトは述べる。多くのテック企業は今後3〜5年以内に大量の電力を必要とするが、新たな原子力発電所の建設には最大で10年近くかかる可能性があるという。
次世代原子力技術の中には、特に小型モジュール炉(SMR)のように、より短期間で建設可能なものもある。しかし、迅速な実現を掲げる企業であっても、まだ1基たりとも原子炉を完成させておらず、中規模の実証炉でさえ建設には数年を要するケースもある。
このタイミングのギャップは、つまり、テック企業が原子力発電の計画を大々的に打ち出していても、実際には化石燃料に大きく依存する結果になることを意味する。石炭火力発電所の稼働が続き、さらには数十年間稼働し続ける可能性のある天然ガス火力発電所が新たに建設されるかもしれない。AIと原子力は理論的には互いの成長を後押しする関係にあるが、現実の進展スピードは報道されているよりもはるかに遅い可能性がある。
AIが求める「スピード」
米国だけでもおよそ3000カ所のデータセンターが稼働しており、現在の予測によれば、AIブームによって今後10年以内にさらに数千カ所の追加が見込まれている。ゴールドマン・サックスの最近の分析によると、この建設ラッシュによって、2030年までに世界のデータセンターの電力需要は最大165%増加する可能性がある。米国ではデータセンターのエネルギー需要が、2020年の100テラワット時未満から、2030年までに400テラワット時にまで増加し、メキシコ全土の総電力需要を上回る可能性があると、産業界と学術界で推定されている。
一部では、データセンター建設ブームが減速しつつある兆しも見られ、最近になってプロジェクトを減速あるいは一時停止する企業も現れている。しかし、国際エネルギー機関(IEA)の最近の報告書など、最も慎重な分析ですらエネルギー需要の増加を予測しており、唯一の疑問は「どの程度増加するか」である。
現在、データセンターの建設を急ぐ大手テック企業の多くは、同時に気候目標も掲げており、今後数十年以内に排出量実質ゼロやカーボンフリーの達成を誓約している。したがって、これらの企業は、どこから電力を調達するかについて深い関心を抱いている。
原子力発電は、排出削減と同時にデータセ …
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