KADOKAWA Technology Review
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マスク、アルトマン、ベゾス
——テックセレブたちが描く
未来への「危険な賭け」
Brian Stauffer
カルチャー Insider Online限定
Tech billionaires are making a risky bet with humanity’s future

マスク、アルトマン、ベゾス
——テックセレブたちが描く
未来への「危険な賭け」

AIが人類を救い、火星で新たな文明を築く——そんなシリコンバレーの夢物語を、マスク、アルトマン、ベゾスは「使命」として語る。だが天体物理学者アダム・ベッカーは、この「技術的救済」思想こそが人類への脅威だという。 by Bryan Gardiner2025.06.24

この記事の3つのポイント
  1. アラン・ケイの言葉に影響されたテック億万長者たちが人類の未来設計を使命とする
  2. アダム・ベッカーが「技術的救済のイデオロギー」と名付けた思想が危険な方向に導く
  3. テック業界の巨人たちがSF的未来像で成長追求を正当化し権力を集中させる
summarized by Claude 3

「未来を予測する最良の方法は、未来を発明することだ」——。著名なコンピューター科学者アラン・ケイの言葉だ。激励というよりは苛立ちから発せられた言葉だったが、今やシリコンバレーの起業家たちの信条となっている。自分たちこそ人類の未来を設計する者だと信じて疑わない一握りのテック億万長者たちにとっては、なおさらだ。

サム・アルトマン、ジェフ・ベゾス、イーロン・マスクといった人物たちは、短期的な目標や野心こそ異なるかもしれないが、10年後あるいはそれ以降の壮大なビジョンには驚くほどの共通点がある。彼らはこうしたビジョンを単なる技術的な目標ではなく、人類の存続に関わる使命として語っている。すなわち、人工知能(AI)を人類の利益と一致させること、世界の重大課題を解決する人工超知能(ASI)の創造、その超知能との融合による不老不死(あるいはそれに近い状態)の達成、火星への恒久的かつ自立可能な植民地の建設、そして最終的には人類の宇宙進出である。

こうした未来像を支える思想や哲学は多岐にわたるが、サイエンスライターで天体物理学者のアダム・ベッカーは、中心的な役割を果たす3つの特徴を指摘している。それは、テクノロジーがあらゆる問題を解決できるという揺るぎない信念、永続的成長の必要性への信仰、人間の物理的・生物学的限界を超えたいという宗教的とも言える執着である。ベッカーは時宜を得た新著『More Everything Forever: AI Overlords, Space Empires, and Silicon Valley's Crusade to Control the Fate of Humanity』(未邦訳)で、この3つの特徴を「技術的救済のイデオロギー」と名付け、テック業界の巨人たちがこのイデオロギーを使って人類を危険な方向に導いていると警告している。

テック億万長者たちは、こうしたSF的未来像に信憑性を与えることで、さらなる成長追求を正当化している。すなわち、ビジネスの拡大を道徳的使命と位置づけ、世界の複雑な問題を単純な技術的課題へと矮小化し、自らの望む行動のほとんどすべてを正当化できるのだとベッカーは記している。そして、こうしたビジョンから脱する唯一の方法は、それが実際には何であるかを見抜くことであると主張する。すなわち、環境破壊の継続、規制の回避、権力と支配の集中、そして今日の現実の問題を無視して明日の空想的問題に焦点を移す——そうした行為すべてを正当化するための都合の良い口実に過ぎないという認識である。

——長年にわたって多くの批評家、学者、ジャーナリストがシリコンバレーの思想や価値観を言語化しようと取り組んできました。90年代半ばには「カリフォルニア・イデオロギー」、2000年代初頭には「すばやく動き、破壊せよ(Move Fast and Break Things)」の時代があり、最近では「私には自由主義を、あなたには封建主義を」といった批判や「テクノ権威主義」という見方も出てきています。「技術的救済のイデオロギー」は、こうした一連の流れの中でどのような位置づけになるのでしょうか。 

これまでのシリコンバレー思想を説明しようとする試みと一体のものだと思います。90年代にマックス・モアによるトランスヒューマニズムの原則から始まり、反体制文化、自由至上主義、新自由主義的価値観を融合した「カリフォルニア・イデオロギー」へと続き、最終的に私が「技術的救済のイデオロギー」と呼ぶ思想へとつながっているのです。実際のところ、シリコンバレーの思考を特徴づける多くの理念は、必ずしも謎めいたものではありません。自由至上主義、政府や規制に対する反感、テクノロジーへの絶対的な信頼、そして最適化への執着といった考え方がそれにあたります。

こうした考えがどこから来て、どう関係し合っているのか——あるいはそもそも関係しているのか——を見極めるのは難しいことです。私が「技術的救済のイデオロギー」という概念を考案したのは、一見すると広範で曖昧に見える一群の思想や哲学に名前と輪郭を与えるためでした。しかし実際には、これらはベンチャーキャピタリストや経営幹部、テック業界の思想的リーダーたちが共有している世界観の中心に位置しているのです。

——読者は、おそらく本の中で取り上げているテック億万長者たちについてはよくご存じでしょ …

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