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データで見る中国のエネルギー支配、太陽光・EV・投資額で圧倒
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China’s energy dominance in three charts

データで見る中国のエネルギー支配、太陽光・EV・投資額で圧倒

中国は急速なペースで太陽光発電を設置し、電気自動車を製造し、次世代エネルギー分野全体に莫大な投資をしている。一方、米国は、同分野に対する、税額控除、補助金、融資を数千億ドル規模で削減しており、中国との差は開くばかりだ。 by Casey Crownhart2025.07.16

この記事の3つのポイント
  1. 中国が再生可能エネルギーに数千億ドルを投資し世界を主導している
  2. 米国は新税制法案でクリーンエネルギー支援を大幅削減した
  3. 中国のEV販売が世界の60%超を占め技術面でも米国を上回る
summarized by Claude 3

中国は今日、次世代エネルギー技術における支配的な勢力である。風力や太陽光などの再生可能エネルギー源を送電網に導入し、数百万台の電気自動車を製造し、エネルギー貯蔵や原子力発電などの施設を構築するために、数千億ドルを注ぎ込んでいる。この投資は中国の経済に変革をもたらし、同国を世界政治の主要なプレーヤーとして確立することに貢献している。

一方、米国では、大規模な新たな税制・歳出法案により、クリーンエネルギー技術に対する数千億ドルの税額控除、補助金、融資が削減されたばかりだ。これは従来の政策からの劇的な転換であり、誰もがエネルギー分野で中国を追いかけているかのような時期に、大きな影響を及ぼす可能性がある。

米国やその他の地域における気候技術の次なる展開について理解を深めるために、クリーンエネルギー分野において中国がいかに圧倒的な地位を占めているか、次の3つのグラフで見てみよう。

1. 中国の太陽光発電容量は米国を上回っている

 

2024年末時点で、中国は80万メガワット以上の太陽光発電設備を導入していた。青は米国、水色は中国。

中国は風力および太陽光発電の設置において絶対的な勢いを見せている。2024年末時点で太陽光発電の設置容量が900ギガワット近くに達し、この急速な設置ペースは2025年に入っても継続している。1月から5月の間に追加で198ギガワットが導入され、そのうち93ギガワット分は5月だけで導入された

参考までに、年初5カ月間のこれらの追加容量は、カリフォルニア州の送電網の2倍以上の容量に相当する。同州の再生可能エネルギー容量ではない。送電網全体である。

一方で、米国の政策転換は、太陽光発電と風力発電の新たな追加を鈍化させると予測される。税額控除やその他の支援が撤廃されることで、2020年代の終わりまでに稼働開始が予定されていた新規発電容量の多くが、遅延や中止に直面することになる。

これは重要な意味を持つ。米国で最近稼働した新しい発電容量のうち、圧倒的多数を再生可能エネルギーが占めるからだ。太陽光発電と蓄電池だけで2025年の容量追加の80%以上を占めると予想されている。つまり、風力と太陽光を減速させることは、基本的に新しい発電容量の追加を減速させることを意味する。AIによって電力需要の大幅増加が見込まれるこの時期に、である。

2. 中国は世界のEV販売の60%以上を占める

昨年、中国ではバッテリー式電気自動車とプラグインハイブリッド車の販売台数が1000万台に達した。青は米国、水色は欧州、紫は中国。ピンクはその他。

中国の電気自動車(EV)市場も急成長している。同国は現在、大きな象徴的マイルストーンに近づいており、国内で販売される新車の半数以上が電気自動車になる地点に迫っている(すでに単月ではその水準を超えており、今後数年間で年間ベースでもその水準に達する可能性がある)。

中国は、国内でこれらの車両を販売するだけでなく、欧州のような既存市場やインド、ブラジルのような成長市場の顧客を含め、世界中に輸出している。2024年時点で、世界中の道路を走る電気自動車とプラグインハイブリッド車の70%以上が中国で製造されたものである。従来の自動車メーカーの経営者にはこうした状況に注目している。フォード・モーター(Ford)の最高経営責任者(CEO)であるジム・ファーリーは、6月末に開催されたイベント、アスペン・アイデア・フェスティバル(Aspen Ideas Festival )で、中国が車両技術と価格においてどれほど先行しているかについて印象的なコメントを述べた。「中国は車載技術において米国をはるかに上回っています。米国は中国との世界的な競争の中にあり、それは電気自動車だけの問題ではありません。もしこの競争に負ければ、フォードに未来はありません」。

3. 中国はクリーンエネルギーへの投資額で世界一

2015年以降、中国は再生可能エネルギーへの支出をほぼ3倍に増やしている。青は再生可能エネルギー、水色は送電網・蓄電池、紫は原子力・その他のクリーンエネルギー、ピンクはエネルギー効率化、オレンジは低炭素燃料。

将来を見据えて、中国は依然として再生可能エネルギー、蓄電、送電網、エネルギー効率化技術に資金を注ぎ込んでいる。原子力発電への支出も世界の他の国々を上回っている。同国は2015年から2025年にかけて再生可能エネルギー発電への投資を3倍に増やした。

しかし、状況は決して固定されたものではない。実際、米国は過去1年間でバッテリー投資において中国を、非常に短期間ではあるが追い抜いた。これはサイファー(Cipher)のキャット・クリフォードが7月2日に報告した通りである。しかし、新法案による変化は、この進歩を非常にあっという間に逆転させ、中国をバッテリー製造とイノベーションの拠点として確固たる地位に押し上げる可能性がある。

本誌の記事(リンク先は翻訳中)で、マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者であるデイビッド・オーター教授は、この競争の重要性について説明した。先進製造業と技術は米国の繁栄にとって有益であり、主要産業に対する公的支援と貿易保護を整備することが、それらを維持するために極めて重要である可能性があるとオーター教授は述べている。

私は、この議論全体が米国と中国の間のゼロサム競争に関するものであってはならないと付け加えたい。しかし、多くの専門家は、米国が、将来の重要なエネルギー技術を開発するリーダーシップと能力を放棄していると論じている。

最終的に、数字は嘘をつかない。多くの指標において、中国は世界のエネルギー分野のリーダーである。問題は、それが近いうちに変わるかどうかということである。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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