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「エアコンはもったいない」と批判する人が見落としている視点
Pablo Blazquez Dominguez/Getty Image
In defense of air-conditioning

「エアコンはもったいない」と批判する人が見落としている視点

欧州を襲った熱波で2300人以上が死亡し、そのうち1500人は気候変動が原因と考えられている。エアコン普及率の低い欧州では冷房への批判が根強いが、なぜエアコンだけが悪者扱いされるのだろうか。 by Casey Crownhart2025.07.18

この記事の3つのポイント
  1. 筆者は電力消費の観点からエアコンを批判してきたが命を救う技術でもあると認めている
  2. 欧州の熱波で2300人以上が死亡しエアコン普及率が低い国々でも利用が拡大している
  3. 米国では住宅エネルギー消費に占める割合は暖房42%に対し冷房は9%である
summarized by Claude 3

私はエアコンに対して非難の指を向けることをためらったことはほとんどないと認めざるを得ない。これまで多くの記事(例えばこの記事この記事)で、エアコンが世界の電力需要に大きく寄与しており、気温の上昇に伴って今後さらに多くの電力を消費するようになると指摘してきた。

しかし、エアコンが命を救う技術であり、気候変動が進行するにつれてその必要性がさらに高まる可能性があることも、私は率直に認める。そして最近、欧州を襲った致命的な熱波を受けて、エアコンは奇妙にも悪者扱いされている。

※日本版注:本稿で「エアコン」と記されているのは、基本的に冷房機能(いわゆるクーラー)を指しており、日本で一般的に使われる冷暖房一体型の「エアコン」とは意味が異なる。

エアコンによる電力消費の増加に目を向けるべきだが、エアコンに対する嫌悪は的外れである。確かにエアコンはエネルギー集約的な技術だが、それは家庭の暖房も同様である。しかし冷房が非難されるほどに暖房が非難されることはほとんどない。どちらも快適さ、そして何よりも安全のための手段である。では、なぜエアコンだけが悪者にされるのだろうか?

6月の最終日から7月初旬にかけて、欧州各地で気温が記録的な高さに達した。この期間中に発生した2300人以上の死亡が熱波に起因するとされている。これは、異常気象の分析を専門とする学術機関「ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA:World Weather Attribution)」による初期調査によるものである。研究者らは、これらの死者のうち1500人は人為的な気候変動が原因であると突き止めた(つまり、気候変動による高温がなければ、死者は800人未満だった可能性がある)。

公式な死者数が判明するまでには数カ月かかるだろうが、これらの初期データは熱波がいかに致命的であるかを物語っている。欧州はとりわけ脆弱である。というのも、大陸北部を中心に、多くの国でエアコンが一般的に普及していないからだ。

扇風機を回し、ブラインドを下げ、最も暑い日に窓を開ける——かつてはこれで十分だった国も多かった。しかし、もはやそれでは対応できない。英国気象庁(Met Office)によると、過去10年間の英国の平均気温は1961年から1990年の平均より1.24℃高くなっている。最近の研究では、国内の住宅が不快または危険なほどの高温に達する頻度が、かつてよりも大幅に増加していることが明らかになった。

現実として、一部の地域では気温が単なる不快なレベルを超え、危険な域に達している。その結果、これまでエアコンの普及率が低かった国々を含め、世界中でエアコンの利用が拡大している。

この長期的な傾向に対する反応、特に直近の熱波への反応は、極端に感情的なものになっている。人々はSNSや論説でエアコンを非難し、多少の不快さを我慢すべきだと主張している。

さて、前置きしておくと、私は現在、米国に住んでおり、ここではおよそ90%の家庭がエアコンで冷房されている。そのため、私はエアコンにやや肩入れしているかもしれない。しかし、それでもエアコンに対するこうした主張には違和感を覚える。

私は幼少期の多くを米国南東部で過ごしたが、そこでは暑さが命に関わるものであることが非常に明白だった。気温が32°Cをはるかに上回り、湿度が高く、屋外に出た瞬間に衣服が肌に張りつくような日々が当たり前だった。

このような環境で活動したり働いたりすることは、ある人々にとっては熱中症を引き起こしかねない。たとえ直ちに健康を害さなくても、長時間の曝露は心臓や腎臓の疾患につながる可能性がある。高齢者、子ども、慢性疾患を抱える人々は特に脆弱である。

言い換えれば、エアコンは単なる快適性のための装置ではない。特定の条件下では、それは命を守るための安全対策である。このことは簡単に理解できるはずだ。実際、世界の多くの地域では、寒さから身を守るために暖房へのアクセスを当然の権利として期待している。誰だって凍えて死にたくはないのだ。

ここで明確にしておきたいのは、米国ではエアコンが多くの電力を消費している一方で、実際には暖房の方がエネルギー消費の規模が大きいという点である。

米国では、住宅の電力使用量の約19%がエアコンに使われている。これは大きな割合であり、暖房に使われる12%よりもかなり多い。しかし全体像を捉えるには視野を広げる必要がある。というのも、電力は家庭の総エネルギー需要の一部に過ぎないからだ。米国の多くの家庭では暖房に天然ガスを使っており、これは電力消費には含まれないが、当然ながら家庭のエネルギー使用には含まれる。

全体を見ると、暖房は米国の住宅エネルギー消費の実に42%を占めているのに対し、エアコンはわずか9%である。

私はエアコンを完全に擁護するつもりはない。安全を守るために必要なときにエアコン(あるいはより省エネな技術)を使用するのと、涼しい環境を好んで冷房を全開にするのとでは大きな違いがある。そして、世界的に予想されるエアコンの大量導入に対応するためには、電力網のしっかりとした計画が必要だ。

しかし、世界は変化しており、気温は確実に上昇している。もし犯人探しをするのなら、エアコンではなくその向こう側、大気に目を向けるべきだろう。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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