「撤回論文」もエビデンスに AIツールの科学利用に課題
ChatGPTなどのAIツールが撤回された科学論文を「正当な情報」として引用する問題が発覚。複数の調査で、科学研究用を謳うAIツールでも撤回論文を適切に識別できていない実態が明らかになった。 by Ananya2025.09.26
- この記事の3つのポイント
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- AIチャットボットが撤回された科学論文を引用し誤情報を提供することが複数の研究で判明した
- 一般市民の医療相談や科学者の文献調査でAIツール利用が拡大し信頼性が重要課題となっている
- 撤回データの統合や検証機能の改善が急務だが技術的制約とリソース不足が障壁となっている
一部の人工知能(AI)チャットボットが、撤回された科学論文に基づく欠陥のある研究をもとに質問に回答していることが、最近の研究で明らかになった。MITテクノロジーレビューが確認したこの調査結果は、科学研究を評価するAIツールの信頼性について疑問を提起し、科学者向けのAIツールへの投資を検討している国や産業界の取り組みを複雑化させる可能性がある。
AI検索ツールやチャットボットがリンクや参考文献を捏造することはすでに知られている。しかし、実在する論文に基づく回答であっても、それらの論文が撤回されている場合には誤解を招くおそれがある。「(チャットボットは)実際の論文、実際の資料を使って、あなたに何かを伝えています」。テネシー大学の医学研究者で、最近の研究論文の著者の1人であるウェイクアン・グー教授は述べる。しかし、利用者が回答の内容だけを見て、論文をクリックして撤回されていることを確認しなければ、それは本当に問題だという。
グー教授らのチームは、GPT-4oモデルを利用するオープンAI(OpenAI)のChatGPT(チャットGPT)に、医用画像に関する21の撤回された論文の情報に基づく質問をした。チャットボットの回答は5つのケースで撤回された論文を参照したが、注意を促したのは3つのケースのみだった。他の質問については撤回されていない論文を引用したが、著者らはチャットボットが論文の撤回状況を認識していなかった可能性があると指摘している。8月に発表された別の研究では、別の研究者グループがChatGPT-4o miniを使って、さまざまな科学分野における撤回された低品質な論文217本の質を評価したが、いずれの回答も撤回やその他の懸念について言及していなかった(今年8月にリリースされたGPT-5については、同様の研究は発表されていない)。
一般の人々はAIチャットボットを使って医学的アドバイスを求め、自身の健康状態を診断している。学生や科学者は、既存の科学文献をレビューし論文を要約するために、科学に特化したAIツールをますます使用するようになっている。このような使用は今後も拡大する可能性が高い。例えば、米国国立科学財団(NSF)は今年8月、科学研究用のAIモデル構築に7500万ドルを投資した。
「(ツールが)一般の人々に向けられている場合、撤回を品質指標の一種として使用することは非常に重要です」と、イリノイ大学アーバナ・シャンペ …
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