万引き犯をドローンで徹底追跡、米企業が小売店向けに販売へ
米国で警察向けのドローン・システムを手掛ける企業が、民間企業への販売に乗り出す。大規模小売店の敷地内にステーションを設置し、万引き犯を追跡するシステムだ。 by James O'Donnell2025.09.29
- この記事の3つのポイント
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- フロック・セーフティが警察専用から民間向けに防犯ドローンサービスを拡大すると発表
- 警察署でのドローン初動対応導入拡大に続く動きで万引き対策等での活用を想定
- プライバシー侵害や政府の令状なしデータ取得への懸念が専門家から指摘されている
米国で警察専用のドローンを開発・販売するフロック・セーフティ(Flock Safety)は、民間セクターの防犯用途にドローンの提供を開始すると発表した。小売店などでの万引き対策での活用を想定する。
導入企業は、同社のドローン格納ステーションを自社敷地内に設置する。企業が連邦航空局(FAA)から目視外飛行(BVLOS)の許可を取得していれば(近年、この許可は取得しやすくなっている)、特定の範囲内、通常は数マイル以内でドローンを飛行させることが可能になる。
「911(緊急通報)でドローンが出動する代わりに、(店内の)警報がトリガーになります」と語るのは、元警察署長で、現在フロック・セーフティでドローン・プログラムを指揮しているキース・カウフマン部長である。「それでもドローンの対応は(警察のドローンと)変わりません」。
カウフマン部長は、店舗での窃盗が発生した際に同プログラムがどのように機能するかを説明した。たとえばホーム・デポ(Home Depot、米国のホームセンター)のような店舗で、防犯チームが万引き犯が店を出るのを確認すると、屋上の格納ステーションからカメラ搭載ドローンを起動させることができる。
「ドローンは人物を追跡し、人物が車に乗り込んだら、ボタンをクリックします。ドローンでその車両を追跡し、そのまま車を追い続けます」。
ドローンの映像は、企業の防犯チームに送信され、警察署に直接自動送信されることもあるという。
同社は現在、大手小売業者と交渉中だが、まだ契約には至っていない。カウフマン部長が顧客として挙げた唯一の民間企業は、配送施設の警備にドローンを活用しているカリフォルニア州のトマト加工業者、モーニング・スター(Morning Star)だ。フロック・セーフティは今後、病院キャンパス、倉庫施設、石油・ガス施設にもドローンを売り込むつもりだ。
連邦航空局は現在、目視外飛行の承認方法に関する新たな規則を策定中であり、現在提案されているガイダンスのもとでフロック・セーフティの利用事例が認可されるかどうかは不明である点にも注目する必要がある。
フロック・セーフティによる民間セクターへの拡大は、全国の警察署がドローンを初動対応要員として配備するプログラムを次々と立ち上げている流れに続くものだ。こうしたプログラムでは、警官が現場に到着する前に、現場の映像を提供するためにドローンが派遣される。
フロック・セーフティはこの動きを主導してきたと言える。警察署は、例えばコロラド州の荒野で迷子になった少年への物資投下のようなドローン対応の成功例を主張している。しかし、これらのプログラムはプライバシーへの懸念、マイノリティ地区での過度な取り締まりへの懸念、警察署がドローン映像への一般アクセスを阻止すべきではないと主張する訴訟も引き起こしている。
ナンバープレート読み取り装置などフロックが提供する他の技術についても、トランプ政権による大規模な強制送還政策の中で、ICE(移民・関税執行局)やCBP(税関・国境警備局)といった連邦移民当局が、地方警察によって収集されたデータに容易にアクセスできることが問題視され、最近批判を集めている。
米国自由人権協会(ACLU)のプライバシー・データガバナンス部門の上級ストラテジストであるレベッカ・ウィリアムズは、フロック・セーフティの民間セクターへの拡大について「論理的なステップではあるが、間違った方向」と指摘する。
ウィリアムズは、政府が本来であれば令状が必要なデータを民間から購入できてしまうオンライン時代における、不法な捜索・押収を防ぐ合衆国憲法修正第4条の保護が徐々に侵食されていると警鐘を鳴らす。この慣行を抑制する法案は議会で停滞しており、今回の動きは問題をさらに悪化させるとウィリアムズは述べる。
「フロック・セーフティは今や監視技術のメタ(Meta)です」。ウィリアムズは、同社が取得し収益化した個人データの量を指してこう表現する。「この拡大は非常に恐ろしいことです」。
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- ジェームス・オドネル [James O'Donnell]米国版 AI/ハードウェア担当記者
- 自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。