気候テック10:欧州でトラックのEV化を牽引するトレイトン
世界有数の商用車メーカーであるトレイトンは、欧州での電動トラックの需要拡大に備え生産を拡大している。 by Amy Nordrum2025.10.07
- この記事の3つのポイント
-
- トレイトンが2025年前半に世界で1250台の電動トラックを販売し昨年同期の2倍を記録した
- 欧州では2040年までにディーゼル・トラック新車生産が段階的廃止され電動化が加速している
- 電動トラック普及には高コストと充電インフラ不足の課題があり競争激化が予想される
欧州が大型ディーゼル・トラックを段階的に廃止する中、トレイトン(Traton)は電動モデルの生産体制を整えている。同社はまた、欧州全域での電動貨物輸送の拡大を進めるため、数百台の公共充電器の設置にも協力している。
毎日、トラックは世界中の道路や高速道路で何百万トンもの貨物を運んでいる。そのほぼすべてがディーゼル・エンジンで動いており、商業分野における巨大な二酸化炭素排出源の一つとなっている。トレイトンはこの分野の浄化に貢献する可能性のある多様なゼロエミッション・トラックを製造しており、同時に他のメーカーが追随できるように、欧州全域の先進的な充電ネットワークにも投資している。
特に欧州では、次の10年間で電動トラックの導入が大幅に成長する可能性がある。新たなCO₂排出基準により、ディーゼル・トラックの新車生産は2040年までに段階的に廃止される予定だ。新車のトラックが一般的に約15年間運用されることを考えると、より多くの所有者が次回の購入で電動モデルを検討するだろう。
現在、トレイトンは変革期にある企業である。フォルクスワーゲン(Volkswagen)の子会社として、スカニア(Scania)、MAN、インターナショナル(International)を含む商用車ブランドを傘下に持つ。化石燃料で動く従来型のトラックの製造を続ける一方で、EV分野で急速な進歩を遂げている。例えば、スカニアの長距離電動セミトレーラーには、一度の充電でおよそ350マイル(約563キロメートル)走行できる車種がある。
同社のEVモデルは販売面でも勢いを増し始めている。2025年前半、トレイトンは世界で1250台の電動モデルを販売した。これは昨年同期の2倍にあたり、ライバルのボルボ(Volvo)に肉薄する。トレイトンは現在生産を拡大しており、MANは最近、電動トラックとディーゼル・トラックの組み立てに互換性をもたせた新しい工場ラインを開設した。業界の成功にとって重要な鍵となるコスト削減に役立つはずだ。現在、電動トラックの価格はディーゼル・トラックの数倍高い場合がある。
さらに、トレイトンはミレンス(Milence)と呼ばれる業界パートナーシップを通じて、欧州全域に数百台の公共利用可能な充電器を設置する取り組みをしている。このグループはまた、大型トラックに1メガワット以上の電力を供給できる高出力充電器にも投資しており、トラックを45分以内に再充電できる(比較として、現在乗用車で利用可能な急速充電器は50から350キロワットの電力を供給する)。
基本データ
- 業界:電気自動車
- 設立:2015年
- 本社:ドイツ、ミュンヘン
- 注目すべき事実:トレイトンの子会社の1社は米国とカナダの主要なスクールバス製造業者で、2021年に初の電動スクールバスをデビューさせた。
潜在的なインパクト
貨物輸送は世界の温室効果ガス排出量の約8%を生み出している。その汚染の大部分(65%)はトラックとバンから来ており、貨物船、列車、飛行機を合わせた量よりも多い。世界経済フォーラム(WEF)は、道路貨物輸送の需要が2050年までに3倍になると予想している。
電動トラックは、製造に必要な採掘と製造プロセスにおいて気候への影響を与える。それらに電力を供給する電力源(再生可能エネルギーか化石燃料か)も重要である。それでも、現在欧州で運用されている電池式電動トラックは、非営利団体である国際クリーン交通委員会(ICCT:International Council on Clean Transportation)の分析によると、ディーゼルトラックと比較して排出量を平均63%削減している。
気候変動を緩和するため、ICCTは世界の全ての主要市場が2040年までにゼロエミッション・トラックのみの販売への完全移行が必要だと述べている。昨年、約9万台の電動トラックが世界で販売されたが、前年の総トラック販売に占める割合は2.5%未満だった。しかし市場の力はこの移行を加速させる準備ができているようだ。トレイトンは小規模ながら成長を続けている。
現在、電動トラックの生産と販売では中国が世界をリードしている。しかし欧州では、EUが大型車メーカーに対し、2040年までに車両のCO₂排出量を90%削減することを要求し、達成に向けて段階的な目標を設定しているため(その最初の目標が7月に発効した)、販売は今後増加すると予想される。
留意点
サプライチェーンと充電インフラが構築される中、電動トラック業界はまだ初期段階にある。大型電動トラックには電気乗用車の4〜6倍のバッテリー・パックが必要で、十分なバッテリーを確保することは、バッテリーの大部分が生産される中国以外に拠点を置く多くのEV企業にとって特に困難であることが証明されている。
このリスクを軽減するため、トレイトンはスウェーデンのセーデルテリエとドイツのニュルンベルクの施設から始めて、独自のバッテリー生産を構築している。年間5万個のバッテリー・パックを製造する計画で、これは約1万台の大型トラックに電力を供給できる(同社は現在トラックで使用されているバッテリーのうち中国製の割合については言及を控えた)。
米国で事業を展開する同社の「インターナショナル」ブランドは、トランプ政権が車両の温室効果ガス排出基準を全て撤廃する方向に動く中、関税の影響を受け、需要が落ち込む可能性がある。
いずれにしても、競争は激しくなるだろう。欧州の主要トラックメーカーは全て電動モデルを提供しており、中国企業はすでに国際的に拡大し、電動バスの販売を通じて南米などの市場で強固な顧客基盤を築いている。
次のステップ
現在、MANは年末までに新製造ラインから1000台の電気トラックを納入する目標に取り組んでいる。スカニアはメガワット充電器に対応した初の大型トラックの販売を2月に開始し、年内に納入を開始する予定だ。メガワット充電器はミレンスを通じて、現在スウェーデン、ベルギー、オランダの3拠点に設置されており、まもなくさらに5拠点に設置される予定だ。
- 人気の記事ランキング
-
- It’s surprisingly easy to stumble into a relationship with an AI chatbot ChatGPTと親密関係、9割超が意図せず発展=MIT調査
- Fusion power plants don’t exist yet, but they’re making money anyway 稼働ゼロでも巨額調達、なぜ「核融合」に資金が集まるのか?
- This giant microwave may change the future of war 群ドローンを一斉無力化、 米軍注目のマイクロ波兵器は ミサイル防衛よりも高コスパ
- Microsoft says AI can create “zero day” threats in biology AIが危険タンパク質を「再設計」、DNA検査すり抜け=MSが警鐘

- エイミー・ノードラム [Amy Nordrum]米国版 企画編集者
- ニューヨークを拠点とするMITテクノロジーレビューの企画編集者。新興技術とそれが私たちの世界をどう形作るのか、独創的なアイデアや意見を発掘して発表することに注力している。以前は、IEEE Spectrumのニュース責任者を務めていた。