優れたテクノロジーは世界を変えるべきである:26年版「10大技術」発表にあたって
テクノロジーは善のための強力な力となり得る。同時に、有害なアイデアを大量生産する巨大な工場にもなり得る。MITテクノロジーレビューはこの両面を念頭に置いて、2026年の「世界を変える10大技術」を選定した。 by Mat Honan2026.02.10
「我々は空飛ぶ車を約束された。なのに手にしたのは140文字だった」——。億万長者の投資家、ピーター・ティール(あるいは彼のゴーストライターかもしれない)はかつてこう述べた。

この皮肉の効いた一言は、2011年に彼のベンチャーファンドのマニフェストに初登場したものだ。まあ、優れた投資会社にはマニフェストがつきものだろう?このマニフェストが掲げたのは、つまらない凡庸なソーシャル系スタートアップに手を出すくらいなら、リスクを取ってでも世界を変えるような技術に賭けるべき、という主張だった。ところがその後にやって来たのは、さらに平凡な10年だった。メッセージ・アプリ、配車サービス、民泊、食料品の宅配、ブリトーの出前、チャットアプリ、写真共有アプリの乱立、ゲーム、生搾りジュース自販機、そして……「Yo」。あなたは覚えているだろうか? 「Yo」のことを。
(日本版注:Yoは「Yo」というプッシュ通知を送るだけのスマホアプリ。2014年に一時大ヒットし、巨額の資金を調達したことで話題になった)
あの時代は、真の技術的ブレークスルーではなく、ビジネスモデルの「破壊」によって特徴づけられていた。科学的なイノベーションに少しでも近づこうとした、最も野心的で注目されたスタートアップが「セラノス(Theranos)」だった……というあたりで、いろいろと察してしまう。2010年代は、テック業界に対してシニカルになるには十分すぎる材料を提供した。そしてついには、テクノロジー楽観主義は後退し、「テクノロジー懐疑主義」が時代の空気になった。ここ15年の「破壊」の多くは、世界を良くするためというより、サンフランシスコの裕福な若者のわがままを叶えるためのものだったのではないか。確かに、テック業界は一部の個人にとてつもない富をもたらした。しかし、我々の暮らしのあらゆる面に触手を伸ばすような巨大テック企業が、これほどの力を持つべきかは、あらためて考える必要がある。
とはいえ、テック業界への反発に共感しつつも、テクノロジーには善の力があると信じることも、ちゃんと両立できる。我々には、この地球をもっと健康に、住みやすく、公平で、より良い場所にするツールを作る力がある。少なくとも、その可能性はある。
そして実際、そうした可能性を現実に変えようとしている人々がいる。キラキラした起業家界隈のバカ騒ぎの裏側には、着実に進歩を遂げている根源的な技術がある。量子コンピューター、知能機械、炭素回収、遺伝子編集、核融合、mRNAワクチン、新材料の発見、人型ロボット(ヒューマノイド)、大気中からの水の回収、ロボタクシー。そして――空飛ぶクルマ。eVTOLという言葉を聞いたことはあるだろうか?「電動垂直離着陸機(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)」という意味で、滑走路なしで離着陸できる小型電動飛行機のことだ。つまり、空飛ぶクルマだ。もう売っている。いますぐ買える。(がんばって!)
『宇宙家族ジェットソン』の世界が、すでにここにある。
MITテクノロジーレビューでは毎年、世界を根底から変える可能性のある「10大技術」を選出している。もちろん、その変化が常にポジティブとは限らない(たとえば、ウクライナの空を暗く染め続けている安価な軍用ドローンについて取り上げた2023年版のリストを見てほしい)。それでも我々は、基本的に「良い方向への変化」について語っている。病気を治し、気候変動に立ち向かい、宇宙で暮らす未来。どうだろう? 悪くない話に思えないだろうか?
ことわざにもあるように、「2つのことが同時に真実であり得る」。テクノロジーは、世界に善をもたらすリアルで力強い存在になり得る一方で、誇大宣伝とナンセンスと有害なアイデアを大量生産する工場にもなり得る。我々は、いつもこの両面を忘れないようにしている。好奇心と懐疑心のバランスを取りながら、テーマに向き合っている。
しかし、ときに、その対象に心を奪われ、畏敬の念すら抱く瞬間があるのも事実だ。我々が直面する課題は、数も多ければ、スケールも大きい。時に、それは「ハイパーオブジェクトの中のハイパーオブジェクト」のように思える。しかし、1世紀前の人々も、人口増加と食糧危機、感染症という脅威を前にして、同じように感じていた。50年前には、有毒な大気汚染と、文字どおり「大気の穴」を前にして、同じ絶望があった。テック業界の人間がいろいろと見当違いなことを言っているのは確かだが、それでも「大きくつくれ」というマニフェストには一理ある。我々には、問題を解決する力がある。解決しなければならない。そして未来の、もっと静かで、もっと慎重な局面において、きっと我々はそれをやってのけるだろう。
- 人気の記事ランキング
-
- This company claims a battery breakthrough. Now they need to prove it. すべてのパラメーターが矛盾——「出来すぎ」全固体電池は本物か?
- OpenAI’s “compromise” with the Pentagon is what Anthropic feared アンソロピック排除の裏で進んだオープンAIの軍事契約、その代償は
- AI is rewiring how the world’s best Go players think 「アルファ碁」から10年、 AIは囲碁から 創造性を奪ったのか
- How uncrewed narco subs could transform the Colombian drug trade 中には誰もいなかった—— コカイン密輸組織が作った 「自律潜水ドローン」の脅威
- マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
- MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。