中には誰もいなかった——
コカイン密輸組織が作った
「自律潜水ドローン」の脅威
コロンビア沿岸警備隊が拿捕した潜水艇のハッチを開けると、乗組員はゼロ、操舵輪もなかった。代わりにあったのは、スターリンクのアンテナとアマゾンで買えるオートパイロット装置だ。自律型コカイン密輸の幕開けか——世界の司法当局が注視している。 by Eduardo Echeverri López2026.02.27
- この記事の3つのポイント
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- コロンビア軍が2025年4月に発見した12メートルの潜水艇は、麻薬カルテルが製造した初の無人麻薬密輸潜水ドローンだった
- スターリンク端末とオートパイロットを搭載した無人潜水ドローンは、乗組員のリスクなしに長距離輸送を可能にする
- 司法当局は電子戦やサイバーツールによる対抗手段を模索するが、密輸組織の技術革新が一歩先行している現状がある
2025年4月の晴れわたった朝、コロンビア軍の運用する偵察機が、タイロナ国立公園のすぐ沖合の海をゆっくり移動する約12メートルのサメのような影を発見した。それは紛れもなく、麻薬カルテルがコカインを北へ運搬するために使用している「麻薬密輸潜水艇」だった。船体をほぼ完全に水中に沈めて航行する、ステルス性の高いグラスファイバー製船舶である。偵察機の乗組員が無線を入れると、やがて近くの沿岸警備船が、日常的だが緊急の命令を受けた。「拿捕せよ」。
現場から約240キロメートル離れた港湾都市のカルタヘナで、地域沿岸警備隊の司令官であるハイメ・ゴンサレス・サムディオ大佐は机に向かって座り、次の展開を見守っていた。コンピューターのモニター上で、巡視船を表す複数のアイコンが潜水艇の位置座標へと急行する中、巡視船の乗組員たちから無線の大きな音で最新情報が飛び込んできていた。これらはすべて標準的だった。
コロンビアは世界最大のコカイン生産国であり、同国海軍は何十年にもわたり麻薬密輸潜水艇を拿捕してきた。そのため、大佐はどのような結果になるかをかなり確信していた。乗組員たちは、水面上にわずかに姿を現している潜水艇に追いつくだろう。そして、潜水艇を停止させ、乗り込み、ハッチをこじ開け、ディーゼル排気ガスと湿気が混じった中で息苦しそうにしている2人、3人、あるいは4人の消耗した男たち、および数トンのコカインが収納された貨物室を発見するだろう。
巡視船が潜水艇に追いついた。巡視船乗組員が潜水艇に乗り移り、ハッチをこじ開け、潜水艇が安全であることを確認した。しかし、それから後は事情が異なっていた。
まず、無線から次のような意外な詳細が聞こえてきた。潜水艇にコカインは積まれていなかった。乗組員もおらず、舵もなく、人が横になるスペースさえなかった。代わりに、船体内に見つかったのは、燃料タンク、オートパイロットシステムと制御電子機器、遠隔監視用のセキュリティカメラだった。巡視船乗組員たちは、カルタヘナへ写真を送信し始めた。それによると、船体には別のカメラがあり、それぞれがベーキングトレーのサイズほどの2つの長方形のプラスチック部品がボルトで取り付けられていた。その部品は、スターリンク(Starlink)衛星インターネットの接続用アンテナであった。
当局は潜水艇をカルタヘナに曳航し、そこで軍の技術者たちが念入りに調査をした。数週間後、彼らは不気味な結論に達した。これはコロンビアで初めて確認された無人の麻薬密輸潜水ドローンであった。遠隔操縦可能だが、ある程度は自律航行も可能であった。技術者たちはこの潜水ドローンが、カリブ海沿岸で活動する有力犯罪組織クラン・デル・ゴルフォが建造した試作機である可能性が高いと結論づけた。
何十年もの間、手作業で作られた麻薬密輸潜水艇は、コカイン取引において最も捕まりにくく、生産性の高い主力運搬手段の一つとなっている。これまでに、コロンビアの河口から北米、そしてますます世界の他の地域の市場に向けて数トン規模の違法薬物を運搬してきた。現在、スターリンク端末、プラグアンドプレイ式の航海用オートパイロット、高解像度ビデオカメラといった市販テクノロジーが、あの追いつ追われつのゲームを新たな段階へと進めている可能性がある。
無人潜水ドローンはより多くのコカインをより長い距離輸送可能であり、密輸組織の人員を逮捕の危険にさらすこともない。世界中の司法当局は、タイロナの潜水ドローンが将来的に何を意味するのか、「単なる孤立した実験なのか、それとも海上における自律型の麻薬密輸の新たな時代の幕開けなのか」という問題に取り組み始めたばかりだ。
麻薬密輸組織は海を好む。「麻薬の密輸は合法ルートと違法ルートで可能です」と、コロンビア海軍大佐で、多機関・多国籍の麻薬対策活動オリオンの作戦調整センター長を務めるフアン・パブロ・セラーノが語る。世界商業の中心にある巨大コンテナ船は、密輸組織のお気に入りの方式であると、セラーノは言う。港湾労働者と検査官の連鎖に賄賂を渡し、何千もの貨物コンテナの一つに積み荷を隠し、欧州や北米に向かう完全に合法な商業船舶に積み込む。このルートは、何カ月もの輸送と広範なネットワークの全体にわたる賄賂が必要となり、時間とコストがかかるが、リスクは比較的低い。「1隻の船舶は5000個のコンテナを運搬可能です。運が良ければ、ちょうどよいコンテナが見つかります」とセラーノは述べる。
合法性ははるかに劣るが、非常に短時間で低コストなのが、小型で強力なモーターボートを利用する方法だ。短期間で建造可能、かつ乗組員コストの低いこうした「高速ボート」は、全長が最長でも約15.2メートルをわずかに下回り、小さな積み荷を数日でなく数時間で輸送可能である。しかし、沿岸監視レーダーやパトロールに簡単に見つかってしまう。
潜水艇、より正確には「半潜水艇」は、その中間に位置づけられる(この記事では以降、潜水艇と記述する)。建造には覆いのないスピードボートより高いコストと高度な工学技術が必要となるが、ステルス性が売りだ。船体をわずかに水面上に出して航行するが、大部分は水中に潜んだままである。これは、密輸組織がリスク、時間、コストという3つの変数にわたりバランスを常に調整しているポートフォリオに、別の選択肢を加える。1990年代初頭に米国とコロンビアの当局が航空ルートと商業海運に対する管理を強化すると、潜水艇の魅力が高まった。
初期の潜水艇は粗削りな木製の船体に、グラスファイバー製のシェルと追加の燃料タンクを装備しており、マングローブの河口で人目につかないように急いで雑に組み立てられた。現在のグラスファイバー製の潜水艇は、1回で数トンの積み荷を数日間輸送可能なディーゼルエンジンを使用し、船体の大部分が水面下を航行して、レーダーや赤外線センサーにはさざ波と高温の排気管ぐらいしかさらさない。
ほとんどの潜水艇は南米の海岸から中米やメキシコの受け渡し地点へ輸送し、そこで同盟関係にある犯罪組織が貨物を分割して徐々に米国へと流していく。しかし、現在でははるか遠方まで航行する潜水艇もある。2019年にスペイン当局は、ブラジルから27日間をかけて大西洋を横断した潜水艇を拿捕した。ソロモン諸島の警察は2024年に、アジア太平洋地域で初めてとなる麻薬密輸潜水艇を発見した。この潜水艇はおそらくコロンビアを出発してオーストラリアかニュージーランドに向かう途中であ …
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