やっぱり過剰な期待だったサイケデリック薬、うつ病治療の実力は?
「サイケデリックはクールです。文化的にも刺激的です」——研究者自身がそう認める通り、シロシビンへの期待は科学的根拠以上に膨らんできた。だが新たな2つの研究は、従来の抗うつ薬と大差ない結果を示している。 by Jessica Hamzelou2026.03.22
- この記事の3つのポイント
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- サイケデリック薬物は対抗文化の象徴から臨床研究の焦点に変化したが、最新研究では従来の抗うつ薬と比べて特に優れた効果は示されていない
- サイケデリック薬物試験では幻覚により盲検化が困難で、プラセボ群の改善効果が低下する「ノウセボ効果」により薬効が実際より大きく見える問題がある
- 精神医学分野での新治療法への切望とサイケデリックの文化的魅力が過大評価を生んでいるが、プラセボ効果も治療効果の一部として捉える視点もある
今回は、サイケデリック薬物の現状について見ていきたい。これらの精神変容物質は、対抗文化の象徴から臨床研究の主要な焦点へと飛躍した。マジックマッシュルームに含まれるシロシビンのような化合物は、うつ病、PTSD、依存症、さらには肥満の治療など、さまざまな健康応用について研究が進められている。
過去10年間で、これらの薬物への科学的関心が爆発的に高まった。しかし、サイケデリック薬物の臨床試験の多くは小規模で、さまざまな課題に悩まされている。そして、その結果の多くは期待外れか決定的ではない。
先週初めに発表された2つの研究は、これらの薬物を研究することがいかに困難であるかを示している。そして私の見方では、これらの物質がいかに過大評価されているかも浮き彫りにしている。
この分野の一部の研究者にとって、過大評価は必ずしも悪いことではない。説明しよう。
2つの新しい研究はいずれも、うつ病治療におけるシロシビンの有効性に焦点を当てている。そして両研究とも、サイケデリック薬物試験における最大の課題の1つである「盲検化」に対処しようとしている。
新薬の有効性を検証する最良の方法は、無作為化対照試験を実施することである。これらの試験では、一部のボランティアが薬物を受け取り、他の人はプラセボを受け取る。公平な比較のため、ボランティアは自分が薬物かプラセボのどちらを受け取っているかを知らないようにする必要がある。
サイケデリック薬物では、これはほぼ不可能である。ほとんどの人が、シロシビンを摂取したのか偽薬を服用したのかを判別できる。幻覚は明白な手がかりとなる。それでも、2つの新しい研究の著者らはこの課題の克服を試みた。
1つの研究では、ドイツの研究チームが、治療抵抗性うつ病のボランティア144人に対し、高用量または低用量のシロシビン、あるいは身体的効果(ただし幻覚作用はない)を持つ「活性プラセボ」を心理療法と併用して投与した。この試験では、ボランティアも研究者も、誰が薬物を受け取っているかを知らなかった。
シロシビンを受け取ったボランティアには一定の改善が見られたが、プラセボ群と比べて有意に優れているわけではなかった。また、6週間後にはシロシビン群の方が症状の軽減が大きかったものの、「(両結果の)乖離により、本研究の所見は決定的ではない」と著者らは述べている。
これまでのところ、あまり良いニュースではない。
2番目の研究の著者らは、異なるアプローチを採用した。カリフォルニア大学サンフランシスコ校のバラージュ・シゲティらは、サイケデリック薬物と従来の抗うつ薬の双方について「オープンラベル試験」を検討した。この試験では、ボランティアはサイケデリック薬物を服用していることを知っており、同様に抗うつ薬を服用していることも認識していた。
研究チームはこのような24の試験を分析し、サイケデリック薬物は従来の抗うつ薬と比べて特に優れているわけではないことを明らかにした。実に残念な結果である。
「研究を始めたとき、盲検化の問題を考慮してもサイケデリック薬物が従来の抗うつ薬よりはるかに優れていることを示し、『かっこいい』サイケデリック研究者になりたかったのです」とシゲティは言う。「しかし残念ながら、データは逆の結果を示しました」。
彼の研究は、別の問題も浮き彫りにしている。
従来の抗うつ薬の試験では、プラセボ効果はかなり強い。うつ症状は通常スケールで評価され、抗うつ薬は平均して約10ポイント症状を軽減する。一方、プラセボでも約8ポイントの改善が見られる。
規制当局がこれらの結果を評価すると、抗うつ薬はプラセボに比べて追加で約2ポイント症状を改善すると解釈される。
しかしサイケデリック薬物では、活性薬物とプラセボの差ははるかに大きく見える。これは部分的に、サイケデリック薬物を受け取った人がそれを認識し、改善を期待するためであると、英国エディンバラ大学の臨床精神医学名誉教授デビッド・オーウェンズは指摘する。
同時に、それは薬物を受け取っていないと分かっている人々への影響でもある。プラセボであることは比較的容易に見抜け、それが失望につながるとシゲティは言う。科学者たちは長らく「ノセボ(nocebo)効果」をプラセボの「邪悪な双子」として認識してきた。つまり、悪化すると予想すると実際に悪化するのである。
さらにシゲティは、プラセボであると気づいたことによる失望を「ノウセボ(knowcebo)効果」と呼んでいる。「プラセボだと分かってしまったことで生じる、いわばネガティブなサイケデリック効果のようなものです」と彼は説明する。
この現象は、サイケデリック薬物試験の結果を歪める可能性がある。従来の抗うつ薬試験ではプラセボが約8ポイントの改善をもたらすのに対し、サイケデリック試験ではプラセボによる改善はわずか約4ポイントにとどまるという。
活性薬が同様に約10ポイント改善すると仮定すると、サイケデリック薬物はプラセボに比べて約6ポイント改善しているように見える。これは「非常に大きな効果があるかのような錯覚を与える」とシゲティは言う。
では、なぜこれまでの小規模試験はこれほど注目を集めたのか。多くは一流誌に掲載され、熱狂的なプレスリリースやメディア報道が伴っていた。決定的でない結果であってもである。他の薬剤を対象としていたなら、これほど注目されなかった可能性もあると私は考えてきた。
「ええ、誰も気にしないでしょう」とシゲティは同意する。
その一因は、メンタルヘルス分野の研究者や臨床家が新しい治療法を切望していることにあるとオーウェンズは言う。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の登場以来、この40年ほど大きな革新はほとんどなかった。「精神医学は古い理論に縛られており(中略)、うつ病にこれ以上SSRIは必要ありません」と彼は述べる。一方で、サイケデリック薬物そのものが本質的に魅力的であることも理由だとシゲティは言う。「サイケデリックはクールです。文化的にも刺激的です」。
私はしばしばサイケデリック薬物が過大評価されているのではないかと心配してきた。人々がこれらを精神疾患の万能薬と誤解する可能性があるからだ。また、脆弱な人々が自己実験によって害を受けることも懸念している。
一方でシゲティは異なる見解を示す。プラセボ効果の強さを考えれば、過大評価も必ずしも悪ではないかもしれないという。「プラセボ反応とは利益への期待です。患者がより良い結果を期待するほど、実際に良くなるのです。」過度な期待を抑えることは、結果的に薬の効果を弱める可能性もあると彼は言う。
「最終的に医学の目的は患者を助けることです。多くの精神疾患の患者は、期待やプラセボ効果によって改善したのか、薬の直接的効果によって改善したのかを気にしないと思います」。
いずれにせよ、これらの薬物が実際に何をしているのかを正確に理解する必要がある。うつ病の一部の患者に有効かもしれないし、そうでないかもしれない。サイケデリック薬物試験に伴う落とし穴を認識した研究が不可欠である。
「今は潜在的に非常に刺激的な時期です」とオーウェンズは言う。「しかし、この研究を適切に進めることが極めて重要です。そのためには、十分な認識を持って取り組む必要があります」。
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- ジェシカ・ヘンゼロー [Jessica Hamzelou]米国版 生物医学担当上級記者
- 生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。