KADOKAWA Technology Review
×
Innovators Under 35 Japan 2026 候補者募集開始!
導入支援に中古Mac販売、中国でOpenClaw副業起業ラッシュ
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock
Hustlers are cashing in on China's OpenClaw AI craze

導入支援に中古Mac販売、中国でOpenClaw副業起業ラッシュ

AIエージェント「OpenClaw」が中国で爆発的ブームとなっている。導入支援サービスで月7000件の注文をさばく即席起業家から、OpenClaw専用の中古Mac販売業者まで、草の根ビジネスが次々と生まれ、中国当局がセキュリティリスクを警告するが、熱気は止まらない。 by Caiwei Chen2026.03.15

この記事の3つのポイント
  1. 中国でOpenClawが「ロブスター」の愛称で爆発的人気となり政府支援や大手企業参入まで巻き起こしている
  2. 27歳エンジニアが副業で始めたインストール支援は7000件の注文を処理し100人規模の企業に急成長した
  3. セットアップの技術的難易度がサービス需要を生むが専門家はセキュリティリスクへの懸念を表明している
summarized by Claude 3

フォン・チンヤンは、常に自分の会社を立ち上げたいと考えていた。だが、それがこのような形で実現するとは、そしてこんなに早くその日が来るとは思ってもみなかった。

北京在住の27歳のソフトウェア・エンジニアであるフォンは2026年1月、人気の新しいオープンソースAIツール「OpenClaw(オープンクロー)」をいじり始めた。このツールはデバイスを乗っ取り、ユーザーのためにタスクを自律的に完了できる。フォンはすぐに夢中になり、間もなく技術的な習熟度が低い他の好奇心旺盛な技術者たちがこの人工知能(AI)エージェントをインストールするのを手助けするようになった。

フォンはすぐにこれが収益性の高い機会になり得ることに気づいた。1月末までに、Xianyu(シェンユー、日本におけるメルカリのようなサイト)にページを設置し、「OpenClawのインストールをサポートます」と宣伝した。「コーディングや複雑な用語を知る必要はありません。完全リモート対応」と投稿には書かれている。「誰でも30分以内にAIアシスタントをすばやく手に入れることができます」。

同時に、中国の一般大衆もOpenClawに関心を示し始め、技術者の間でのニッチな興味として始まったこのツールは、人気の現象へと発展し始めた。

フォンの元にはすぐに依頼が殺到し、夜遅くまで顧客とチャットし、注文を管理するようになった。2月末には仕事を辞めた。副業だった事業は現在、100人以上の従業員を抱える本格的なビジネスに成長している。これまでに、1件あたり約248人民元(約34ドル)、7000件の注文を処理してきた。

「機会は常に一瞬です」とフォンは言う。「プログラマーとして、私たちは風向きの変化を真っ先に感じるのです」。

フォンは、中国のOpenClawブームを現金に変える早期採用者(アーリーアダプター)の小さなグループの一人である。技術的背景がほとんどないユーザーが参加したがる中、こうした人々のニーズに応えるために、インストールサービスや事前設定されたハードウェアを提供する家内工業が立ち上がった。これらの技術愛好家や即席コンサルタントの突然の台頭は、巨大なセキュリティ・リスクがあるにもかかわらず、中国の一般大衆が最先端のAIを採用することにいかに熱心であるかを示している。

「ロブスターブーム」

「もうロブスターを飼いましたか?」

深センの36歳のソフトウェア・エンジニアであるシエ・マンルイは、この1カ月間、この質問を毎日のように耳にしてきた。「ロブスター」は中国のユーザーがOpenClawに付けたニックネームで、そのロゴにちなんだものだ。

シエは、フォンと同様に、2026年1月からOpenClawの実験をしている。彼はOpenClawのエコシステムの上に新しいオープンソース・ツールを構築しており、その中にはエージェントの進捗をアニメーション化された小さなデスクトップ・ワーカーとして視覚化するものや、ユーザーが音声でエージェントとチャットできるツールなどがある。

「『ロブスター飼育』を通じて、多くの新しい人々に出会いました」とシエは言う。「弁護士や医師など、技術的バックグラウンドがほとんどない人が多いですが、皆新しいことを学ぶことに熱心です」。

ロブスターは実際に今、中国のあらゆる場所に、オンライン・オフライン問わず現れている。例えば2月には、起業家でテクノロジー・インフルエンサーのフー・シェンがOpenClawの機能を披露するライブストリームを主催し、2万回の視聴を獲得した。そして先週末、シエは深センで3つの異なるOpenClawイベントに参加し、それぞれ500人以上を集めた。これらの自主組織された非公式な集まりには、パワーユーザー、インフルエンサー、時にはベンチャー・キャピタリストが講演者として参加している。シエが参加した最大のイベントは3月7日で、1000人以上を集めた。満員の会場では、人々が肩を寄せ合い、多くの参加者が席を確保することさえできなかったと彼は言う。

現在、中国のAI大手もこのトレンドに便乗し始めており、自社のモデル、API、OpenClawで使用できるクラウドサービス、そして独自のOpenClaw類似エージェントを宣伝している。3月にはテンセント(Tencent)がOpenClawの無料インストールサポートを提供する公開イベントを開催し、高齢者や子どもをはじめとする、支援を求める人々が長蛇の列を作った。

この突然の人気の爆発は、地方政府の関与さえ促している。3月には深センの龍崗(ロンガン)区政府は、無料のコンピューティング・クレジットや優秀なプロジェクトへの現金報酬を含む、OpenClaw関連ベンチャーを支援するいくつかの政策を発表した。無錫(ウーシー)など他の都市も、同様の措置を展開し始めている。

これらの政策は、すでに盛り上がっている状況を加速しているに過ぎない。「77歳の父が『ロブスター』のインストールを手伝ってほしいと頼んできて初めて、これが本当に人々の噂になっていると実感しました」と、北京を拠点とするソフトウェアエンジニアのヘンリー・リは言う。

プログラマーのゴールドラッシュ

フォンのような技術スキルを持つ人々にとって、今この瞬間が特に儲かっている理由は、多くの人がOpenClawを欲しがっているにもかかわらず、アクセスできる人がそれほど多くないことである。黒いターミナルウィンドウへのコマンド入力から、馴染みのない開発者プラットフォームへのナビゲートまで、セットアップには専門的な技術知識が必要だ。ハードウェア面では、古いまたは廉価なラップトップでは、なかかなスムーズに動作しない可能性がある。さらに、OpenClawを普段使っているコンピューターとは別のデバイスにインストールしたり、OpenClawがアクセスできるデータを適切に分割しておく必要がある。さもないと、データ漏洩や悪意のある攻撃に対して脆弱になり、ユーザーのプライバシーが危険にさらされる可能性がある。

オンラインで「チー・シーフー(Qi Shifu)」として知られるクリス・ザオは、北京でOpenClawソーシャルメディアグループとイベントを組織している。Rednote(レッドノート)やJike(ジェイク)などのアプリで、ザオは定期的にAIに関する考えを共有し、他の興味のあるユーザーにWeChat(ウィーチャット)のIDを残すよう求めて、半プライベートなグループチャットに招待している。参加に必要な証明は、「ロブスター」が稼働していることを示すスクリーンショットである。ザオは、経験豊富なユーザー向けのグループチャットでさえ、ハードウェアとクラウドのセットアップが絶え間ない議論のトピックであり続けていると言う。

OpenClawのセットアップの比較的高いハードルは排他性の感覚を生み出し、その周りでサービス業界が展開し始める自然なきっかけとなっている。Taobao(タオバオ)やJD(京東商城)などの中国のeコマースプラットフォームで「OpenClaw」と検索するだけで、数百件ものリストが返される。そのほとんどは、非技術的ユーザーを対象としたインストールガイドと技術サポートパッケージで、価格は100から700人民元(約15ドルから100ドル)だ。高価格帯では、直接訪問してサポートする業者も多数存在する。

フォンと同様に、これらのサービスのほとんどの提供者は、ある程度の技術的能力を持ち、副業を探している早期採用者たちだ。しかし、需要が急増するにつれて、手が回らなくなっている人もいる。OpenClaw上で稼働するツールを作成した深センの開発者シエは、そのようなビジネスを運営する友人から週末の手伝いを頼まれた。友人の顧客はEC業界で働いており、技術的な経験がほとんどなかったため、シエは直接出向いて作業を完了させなければならなかった。彼は午後の作業で600人民元(87ドル)を手にした。

需要の増加により、フォンのようなベンダーも迅速に拡大することを余儀なくされている。彼は現在、サービスの標準化を段階的に進めている。基本インストール、好みのチャットアプリの設定など特定の要求に応えるカスタムパッケージ、そして技術に慣れる手ほどきしてもらいたい人のための継続的な指導サービスである。

中国には、OpenClawをハードウェアと組み合わせて収益を上げているベンダーもいる。深センを拠点とする再生Macコンピューター販売業者であるリー・ゴンは、こうした最初のオンライン販売業者の1人であり、OpenClawがプリインストールされたMac miniとMacBookを提供している。OpenClawはハードドライブの深くまでアクセスして動作するよう設計されており、無人でバックグラウンドで継続的に実行できる。そのため、多くのユーザーはOpenClawを、普段使いとは別のデバイスにインストールすることを好む。悪意のある行為者がプログラムに侵入してすぐに個人情報の広範囲にアクセスするのを防ぐのが狙いだ。そこで、多くの人がコストを抑えるために中古または再生品を使用しており、リーは過去2週間で注文が8倍に増加したと言う。

OpenClaw自体は新しい技術であるが、ソフトウェア・バンドルの購入、サードパーティ・パッケージのダウンロード、改造されたデバイスの探索という一般的な慣行は、多くの中国のインターネット・ユーザーにとって新しいものではない。そう語るのは、ハーバード大学で技術史を研究する大学院生のティアンユー・ファンである。多くのユーザーは、アドビのソフトウェアのインストールからkindle(キンドル)のジェイルブレイク(脱獄)まで、タスクのための1回限りのITサポートサービスに料金を支払う。

それでも、すべての人が巻き込まれているわけではない。寧波(ニンポー)を拠点とする技術者のジャン・ユンフイは、セットアップに苦労する一般ユーザーが、まだ事実上テスト段階にある技術を使うのは適切ではないかもしれないと心配している。

「影響力のある大都市での誇大宣伝は少し大げさになることがあります。エージェントはまだ概念実証であり、今のところ平均的な人にとって人生を変えるような用途があるとは思えません」。ジャンは、エージェントを安全に使用して意味のあるものを得るには、技術への慣れと独立した判断のレベルが必要であり、ほとんどの新しいユーザーはそうしたものをまだ持っていないと主張している。

ジャンと同じ懸念を抱く人は少なくない。3月10日、中国のサイバーセキュリティ規制当局CNサート(CNCERT)は、OpenClawに関連するセキュリティとデータリスクについて警告を発し、データ侵害に晒されるリスクが高まると述べた。

しかし、潜在的な落とし穴にもかかわらず、中国のOpenClawに対する熱気は衰える気配を見せない。

現在、事業からの収益で潤っているフォンは、この勢いと資本を使って、AIツールを中心とした自分のベンチャーを構築し続けたいと考えている。

「OpenClawと他のAIエージェントで、1人会社を運営できるかどうか見てみたいのです。1年間、がんばってみるつもりです」。

人気の記事ランキング
  1. It’s time to address the looming crisis in entry-level work. 「コーディングを学べ」もう通用せず、AIが若者の雇用を奪い始めた
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2026 「Innovators Under 35 Japan」2026年度候補者募集のお知らせ
  3. Anthropic’s Code with Claude showed off coding’s future—whether you like it or not 「Claudeに任せてしまおう」 たった1年で激変したソフトウェア開発
ツァイウェイ・チェン [Caiwei Chen]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューの中国担当記者として、グローバルなテクノロジー業界における中国に関するあらゆるトピックを取材。これまで、ワイアード(Wired)、プロトコル(Protocol)、サウスチャイナ・モーニング・ポスト (South China Morning Post)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World )などのメディアで、テクノロジー、インターネット、文化に関する記事を執筆してきた。ニューヨークのブルックリンを拠点に活動している。
▼Promotion
社会実装都市「ひろしま」の魅力に迫る ローカル ✕ イノベーション
MITテクノロジーレビューが選んだ、AIの10大潮流 [2026年版]

AIをめぐる喧騒の中で、本当に目を向けるべきものは何か。この問いに対する答えとして、MITテクノロジーレビューはAIの重要なアイデア、潮流、新たな進展を整理したリストを発表する。

特集ページへ
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る