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ほぼ新記録なしに終わった
ドーピングOK競技会
本当の目的は薬の宣伝
Saeed Rahbaran
生物工学/医療 Insider Online限定
The “steroid olympics” were a circus—and a window into our culture

ほぼ新記録なしに終わった
ドーピングOK競技会
本当の目的は薬の宣伝

パフォーマンス向上薬の使用を推奨する初の競技会「エンハンスト・ゲームズ」が、2026年5月に米ラスベガスで開かれた。「自分の体は自分で決める」を掲げ、薬で世界記録を塗り替えると謳っていたが、主要種目を制したのは薬を使わない選手で、新記録はほとんど出なかった。主催企業の目的であるホルモン剤やペプチドの宣伝は達成されたか。 by Amit Katwala2026.06.19

この記事の3つのポイント
  1. ドーピング公認の「エンハンスト・ゲームズ」が初開催されたが、世界記録更新はわずかで、薬物未使用選手が主要種目を制した
  2. 同大会はスポーツイベントの体裁を借りつつ、実態はテストステロン等のパフォーマンス向上製品を販売するマーケティング装置へと変質している
  3. 高額な医療監督コストが示すように、身体強化の恩恵は富裕層に限られ、模倣者による無監督使用リスクという深刻な格差問題を内包している
summarized by Claude 3

テストステロン。メテノロン。ナンドロロン。ヒト成長ホルモンとEPO(エリスロポエチン)。メルドニウム、モダフィニル、混合アンフェタミン塩。クロミフェン、アナストロゾール、レボチロキシン、リオチロニン。パッチやカプセル、クリームや錠剤。数十人の水泳選手、短距離走選手、重量挙げ選手の血液の中を流れる、銀河全体の星々のように多種多様なステロイド、代謝調節剤、合成ホルモン。そして、世界記録を塗り替え、超人類時代の先駆者となるかもしれないアスリートたちが獲得を目指す、数百万ドルの賞金——。

5月24日(日)、米ラスベガスのカジノの駐車場に5000万ドルの費用をかけて建てられた競技場で、私はリバタリアン(自由至上主義)的な思考実験が現実となるのを目の当たりにした。初開催となった「エンハンスト・ゲームズ(Enhanced Games)」は、参加者によるパフォーマンス向上薬の使用が推奨される初のスポーツ競技会だった。創設者たちは、古くさいスポーツ界の常識に挑み、誰もがより良く、より長く生きられる世界の構築を支援していると述べている。批判派は、このイベントは恥ずべきものであり、危険な薬物の使用を美化し、人命を危険にさらしていると指摘する。

会場はコンパクトに設計されており、明るい青の彩色で飾り立てられていた。片側には6レーンの100メートルトラック、反対側には4レーンのオリンピック規格プール、正面には重量挙げのプラットフォームとステージが設けられていた。背景には、そびえ立つトランプ・ホテルの黄金色のファサードが見えた。その光景はまるで典型的な演出のNFLの試合のようであり、過剰に大きな音で音楽が鳴り響き、大型スクリーンには観客を盛り上げるための映像が映し出されていた。「フレックスカム(筋肉や力こぶを披露してくれる人を映すカメラ)」に映った筋肉自慢の観客たちは、ここぞとばかりに自分の上腕二頭筋を披露した。競技の合間には、このイベントの主催者であるエンハンスト(Enhanced)が販売する、一連のパフォーマンス向上製品の広告が次々に映し出された。細胞のエネルギーと肌の弾力をサポートするという注射用ペプチドや、「Stronger(ストロンガー)」や「Longer(ロンガー)」といった名前の日常用サプリメントパウダーなどである。

その日はまず、焼け付くような太陽の下、重量挙げ選手たちによる競技から始まった。しかし午後4時になっても、たった1人しか世界記録に挑みさえしなかった。2人は怪我で棄権していた。一部の選手は、賞金を目当てに、薬物を使用することなく競技に参加していた。競技が進むにつれ、彼らは薬物で強化されたライバルたちよりも優勢になっていた。オリンピックで3つのメダルを獲得した25歳の米国人水泳選手、ハンター・アームストロングは、背泳ぎで1秒以上の差をつけて優勝した。男子100メートル走では、未強化の米国人選手フレッド・カーリーが圧勝した。「彼らはもっと頑張らないといけません」と、カーリーはレース後のインタビューでドーピングしている対戦相手について語った。「もう少しハードにトレーニングして、あの薬をちょっと増やす必要がありますね」。

バーでは、ボディビルダーたちが薬物使用前と使用後の写真を見せ合いながらスタック(薬物やサプリの組み合わせ)について語り、ベンチャーキャピタリストや金融業界の男たちがLinkedIn(リンクトイン)の連絡先情報を交換していた。VIP席の入り口付近をうろついていた身長約208センチメートル、体重約160キログラムのロシア人ボディビルダー、ルーカス・ラクツィンは、最初に私と話したとき、パフォーマンス向上薬は一切使用していないと語った。もちろん、テストステロン補充療法は別だという。しかしラクツィンは、その治療を薬物の使用とは本気で思っていなかった。「もうすぐ34歳になります。強さを保つためには、こうする必要があるんです」。

インフルエンサーでもある作家のジェレミー・シガルは、「USA」とプリントされたタンクトップを着用し、刑務所で彫ったタトゥーのある筋肉隆々の腕を誇示していた。シガルは、健康面と私生活の両方で、自信を持って「ナチュラル」であると私に話した。「私のクレジットスコアの高さは抜群です」と、シガルは言った。彼は、マーケティングとリーダーシップに関する本を12冊執筆している。その後、私はシガルの最新作をネットで調べた。その本には『Simp to Pimp: 10 Steps to Fix Why She’s Not Banging You(都合のいい男からモテ男へ:彼女が寝てくれない理由を解決する10のステップ)』(未邦訳)というタイトルが付けられ、AI(人工知能)が共著者として記載されている。

私がラスベガスで目にしたものは、おそらくスポーツの未来ではなかった。そうではなく、シリコンバレーのバイオハッカーや、オルタナ右翼のルックスマックス(自身の外見を徹底的に高める活動や概念)信者、「MAHA(Make America Healthy Again=米国を再び健康に)」推進派、そして長寿に取り憑かれている科学者たちが、それぞれのイメージで現実を再構築しようと競い合っている、現在の私たちの状況を完璧に要約して表すものだった。彼らにとってエンハンスト・ゲームズは、医療の進歩が人類を新たな高みへと押し上げ、決して老いる必要のない未来を垣間見せるものだった。

私はこれまで、ナプキンに走り書きされた突飛なアイデアから時価総額12億ドルの上場企業になった、エンハンストの成長の道のりを追ってきた。その舞台裏では、権力争いや、人生を変える勝利、そしてまったくの茶番劇のような瞬間があった。最近ようやくこの大会で競技が繰り広げられるのを見ながら、私の頭には2つの疑問が渦巻いた。彼らは正しかったのか? そして、それは彼ら以外の私たちにとって何を意味するのか?

2022年12月、オーストラリア人起業家のアロン・デソウザは、友人でありメンターでもあるピーター・ティールと大晦日を過ごすため、飛行機でマイアミへ向かった。その10年前、デソウザはニューヨークのゴシップ系メディア『ゴーカー(Gawker)』をティールが破産に追い込んだ訴訟を助けていた。ティールがゲイであることを暴露した記事に対する、見事な復讐であった。デソウザはこのとき、ペイパル(PayPal)やパランティア(Palantir)を共同創業した億万長者のティールが気に入るだろうと考える、画期的なアイデアを用意していた。デソウザはそのアイデアを、ジムで目にしていた鍛え上げられた肉体から思いついた。それは、ステロイドの使用が公然の秘密となっているワークアウト文化と、少なくとも表向きは不可侵のタブーとしている既存のスポーツ界との間の断絶を浮き彫りにするものであった。

デソウザの最初の売り込みは、挑発的で対立も辞さないものだった。オリンピックに匹敵する大規模なスポーツイベントを開催し、競技参加者はどのような薬物でも好きなものを摂取できるというのだ。「自分の体のことは自分で決める」というコンセプトである。私が初めてデソウザに会った2024年の春、彼は会社を創設し、初期の投資も集めていた。しかしデソウザは、(彼自身、それほど熱心なスポーツファンには見えなかったにもかかわらず)国際オリンピック委員会(IOC)の有力者たちに立ち向かい、スポーツを再発明することに執着しているように見えた。エンハンストのディスコードサーバーには、「IOC Clowns.jpg(IOCピエロ.jpg)」といった名前が付けられたミームでいっぱいのフォルダがあった。全体として、非常に不真面目な感じだった。

その雰囲気が後に変わることになる。

デソウザは私に、以前にティールから紹介された独バイオテック界の億万長者、クリスチャン・アンガーマイヤーが、エンハンストに参画する予定であると話した。アンガーマイヤーは自分の会社アタイ・ライフ・サイエンシズ(Atai Life Sciences)を通じ、幻覚剤(サイケデリックス)の臨床試験に対する資金提供を続けており、この薬をうつ病や不安症の治療法として医療の主流に導入するのを支援している。アンガーマイヤーは、ステロイドについても同様のことを実施する機会を見つけたと話す。自分が本当に望んでいるのは医療を再定義することであると、アンガーマイヤーは私に語った。医療の焦点はすでに、病気の治療から予防へと変わっている。人々の健康を積極的に増進することが、まさに次の論理的なステップであると、アンガーマイヤーは言う。

2024年初頭までに、アンガーマイヤーは自分に近しい者たちを主要な役職に据えていた。そのような人々の中には、アンチエイジング(抗老化)の専門家で、ハリウッドの主演級俳優の多くを顧客に持つ専属医のマイケル・サグナーや、インスタグラムのルックスマックス系インフルエンサーのような顎のラインと頬骨、および子犬のように尽きることのない熱意を持つマックス・マーティンもいた(マーティンは数年前、わずか27歳のときに、自身の強化プログラムを開始した)。サグナーはエンハンストの医療委員会を率い、大会を選手たちにとって確実に安全なものにする役割を担うことになっていた。そして、実際に大会を実現することがマーティンの仕事だった。

デソウザの自由奔放なスタイルが、サグナーたちがそのとき懸命に提示したがっていたより分別のあるイメージと衝突したことで、緊張が引き起こされた。「デソウザの性格や、不愉快な話し方だけが問題だったわけではありません」と、サグナーは最近、私に語った。「科学的な事実について説明を受けるときでさえ、彼はそれを完全に無視し、決まってとんでもないことを言いました」。

しかし、デソウザの理不尽さが増せば増すほど、彼のアイデアは注目された。2024年2月、引退したオーストラリアの水泳選手ジェームズ・マグヌッセンがエンハンスト初の公式アスリートになった。同社は、マグヌッセンもしくは他の選手が50メートル自由形で世界記録を更新できれば、100万ドルを支払うことを約束した。

「ステロイド・オリンピック」(多くの人がエンハンスト・ゲームズをそう呼ぶ)の概念は、数十年も前から取り上げられてきた。例えば、2000年代初頭の『ワイアード(Wired)』誌の記事や、1980年代のサタデー・ナイト・ライブでの寸劇などだ。2つのことが支援材料となり、エンハンスト・ゲームズはついに実現するに至った。まず、2024年11月にドナルド・トランプが米国大統領に再選されたことだ。バイデン政権は同大会に対して積極的に断固反対する姿勢だったが、創設者たちはトランプ政権下においてより受容的な政治環境を見出した。大統領選挙から間もなくして、エンハンストは、ドナルド・トランプ・ジュニアらがパートナーを務めるベンチャーキャピタル企業「1789キャピタル(1789 Capital)」が主導する、新たな資金調達ラウンドを発表した。

2つ目は、2025年2月に、強化された水泳選手が50メートル自由形を人類史上最速のタイムで泳ぎ切ったことである。しかし、それはマグヌッセンではなかった。マグヌッセンは筋肉増強のためのテストステロンに加え、回復を早めることを目的にペプチド化合物も投与していたが、その試みは彼が計画したようにはうまくいかなかった。

評判上の問題(彼のトレーニング受け入れを希望するプールがなかった)と複雑な身体的問題(投薬は筋力の増強に役立ったが、筋肉が付きすぎて水中での動きが鈍くなった)が重なり、マグヌッセンは他の選手の活躍を傍観するしかなかった。2024年のパリオリンピックで5位に入ったブルガリア系ギリシャ人の水泳選手クリスチャン・ゴロメエブが、記録を0.02秒更新し、エンハンストから100万ドルの賞金を受け取ったのである。その考え方はこれまで常に、記録を塗り替えることがこの強化プロジェクトの正当性を実質的に証明することになるというものであった。「今や私たちができるようになったことを見よ」というわけだ。

しかし、ゴロメーフは異なる動機で大会に参加していた。「エンハンスト・ゲームズで1年成功すれば、選手生命をかけて稼ぐ額の10倍近くを手にできる可能性があります」と、ゴロメーフは新記録樹立から間もない頃に私に話した(注目すべきこととして、彼は世界水泳連盟が2010年以降禁止している一種の「スーパースーツ」を着用している)。エンハンストは所属アスリートたちに対し、ボーナスに加え、定期的な給与を支払っていた。ゴロメーフには支えるべき年若い家族がおり、次のオリンピックまでの4年間が、長く不安定なもの …

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MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

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