KADOKAWA Technology Review
×
日本発・世界を変える「U35 イノベーター」募集中!
アンソロピックが「Claude Science」、創薬に照準
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock
Claude Science is Anthropic’s newest flagship product

アンソロピックが「Claude Science」、創薬に照準

アンソロピックは6月30日、科学研究を自律的に支援するAI製品「Claude Science」を発表した。理論上はあらゆる分野に使えるが、実際の力点は創薬にある。これまで科学向けAIを牽引してきたのは、ノーベル賞級の成果を重ねたグーグル・ディープマインドだったが、その主役の座をアンソロピックがうかがう。 by Grace Huckins2026.07.02

この記事の3つのポイント
  1. アンソロピックが科学研究特化の自律型AI製品「Claude Science」を発表し、有料ユーザーに提供を開始した
  2. 創薬・分子生物学向けツールとの連携や再現性重視の設計により、研究生産性の大幅向上が期待される
  3. 科学AIの覇者ディープマインドへの対抗と、IPO前の製薬企業向け収益拡大という戦略的思惑も透ける
summarized by Claude 3

6月30日(火)に開催された製薬業界幹部、バイオテック創業者、研究者向けのイベントで、アンソロピック(Anthropic)は「Claude Science(クロード・サイエンス)」を発表した。これは、Claude Code(クロード・コード)がソフトウェア・エンジニアリングを支援するのと同様に、科学研究を支援することを目的とした重要な新製品である。

Claude Codeと同様に、Claude Scienceは簡潔なハイレベルの指示を与えられると、自律的に意味のある作業を遂行できる。また、計算生物学や創薬研究で特に有用な各種ツールを利用できる。

アンソロピックは、Claude Scienceの提供開始とプレビュー公開を発表するとともに、有料版のClaude利用者全員が利用可能になったことを明らかにした。さらに、同製品を活用して、希少疾患や「顧みられない疾患(neglected diseases)」の治療薬に関する独自の研究も進めるとしている。

アンソロピックが科学向けAI(AI for Science)に取り組むのは今回が初めてではない。同社は10月、「Claude for Life Sciences(クロード・フォー・ライフサイエンシズ」の名称で、Claudeが科学向けソフトウェアやデータベースを利用できるプラグインを公開した。しかし今回のClaude Scienceは、それとは異なり、フル機能を備えたスタンドアロン製品である。Claude ScienceをClaude CodeやClaude Cowork(クロード・コワーク)と並ぶ製品として位置付けたことは、アンソロピックがAIの科学分野への応用を極めて重視していること、あるいは少なくとも、そのような姿勢を示そうとしていることを物語っている。

「Claude CodeやClaude Coworkと並ぶ、私たちが次に投入する本当に重要な製品として位置付けているという事実そのものが、この分野が私たちのミッションにとっていかに重要であるかを示しています」と、アンソロピックのライフサイエンス部門責任者、エリック・カウデラー=エイブラムスは語る。「私たちのミッションは、人類の長期的な幸福に資するAIを開発することです。そして、その実現に向けた最大の機会は生命科学にあると確信しています」。

過去10年間、科学向けAIの最前線を切り開いてきたのはグーグル・ディープマインド(Google DeepMind)だった。CEOのデミス・ハサビスと主任研究者のジョン・ジャンパーは、同社のAlphaFold(アルファフォールド)に関する研究でノーベル化学賞を受賞し、ディープマインドは気象学や材料科学をはじめとするさまざまな分野にも大きく貢献してきた。しかしここ数カ月、AIの進歩は急速に加速し、その最前線からディープマインドが取り残されつつあるようにも見える。LLM最大の収益源となったコーディング分野では、ディープマインドは追いかける立場に回っている。

アンソロピックは、科学分野におけるディープマインドの地位を引き継ぐ上で有利な立場にある。ハサビスと同様に、アンソロピックCEOのダリオ・アモデイは博士号を持つ科学者であり、生粋のビジネスマンであるオープンAI(OpenAI)CEOのサム・アルトマンとは対照的だ。すでに多くの科学者がClaude Codeなどのツールを熱心に活用している。

現在では、多くの科学研究で何らかのコーディングが必要とされる一方、すべての科学者が熟練したソフトウェア・エンジニアというわけではない。そのため、Claude Codeのようなツールは研究生産性を大きく向上させ得る。また、アンソロピックは最近、科学界から大きな信任も得た。今月初めには、ジョン・ジャンパーがディープマインドを離れ、アンソロピックへ移籍することを発表している。

アンソロピックのOpus(オーパス)シリーズを含むLLM搭載エージェントが、2025年末に有用な自律的作業をこなせるようになって以来、科学者たちはその能力の高さを実感してきた。アンソロピックのWebサイトに掲載されたブログ記事で、ハーバード大学の物理学教授マシュー・シュワルツは、Claude Codeなどのツールを利用した経験を踏まえ、Opus 4.5は科学プロジェクトを遂行する能力において博士課程2年の学生と同程度であるとの見方を示している。

カウデラー=エイブラムスによれば、Claude Scienceは科学者のワークフローにおいてClaude CodeやClaude Coworkを置き換えることを目的としているわけではない。むしろ、科学者がすでにアンソロピック製品に見いだしている有用性をさらに発展させるよう設計されている。例えば、コードを書くだけでなく、非常に多くの科学者が研究で利用する高性能コンピュータクラスター上でコードを実行する作業も支援する。また、再現性を重視しており、科学者はあらゆる図表や研究結果の出典までさかのぼって、その正確性や妥当性を検証できる。

Claude Scienceは理論上、あらゆる科学分野の研究を支援できるが、実際には分子生物学・細胞生物学、とりわけ創薬研究向けのツールとして設計・提供されているようだ。遺伝学、化学、タンパク質生物学で利用されるさまざまなツールと連携でき、新薬候補の探索に取り組む研究者にとって有用な機能を備えている。6月30日のイベントでは、Claude Scienceの開発を主導したアレクサンダー・タラシャンスキーが、希少遺伝性疾患であるフェニルケトン尿症に対する新たな創薬候補を自律的に特定するデモを披露した。

さらにアンソロピックは、こうした取り組みをイベントに参加した製薬企業や大学の研究室だけに任せるつもりはない。Claude Scienceを活用し、顧みられない疾患の治療薬候補に関する独自の研究も進める予定だ。その目的は、科学の進歩に貢献するとともに、Claude Scienceが実社会でどのように機能するかをより深く理解することにある。

汎用的な科学研究支援ツールの開発において創薬を優先することには、明確な人道的理由がある。AI業界のリーダーたちも、疾患の治療をAIがもたらし得る最大の恩恵の一つとしてしばしば挙げている。一方で、製薬企業は大学などの研究機関に比べてはるかに潤沢な資金を有している点も見逃せない。

アンソロピックは初の黒字四半期を迎える見通しであり、今後製薬企業との大型契約を獲得できれば、「tokenmaxxing(トークン消費の最大化)」ブームが沈静化した後も収益性を維持する助けとなる可能性がある。これは、今年後半にIPO(新規株式公開)を控える同社にとって、ますます重要な課題となっている。

人気の記事ランキング
  1. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2026 「Innovators Under 35 Japan」2026年度候補者募集のお知らせ
  2. IBM has unveiled chip technology that could help extend Moore’s Law another decade 微細化の限界を超え、IBMがムーアの法則を10年伸ばす積層チップ
グレース・ハッキンズ [Grace Huckins]米国版 AI担当記者
最先端の機械学習研究から、チャットボットの社会的・倫理的影響に至るまで、幅広いテーマを取材。スタンフォード大学で神経科学の博士号を取得。
MITテクノロジーレビューが選んだ、AIの10大潮流 [2026年版]

AIをめぐる喧騒の中で、本当に目を向けるべきものは何か。この問いに対する答えとして、MITテクノロジーレビューはAIの重要なアイデア、潮流、新たな進展を整理したリストを発表する。

特集ページへ
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る