KADOKAWA Technology Review
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遺伝子編集技術を扱うバイオ企業の株価が急落した理由
Gene Editing Companies Hit Back at Paper That Criticized CRISPR

遺伝子編集技術を扱うバイオ企業の株価が急落した理由

バイオテク企業2社が、遺伝子編集技術クリスパー(CRISPR)の危険性を指摘する論文を掲載した学術誌宛てに、論文の取り消しを求める書簡を送った。誤った内容の論文が掲載されたせいで、10億ドル以上に上昇していた株価が急落したとしている。 by Antonio Regalado2017.06.10

ベイオテクノロジー企業2社が、自社の株価を急落させる原因になったとして、科学雑誌の出版社に対して反論した。同社の発行する学術誌に掲載された論文は誤りだらけで、出版されるべきではなかったとしている。

インテリア・セラピューティクス(Intellia Therapeutics)エディタス・メディスン(Editas Medicine)の科学者は、生命科学関連の学術誌であるネイチャー・メソッズ(Nature Methods)宛てに個別に書簡を送り、遺伝子編集技術クリスパー(CRISPR)がマウスのゲノムに予期しない突然変異を引き起こしており、人間の研究に着手しようとする取り組みに影を落としているとする同誌の論文を批判した。

インテリアのネッサン・バーミンガムCEO(最高経営責任者)は、ネイチャー・メソッズに対し、論文を取り下げて、実質的に科学上の記録から抹消するように努めることを要求した。

「論文はメディアや公衆の注目を相当なレベルで集めてしまい、深刻なダメージをも受けています」とバーミンガムCEOは語った。「論文の意図や解釈に関する問題を鑑みれば、ネイチャー・メソッズの編集委員会は論文を取り下げるべきだと確信しています」。

ネイチャー・メソッドを出版しているスプリンガー・ネイチャーの広報担当者は、この論文に関しては「多数の連絡」を受け取っていると述べ、「論文によって生じたあらゆる懸念について注意深く検討しており、著者たちとも議論しているところです」と語った。論文の最終著者(senior author、論文の執筆を指導する立場の著者)であるスタンフォード大学のヴィニット・マハジャン准教授は、コメントの求めに対して直ちに回答を返さなかった。もう一人の責任著者(corresponding author、論文に関するやり取りに対応する立場にある著者)であるアイオワ大学のアレキサンダー・バサック准教授は、旅行中のためすぐには返答できないと述べた。

ネイチャー・メソッズが掲載した“Unexpected mutations after CRISPR–Cas9 editing in vivo(CRISPR–Cas9の生体内での編集における予期しない突然変異)”という題名の論文は、クリスパーがマウスのゲノムに対して予測不可能な破壊を広範囲に渡って引き起こし、何百もの意図しないエラーをもたらしたと主張している。これをきっかけに、同技術に対する否定的な報道が相次いだ。

クリスパー治療を研究・開発することで、いずれも10億ドル以上に上昇していたエディタス・メディスン、インテリア・セラピューティクス、そしてクリスパー・セラピューティクス(CRISPR Therapeutics)の株価は、すべて急落した。

ほかの科学者たちは、ツイッター上などで、論文の基本的な誤りをすぐさま指摘した。誤りの指摘には、遺伝子の誤認、実験に使った動物の個体数の少なさなどが含まれていたが、最も深刻なのは、クリスパー編集の結果として動物間に生じる標準的な遺伝子の相違を、間違ってラベル付けしていた点だ。

エディタスのヴィック・マイヤーCTO(最高技術責任者)は書簡で、「マハジャン准教授たちの研究によって導かれた結論は、開示された実験では実証されていません」と述べている。マイヤーCTOの書簡には、他の11社に所属する科学者たちの署名に加えて、エディタスの科学共同創業者で株主であるハーバード大学のジョージ・チャーチ教授の署名も添えられている。

チャーチ教授は、同論文は「おそらく」取り下げられるべきであり、少なくとも、更新して「欠けている重要事項」を開示するべきだと述べている。

クリスパーのテクノロジーは、DNAを簡単に置き換える革新的な方法として各所で持ち上げられている。しかし、有望性がメディアの記事で誇張されているきらいがある。中には、すべての遺伝性疾患を治療でき、スーパープラントによって世界の食料問題を解決できると主張する記事まである。

クリスパーは、DNAの特定の配列を切断するようにプログラムすることが可能で、遺伝子を修正したり変更したりするのに利用できる。幅広い用途に使える強力な手法である一方で、同一あるいはよく似た配列がゲノムの他の場所にあれば、意図しなかったり、本来の標的ではなかったりする分子を編集する可能性がある。クリスパーの副作用の可能性に対する懸念は広く知られており、発明者の一部の研究者さえも警告している

恐ろしいのは、クリスパーを使用する計画的な医学的処置が、危険性を証明することになるかもしれないということだ。たったひとつの誤った切断が生命に関わる遺伝子に打撃を与えて、患者に悲惨な結果を招きかねない。15年前、遺伝子療法の先駆的な実験が、意図しない遺伝子の変更により数人の子どもにがんを発生させ、頓挫したことがある。科学者の多くは、クリスパーを注意深くプログラミングすれば、リスクはほぼ排除できると信じている。

クリスパーは扱いやすく、ほぼどんな研究室でも試せる。中国ではすでに人体実験が何件か始まっている。クリスパーによる遺伝子編集はミスが起こりやすいため、使用を急ぎ過ぎることが不安を生む要因のひとつになっている。エディタスは最近、眼病を治療するために計画していたクリスパーの研究を、2018年まで延期した。

しかし、インテリアによれば、論文の著者たちはクリスパーについてすでに知られていることを「無視」しているように見えるという。「クリスパー・キャスナイン(CRISPR-Cas9)、ゲノム・シーケンシング、基礎的な遺伝学にすら精通していないことは明らかです。『予測できない突然変異』という主張は、明らかに遺伝子編集に関する科学的な洞察力が欠けていることを示しています」と語っている

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クレジット Illustration by Mr. Tech
アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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