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IBMのワトソンは
結局何がすごかったのか?
A Reality Check for IBM’s AI Ambitions

IBMのワトソンは
結局何がすごかったのか?

米国のクイズ番組ジョパディ!で優勝して以来、IBMの機械学習システム「ワトソン」は注目を浴びている。しかし最近、ジャーナリズムでのワトソンの評判は良くない。アナリストたちは、ワトソンが実際に多くの利益を生むのだろうかと疑問を呈するようになっている。 by David H. Freedman2017.07.12

ポール・タンは、妻の膝関節置換手術が終わった後、病院で妻に付き添っていた。この手術は米国で毎年約70万人が受ける手術である。担当の外科医が来たので、開業医であるタン自身がいつもそうされているように、妻がいつ頃通常の生活に戻れるのかを聞いてみた。しかし、医師は言葉を濁し、明快な回答をしなかった。「最後にピンときました。医師はいつになるか分からなかったのです」。タンはすぐに、患者たちが術後、家庭や職場に戻ってからの暮らしぶりが、一般の生活基準に照らしてどうなのかを、ほとんどの医師が知らないことに気づいた。そのことが、患者にとって一番大切なことであるにもかかわらずだ。

タンは今も医者として患者を診ているが、IBMワトソン ・ヘルスのヘルス・トランスフォーメーション最高責任者でもある。IBMワトソン・ヘルスは、IBMが社運をかけている機械学習システム「ワトソン」のためのヘルスケア・アプリケーションを開発するビジネス・グループだ。ワトソンは、医師たちに先んじて情報を提供できる、とタンは言う。たとえば、タンの妻のような患者が痛みなく歩けるようになったり、階段を登れるようになったりするまでどのぐらいの時間がかかるかを医師に伝えられる。さらには、画像や細胞組織サンプルを分析したり、各患者に対して最適な処置を決めたりすることすら可能だ。

医療が機械学習テクノロジー市場で最も話題性のある分野なのは、こうした可能性があるからだ。調査会社のCBインサイツによると、2013年から現在までに設立され、現在も活動中のスタートアップ企業が少なくとも106社ある。

これらのスタートアップ企業のテクノロジーに対する世間の関心の高さはワトソンの足元にも及ばない。ただし、ワトソンが注目を浴びているのは、2011年に米国のクイズ番組ジョパディ!(Jeopardy!)で優勝し、IBMが熱心なマーケティングをしたおかげである。しかし最近は、ジャーナリズムでのワトソンの評判は良くない。大々的に宣伝されたヒューストンのテキサス大学MDアンダーソンがんセンターとの共同研究は、2017年に頓挫した。IBMの収益が次第に減り、株価が変動を繰り返すにつれ、アナリストたちは、ワトソンが実際に多くの利益を生むのか疑問を呈するようになっている。2017年5月にニュース専門放送局CNBCで「ワトソンはお話になりませんよ」と言ったのは、ベンチャーキャピタル会社ソーシャル・キャピタル(Social Capital)の創設者で、テクノロジー分野に影響力を持つ投資家チャマス・パリハピティヤだ。

とはいえ、ワトソンに関する批判のほとんどは、MDアンダーソンがんセンターからのものでさえ、技術自体の特別な欠陥に基づいたものではない。批判は、ワトソンが現在までにどれだけ進化しているかについてIBMがあまりに楽観的であることに対する反応なのだ。実際、医療分野の困難な問題に人工知能を応用にすることに関しては、ワトソン・ヘルスが今も最先端だろう。ワトソンが現時点で医療分野で大きな実績を上げている主な理由のひとつに、AIの訓練のためにある種のデータを使っていることがある。多くの場合、こうしたデータは希少だったり、アクセスが難しかったりするのだ。これはワトソンだけの問題ではない。医療における機械学習分野全体における、解決策のない矛盾となっている。

データがなかったり、アクセスできなかったりといった問題はワトソンの発展を遅らせるかもしれないが、IBMの競合他社への影響はさらに大きい。必要なデータを得るのに一番良い方法は大規模な医療組織と緊密な連携を取れるかどうかにかかっている。しかし、大規模な組織はテクノロジーの進化に対して保守的なことが多い。スタートアップ企業やアップル、グーグルなどの巨大なライバルと比較してもIBMが非常に優れているのは、大きな組織の経営陣やIT担当マネージャーに受けが良い点だ。MDアンダーソンがんセンターのプロジェクトでは問題があったものの、IBMには決定的な優位性がある。IBMは、広範囲の病院や医療管理組織、生命科学関連企業に入り込んで、医学におけるAIの将来を決めるにあたって最も重要なデータを入手し得るのだ。

非現実的なタイムライン

MDアンダーソンがんセンターとの決裂は、ワトソンの誇大な宣伝によってIBMが自分で自分の首を絞めていることを明らかにしたようだ。

MDアンダーソンがんセンターとIBMは、2012年に提携した。患者の症状、遺伝子配列、病理報告書をワトソンに読み込ませて、患者についての医師の記述や関連医学誌記事を組み合わせることで、医師の診断や処置の手助けをすることが目的だった。だが、IBMもMDアンダーソンがんセンターも、このテクノロジーに対する期待を膨らませすぎてしまった。IBMは2013年に「コンピューティングの新しい時代が到来した」と発表し、フォーブズ誌に対してワトソンが「すぐに臨床試験をする」と語り、数カ月後には患者の治療に使用されるという印象を与えた。2015年には、ワシントンポスト紙がIBMのワトソン担当者の発言として、ワトソンの「機械と人間の集合知モデル」を作り上げるのに注力中だと記している。同紙はワトソンが「医師に付き添って、医師にできないことをするための訓練をしている」と伝えている。

2017年2月、MDアンダーソンがんセンターを経営するテキサス大学は、IBMとのプロジェクトを停止し、MDアンダーソンがんセンターがIBMに対して3900万ドルを支払うと発表した(プロジェクトの元々の契約額は240万ドルだ)。同プロジ …

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