医学生物学

Gene-Therapy Cure Has Money-Back Guarantee 難病を1回の治療で完治でも
遺伝子療法は儲からない

市場最も高価な薬か治療のバーゲンセールか? 遺伝子治療には療法の側面がある。 by Antonio Regalado2016.08.09

グラクソ・スミスクライン(GSK)は、欧州市場で遺伝子療法を返金保証付きで販売する。

遺伝子療法から生まれた治療法「Strimvelis(ストリムベリス)」は、希少疾病に対する最初の完治治療法で、定価は59万4000ユーロ(66万5000ドル)だ。先週公表されたストリムベリスは、グラクソが販売した1回の治療法で最も高価な治療のひとつだ。

さらに、Strimvelisは史上初の保証付き遺伝子組換え療法だとわかった。

イギリスの巨大製薬企業であるグラクソ・スミスクラインと交渉し、価格と販売条件を定めたイタリア医薬品庁(AIFA)のルカ・パニ長官は「医薬品は説明通りの効果を発揮すべきで、そうでなければ代金を払う必要はありません。効果が現れなければ、代金は返金されます」という。

この治療法は、ウイルスベクターにより、時に致死的となる免疫不全疾患であるADA-SCID(アデノシン・デアミナーゼ欠損による重症免疫不全症)を患う子どもたちの骨髄に、欠損した遺伝子を導入する。18人の子どもが参加した研究は、ミラノ病院で実施され、うち15人が完治した。

グラクソは2010年にStrimvelisの開発権を購入し、今年、欧州で販売する認可を得た。ただし、複雑な治療法であることから、グラクソはミラノでしか販売しないようだ。つまり、イタリアでの価格が欧州全体に適用され、しかも治療代は何年分かに分割されてグラクソに支払われる、とパニ長官は述べた。

見ようによっては、Strimvelisは安いともいえる。ADA-SCIDの確立した治療法である骨髄移植は100万ドルに達することもある。中には、毎年25万ドルもかかる酵素注射療法を受けている患者もいる。薬代や病気の子どもに必要なケアが、あっという間に何百万ドルもの出費につながるのだ。イギリスのケンブリッジにあるコンサルタント会社マップ・バイオファーマのクリスチャン・ヒル社長は「もっと高い値段を予想していました。第一印象は、『ふむ、とても意外だな』というものでした」という。

パニ長官によると、グラクソは、AIFAが最終的に定めた価格の「約2倍」(つまり、約100万ドル)の額を提案した。しかし、Strimvelisはイタリアの慈善寄付金により開発されたため、AIFAは交渉で強い立場にいた。グラクソは交渉に関するコメントを控えたが、パニ長官は「非常に難しい問題です。普段用いられるのは通常の薬を取り扱う(経済)モデルですが、今回の治療法は通常の薬ではないからです。間違いなく、本件は未来の象徴といえるでしょう」という。

遺伝子療法の背景にあるのは、患者のDNAを1回修正すれば生涯にわたって治癒される、という考えだ。Strimvelisは、期待通りの成果を挙げるはずの、初の市販遺伝子療法である。しかし、血友病用眼疾患致命的な脳の病気の治療薬が市販される場合、同様の高価格になる可能性がある。

AIFAが遺伝子療法を認可したのは、すでに抗がん剤で成果主義型の規則を採用しているからだ。AIFAには135の患者登録簿で抗がん剤の効果を追跡しており、すでに2億5000万ユーロが効果なしとして返金された、とパニ長官は明かした。グラクソの遺伝子療法を受ける患者も登録簿で追跡される、とグラクソが公表している。これまでの実績から、グラクソも治療費の約10分の1を返金することになるだろう。

しかし、問題は遺伝子療法が高価かどうかではない。治療法の開発、特に希少疾患の治療法開発で、製薬会社は投資を回収できるかという問題がある。欧州では、毎年約十数人の子どもがADA-SCIDを患って生まれてくる。しかし、その全員を治療しても売上額は約800万ドルにしかならず、年間300億ドル相当の医薬品を販売するグラクソにとっては、インパクトがないのだ。

ボストンにあるサード・ロック・ベンチャーズの共同経営者で遺伝子治療開発企業に投資するフィル・ライリーは「毎年十数人の子どもを治療しても、商業的には採算が合いません。しかし、何千とはいいませんが、何百種類の疾患が似たような患者規模です。希少疾患の遺伝子治療で採算が取れる新たなビジネスモデルが必要です。今後も希少疾病の治療法が開発される」ため、返金保証と月額払いが、高価な治療を受け入れやすくする2つの方法だという。

グラクソは、Strimvelisでは儲けられないという。その代わりにグラクソはStrimvelisを、患者を支援し、細胞や遺伝子を用いた治療法に関する経験を得るための手段と見ている。また、グラクソは、アダプタムンという小企業と連携し、がんを治療する目的で免疫細胞の遺伝子操作を研究している。グラクソの希少疾患グループの広報担当者アナ・パドゥーラ「遺伝子および細胞療法開発の基盤を構築するためにかかった費用の全てを、Strimvelis単独で回収できるとは考えていません。Strimvelisが、今後患者に提供される数多くの革新的な遺伝子療法の中で先駆的存在になるよう願っています」という。アナ・パドゥーラは、グラクソが「業界がこれから医薬品の適切な価格決定および資金調達方法を適用していく必要がある」と認識していると補足した。

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アントニオ レガラード [Antonio Regalado]米国版 医学生物学担当上級編集者
MIT Technology Reviewの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるかについて追いかけ、記事を書いています。2011年7月にMIT Technology Reviewに参画する以前はブラジルのサンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス誌や他の刊行物向けに記事を書いていました。2000年から2009年にかけては、ウォールストリートジャーナルで科学記者を務め、後半は海外特派員を務めていました。
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