KADOKAWA Technology Review
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Data Mining Reveals First Evidence That Absence Really Does Make the Heart Grow Fonder

遠距離恋愛は愛を育むか?
データマイニングで解明

ヒヒとボノボは離ればなれになったとき、時間をかけて関係を修復する。人間も同じであることが、初の大規模データに基づく研究で判明した。 by Emerging Technology from the arXiv2016.08.09

「会えないと一層思慕の情が強くなる」という格言は、離れている友人や恋人同士のより深い愛情を描写している。どのような形でにせよ、数千年の歴史を持つ格言であり、この格言の起源となる最古の表現は、ローマの詩人セクストゥスの記述によると考えられている。

友人や恋人が離れていると、より親密な結び付きを感じることは経験的には知られている。しかし確固たる科学的証拠はあるだろうか?人は自分の友人や恋人と離れていると、より深い結び付きを感じるというのは本当だろうか?

フィンランドのアールト大学のクナル・バッタチャリヤ研究員のチームは、携帯電話記録をデータマイニングすることによって、この諺を支持する証拠を見つけた、という。おかげで、今日、私たちは一種の答えを得られた。さらに研究チームは、人はこうした関係性が薄弱になる恐れがあると、関係性により多くのものを注ぎ込もうとすることも、この研究は明らかにしたようだ。

前提となる話がある。多くの哺乳類が、お互いが離れ離れにされた後、関係性に対してより多くの努力を注ぎ込む、と人類学者たちは長い間述べてきた。たとえば、ヒヒの母親は自分の子に給餌することに相当な時間を費やすので、他の大人のヒヒの身繕いをしてやる社会的な仕事を、ほぼ放棄してしまう。

しかしその子どもが乳離れして、母親が以前より暇を持て余すと、薄弱になり始めていた社会的関係性を修復しようとして、普段よりも、身繕いをしてやることに多くの時間を費やすのだ。会えないと一層ヒヒの思慕の情が強くなる、とも言い替えられるだろう。

離れている個体同士での同じ行動パターンは、その他の多くの動物でも、たとえばボノボ、象、ハイエナでも観察できる。

したがって、人間も、いくらか薄弱になっている関係性を立て直すために、より多くの資源を注ぎ込むと考えても、さほど驚きではない。にも関わらず、この仮説を支持する確固たる証拠を収集することは、長い間ずっと困難だった。.

人間のコミュニケーション行動の研究能力を変えるひとつの要因は、コミュニケーションパターンと関連付けれられた莫大なデータセットが登場したことだ。とりわけ、携帯電話と関連付けられたデータは、旅行、富の分配、恋人・友人づくりのパターンといった、あらゆる種類の人間活動に関する経験的証拠の宝庫である。

そこでバッタチャリヤ研究員のチームは、会えないと一層思慕の情が強くなることの証拠を求めて、この金脈を堀当てることにした。2007年のあるヨーロッパの国の7カ月間の電話記録を元にした、莫大なデータセットを分析したのだ。

研究チームは、関係性の深さは、個人の間で交わされる電話の回数と通話時間に反映される、という仮説を立てた。バッタチャリヤ研究員が導き出したい答えは、関係性が危機に陥る時、人は重要な関係性により多くの時間を費やすのだろうか?という疑問だ。

「友情は、維持するために、絶え間無く時間を注ぎ込み続けることが必要であり、一方で、具体的に時間を注ぎ込むつもりがない関係は、急速に質が低下します」

研究チームはまず、ある二人がお互いにどのくらい頻繁に電話し、通話時間が時間経過と共にどのように変わるかを評価した。バッタチャリヤ研究員は、地理的に離れていて、簡単には会えない2人を特に注目した。さらに時間と距離の断絶が大きくなるにつれて、通話時間がどう変化するかを評価した。

研究結果は、興味深い。研究チームは、最後の電話からの経過時間が平均より長い時、2人の通話時間は明らかに長くなることを発見した。言い換えれば、人はより長く連絡が途絶えていれば、途絶えていた時間を埋め合わせようとして、より長く時間を費やすのだ。

「研究結果から明らかなのは、2人の相互連絡の間隔が長くなると、通話時間は対数関数的に長くなることです」

しかし研究チームは、いくつかの注意事項も見つけた。埋め合わせ効果は、男性同士や女性同士のほうが顕著だし、若年層、特に30代同士通話では著しく目立っている。また、埋め合わせ効果は、距離が離れている人同士では強烈に作用する。

「お互いに十分頻繁に連絡が取れない時、次回の電話でより多くの時間を使うことによって、埋め合わせようとすることを、研究結果は示しています」

言い換えれば、人は他の霊長類、そして多くの社会性のある動物と、関係性を維持することについてはまったく同じなのだ。.

もちろん、今回の証拠は、人が埋め合わせ的な電話をする時、「思慕の情」が実際に強くなっているのかどうか、どのように感じているかについては、何も明らかにはしていない。しかし、もし関係性に対して使われる時間の量が、この種の感情の代用物であるとするならば、結論は明らかだ。つまり、私たち全員が、大切な人に会えないと、一層思慕の情が間違いなく強くなるのだ。

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