KADOKAWA Technology Review
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Why Range Anxiety for Electric Cars Is Overblown

ガソリン車の9割は
電気自動車に置き換え可能

MITの研究者が、現在の電気自動車でも約9割のガソリン車を置き換えられることを試算した。 by Catherine Caruso2016.08.15

電気自動車には、ガソリンに依存せずに済むメリットがある一方で、不安もある。ほとんどの電気自動車は、充電なしでは、内燃機関の自動車ほどには遠くまで走れないのだ。そのため、電気自動車の普及を巡っては、常に「走行距離不安症」に話が向いてしまう。

だが、この懸念が行き過ぎだと示す研究がある。マサチューセッツ工科大学(MIT)のジェシカト・ランシク助教授の研究室が米国中の運転実態を分析したところ、現在利用できる電気自動車は、公道を走る87%の乗用車と置き換えられ、充電なしに目的地に到着(帰着)できることがわかった。政府の予測どおりにバッテリーテクノロジーが向上すれば、2020年までに最大98%までの自動車が、電気自動車と置き換えられる。

テスラに大金を投じる必要はない。ランシク助教授の分析では、日産リーフ(米国での販売価格は約2万9000ドルから)を性能評価指標にした。研究室によると、どれだけ渋滞に巻き込まれる、激しくアクセルをふむかにもよるが、バッテリー残量に10%の余裕をみてもリーフの平均走行距離は1回の充電で119キロある。

研究室が計算に用いたモデルは、2009年の全国世帯旅行調査(NHTS)による、米国人の自動車走行に関する自己申告データと、燃費データ、気温の測定値と米国内の自動車走行のGPSデータを組み合わせている。なお、研究モデルでは、自動車を一晩だけ充電するとみなした。

87%の自動車を日産自動車のリーフと入れ替えれば、ガソリン消費量に莫大な影響を与えると予測できる。入れ替えにより、ガソリンの大量消費傾向は61%削減され、二酸化炭素排出量も劇的に減る、と研究室は見る。米国エネルギー省のエネルギー先端研究計画局(ARPA-ER)による予測どおりにバッテリー性能が改善されれば、98%(国内のガソリン消費の88%に相当する)が電気自動車になる。

気候や都市計画、人口など、変動要因が多く、電気自動車への置き換えが実際どこまで可能なのかは、このモデルの恐らくもっとも興味深い点だ。たとえば、広大なヒューストン市(テキサス州にある都市で、人口は全米4位の約210万人、面積は1500平方kmで全米2位)は88%のガソリン車を入れ替え可能で、ニューヨーク市の87%とそれほど変わらない。モデルによる計算では、非都市部でも、ガソリン車の81%を入れ替え可能だ。

研究室が現在取り組んでいるのは、このモデルを消費者に届けて、どんな日でも電気自動車で足りるのか、特定の日のドライブには向いていないのかなど、自分の使い方にマッチするかを考えられるようにすることだ。

「消費者にはまだ電気自動車を選んでもよい、という情報が欠けており、正しい選択ができるようにしているところです。変化は突然起きるわけではありません。わたしが個人的な移動手段の領域にとても期待している理由は、ひとりひとりの市民が変化を起こせるからです」(ランシク助教授)

電気自動車が幅広く使われるようになっても、課題は残る。最大の問題は、残りの13%の用途は、現在の電気自動車では到達できないほど遠くまで移動していることだ。「高エネ」な用途の日に使える便利な代替手段がなければ電気自動車は選ばれない、とランシク助教授はいう。そのため、ガソリン車の共有サービスは潜在的な解決策のひとつであり、いずれは急速充電所やバッテリー交換も、現実的な選択肢になるだろう。

自宅に夜間充電所を設置するのは、エネルギー供給上難しい。電気自動車と電源システムの信頼性を研究しているボウリング・グリーン州立大学のロバート・グリーン助教授が指摘するように、電気自動車を夜間に充電する需要が多くなれば、夜間の送電網システムへの過負荷にならないかを考慮しないわけにはいかなくなる。モデル研究よりも、新しくて、詳細なデータセットがあれば、研究はさらに正確になるだろう、とグリーン助教授は考えており、「より良いデータは、電気自動車のある生活がどうなるかを、より正確に示すビジョンを与えてくれます」という。

「いつも私がこのような論文を読むとき、よし、怖がることはない、数字どおりにうまくいくさ、と思うのです。バッテリー切れは長距離ドライブや休暇の長旅で起こりうる問題です。でもね、ガソリン車だって、うっかりすればガス欠になるんですよ」

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クレジット Photograph by Miles Willis | Getty
キャサリン カルーソ [Catherine Caruso]米国版 編集部インターン
MIT Technology Review編集部のインターンです。人間を行動的にして、生活を改善するテクノロジーに関心があります。機会があるときはスポーツについての記事も書いています。この秋にMITのサイエンスライティングの修士講座を卒業する予定です。
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