KADOKAWA Technology Review
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Chicago’s Experiment in Predictive Policing Isn’t Working

犯罪予測システム
シカゴ市警、使いこなせず

銃犯罪を減らすためのデータ駆動型ツールは、警察によって無視されたり、誤用されたりして、役に立たなかった。 by Michael Reilly2016.08.22

テクノロジーは犯罪を予測(阻止)できるのか? 銃犯罪の阻止を目指したシカゴ市の最近の実証実験によれば、無理なようだ。

RAND研究所(元米空軍系の政策シンクタンク)のジェシカ・サンダース研究員と同僚らの新しいレポートが検証したのは、シカゴ市警(CPD)による予測警察任務(predictive policing)試験プロジェクト(2013〜2014年)だ。シカゴ市はコンピューターモデルにより逮捕歴のある人を調査し、銃撃する/される(かなり高い割合で重複している)リスクが高いとみなせる数百人のリストを作成した。警察がリストに掲載された人がいる場所に向かい、高リスクな状況を脱するように介入できるだろう、というアイデアだったが「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・クリミノロジー(実験的刑事論文)」誌に掲載されたレポートによれば、プログラムには2つの大きな問題があった。

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まず研究者が発見したのは、3分の2以上の事例で市警中の警察官がリスト(正式には「戦略的対象者リスト(SSL:Strategic Subjects List)」という)を単純に無視したことだ。

全体的にプロジェクトの観察や面談が示しているのは、SSLに掲載された人物に何をするのか、実務的な指示がなかったことで、市警首脳部も管理部門も、試験プロジェクトを気にかけることはせず、分署長への指示もなかった。

このことが示すのは、データを見せられた一般警察官は当惑するだけだったろう、ということだ。Vergeが指摘するように、原因はだいたいわかっている。少なくとも11件の犯罪削減プログラムが同時に進行中だったのだ。そのため、警察官は日常的警察業務をこなすだけになり、上層部が、システムの推奨を誰が使っているのか確認しなくなったとき、リストは脇に追いやられたのだ。

警察がリストに基づいて銃犯罪を防ごうとした場合でも、結果は芳しくない。警察官がリストを使って逮捕したのはたった9件で、サンプルサイズとしては小さいのだ。しかも研究者は、リストに掲載された人物は、システムがフラグを立てなかった人物に比べて、発砲によって逮捕される確率がほぼ3倍も高いことに気付いた。

リストへの掲載が、犠牲になったかではなく、逮捕歴に直接的な影響を受けて作られることもわかったが、このことは慎重に(特に被害にあうリスクが高い社会的弱者が対象の予測では)扱うべきプライバシーや人権への配慮にも関わってくる。

この研究が明らかにしているのは、テクノロジーが犯罪の取り締まりに革新をもたらすとか、シカゴの銃犯罪の潮目を変える、ということではない。まったく不完全な構想により、初めて実証してみたけれど、警察官を混乱させるだけで、補助することにはならなかった、というだけだ。

銃犯罪はシカゴの大きな問題だ。市政がテクノロジーをツールとして問題に対処したくなることは理解できる。だが、データを集めれば何とかなると考えられてはいるが、解決策ではない。テクノロジーは、よくても単にツールのひとつであって、銃と同じく、命に関わるときには慎重に扱わなければならないのだ。

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マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。
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