KADOKAWA Technology Review
×
新潮流「DIYバイオ」は食糧問題解決の切り札となるか
イベント 無料会員限定
DIY Biology Will Be a Key to The Food Problems

新潮流「DIYバイオ」は食糧問題解決の切り札となるか

企業や大学の閉ざされた研究室から飛び出した個人が、生物学をハックする「DIYバイオ」の動きがアメリカを中心に広がっている。日本でもさまざまなバックボーンを持つ有志が集まり、人工培養肉の開発を試みる団体が現れた。彼らが想像する「食糧」を取り巻く未来の社会とは。 by Yasuhiro Hatabe2017.10.10

「かつてはコンピュータは非常に高価なものだったが、価格が下がることによってビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズのような起業家が登場し、マイクロソフトやアップルを生みました。同じ流れが、ものづくりの領域に移行しメイカーズ・ムーブメントとなり、いまはバイオテクノロジーの分野に広がってきています」。

10月4日に開かれたMITテクノロジーレビュー主催のイベント「MITTR Emerging Technology Conference #4 DIYバイオの社会実装~純粋培養肉(Clean Meat)が創り出す新しい未来~」に登壇したShojinmeat Projectの田中啓太氏はこう話した。

Shojinmeat Projectは、細胞培養による食糧生産を実現し、新しい培養の文化をつくることを目的に2014年に設立された有志団体だ。主に取り組んでいるのは、彼らが「純肉」と呼ぶ、純粋培養肉をつくること。世界的にはクリーンミート(Clean Meat)といわれるものだ。

「培養技術の概念自体は、非常にシンプルです。牛から採取した筋肉細胞を、培養液の中で増殖させて、肉を大量に増やす。それを成形・熟成させて、私たちが今食べているのと同じような肉をつくっていこうとしています」。

そもそも、Shojinmeat Projectは、なぜ「肉」をつくろうとしているのだろうか。

「仮に、肉が食べられなくなったらどうなるのか」という問いが出発点だったと田中氏はいう。「どこでも肉が手に入る時代なので、イメージが湧きづらいかもしれませんが、実はすでに、わかりやすい形で問題が起きつつあります」

家畜を育てるには、飼料、水、土地など、さまざまな資源が必要となる。例えば牛肉の場合、それと同じカロリーの穀物を栽培するのに必要な資源の40倍の資源が必要になるという。飼料の栽培のために森林が破壊され、焼畑農業で土地が消費される。水源も疲弊する。

一方で、食糧安全保障の問題がある。「中国で肉を消費する中流階級層の人口が増え、南米やオーストラリア産の牛肉が、日本に来ないで中国に流れていくという現象が見られる」(田中氏)。今後、アジアやアフリカでも中流階級層が増えていくと、世界の肉の需要も増え続けるだろう。

「そうした場合に、資源を大量に必要とする従来の畜産がいつまで持続できるのか。この問題に対するソリューションが必要」と田中氏は力説する。

200グラムの純肉ハンバーグに2800万円

クリーンミートの先駆者として知られる、オランダ・マーストリヒト大学教授のマーク・ポスト医学博士は、2013年にロンドンで「培養肉バーガー」の試食会を開いた。200グラムの純粋培養肉をつくるために、 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. A long-abandoned US nuclear technology is making a comeback in China 中国でトリウム原子炉が稼働、見直される過去のアイデア
  2. Here’s why we need to start thinking of AI as “normal” AIは「普通」の技術、プリンストン大のつまらない提言の背景
  3. AI companions are the final stage of digital addiction, and lawmakers are taking aim SNS超える中毒性、「AIコンパニオン」に安全対策求める声
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る