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バタフライ・チルドレンに希望、遺伝子療法で皮膚の8割を再生
Center for Regenerative Medicine, University of Modena and Reggio Emilia
Gene-Therapy Grafts Have Repaired a Child’s Devastating Skin Disorder

バタフライ・チルドレンに希望、遺伝子療法で皮膚の8割を再生

皮膚の遺伝性疾患である「表皮水疱症」は凄まじい疼痛を伴い、死に至る難病だ。ドイツの病院が表皮水疱症の7歳の患者に対して、体外で遺伝子修正した皮膚を成長させ、患部に移植する遺伝子療法を実施した。 by Emily Mullin2017.11.15

2015年6月、7歳の少年がドイツのやけど病棟に入院した。ただしそれは、火傷のためではなく、ほぼ全身を覆う水疱のためである。水疱は深刻な遺伝性の疾患によるものであった。表皮水疱症と呼ばれる結合組織障害である。

少年は皮膚外層のおよそ60%を水疱に覆われており、命に関わりかねない細菌感染が生じていた。少年の命を救うために、医師たちは実験的な手法を採用した。それは、患者の体から健康な皮膚の細胞を採取して、研究室で遺伝子に修正を加えたうえでシート状に成長させ、体に移植するというものであった。

遺伝子療法として知られるこの手法を使用することで、研究者たちは手足や背中を含む、少年の皮膚の80%を再生できた。この治療についての詳細は、11月8日付けのネイチャー誌に掲載されている。

小さなパッチ程度の皮膚の修復であれば前例がある。しかし、今回のケースは遺伝子療法で再生された皮膚としてこれまでで最大だとスタンフォード大学の皮膚科医ジーン・タング准教授は言う。タング准教授たちは、バイオテク企業のアベオナ(Abeona)と協力し、別のタイプの表皮水疱症に対して類似のアプローチを用いた研究をしている。表皮水疱症には主に3つのタイプがあり、それぞれ異なる遺伝子の遺伝性突然変異によって生じている可能性がある。

A girl with epidermolysis bullosa.
表皮水疱症の少女

表皮水疱症を患う患者は、凄まじい疼痛を感じながら生活している。患者の皮膚は接触に対して非常に敏感で、この病気を持って生まれた人々は「バタフライ・チルドレン(蝶の子供)」と呼ばれてきた。病気は慢性的で治療不可能な傷を生じさせ、感染症を起こしやすく、最終的にはがん化する。表皮水疱症の患者は、世界中でおよそ50万人いる。

今回の研究では、患者の細胞のLAMB3遺伝子に突然変異が含まれていた。LAMB3遺伝子は、皮膚の最上層である表皮の強化に必要なタンパク質の生成に影響し、皮膚上層部と深部が接着するのを助けている。この遺伝子に突然変異が生じると、異常なタンパク質が生成され、それが皮膚の水疱の原因になる。そして最終的には、慢性的な開放創になるのである。

研究者たちは、少年の水疱のない部位から細胞を採取して、その皮膚サンプルから幹細胞を分離した。幹細胞は、新たな健康な皮膚細胞を再生する能力を持っている。遺伝子突然変異を修正するために、研究者たちはLAMB3遺伝子の正しい複製を含むように改変したウイルスを用いて患者の細胞の治療をした。そして、治療した細胞をシート状になるまで成長させて、患者の体に移植した。シートの大きさは5センチ×7.5センチ程度から約13センチ四方まで様々だ。

移植片は、3回にわたる外科手術で移植された。少年の皮膚はその後正常に治癒し、再生された部位には水疱がなくなった。少年は再び学校に通えるようになり、サッカーすらできるようになった。

今回の治療の成果に「とても興奮しています」とタング准教授は言う。タング准教授たちは慢性的な開放創の治療に皮膚移植片を使用しているが、すべての皮膚を置き換えているわけではない。

研究論文の著者の一人である、イタリアのモデナ・レッジョ・エミリア大学のミシェル・デ・ルカ教授は、移植片を使った治療を何度も繰り返し実施する必要はないだろうと言う。

デ・ルカ教授は、「これまでの火傷治療の経験から言えば、この表皮は基本的に永遠に残ることでしょう」と電話でジャーナリストたちに語った。医師たちは火傷の患者を皮膚移植片で治療してきたが、30年以上持ちこたえたと言うのである。つまり、表皮水疱症の治療はこれ一度きりで済むかもしれないのである。

非営利団体、米国ジストロフィー表皮水疱症研究協会のブレット・コプラン事務局長は、現時点では治療法がないこの病気の患者にとって、遺伝子療法は最高の希望だと言う。コプラン事務局長の10歳になる娘は、表皮水疱症の深刻な症状を患っているのだ。

「遺伝子療法を受けられたら、娘の世界は大きく変わることでしょう。まったく新しい人生を得られるのです」。

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エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。
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