KADOKAWA Technology Review
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熱狂から10年、
それでも追い続ける
バイオ燃料の夢
持続可能エネルギー The scientist still fighting for the clean fuel the world forgot

熱狂から10年、
それでも追い続ける
バイオ燃料の夢

10年前に鳴り物入りで始まった高度バイオ燃料の研究は、多額の投資にもかかわらず、現時点では何ら目に見える成果を出していない。燃料の単価は未だにガソリンに遠く及ばず、二酸化炭素削減に本当に役立つかどうかも課題が山積している。だが、カリフォルニア大学バークレー校の合成生物学者キースリング教授の考えは揺るがない。 by James Temple2018.05.28

2008年の暮れが押し迫ったころ、米国エネルギー省は政治家と報道陣をカリフォルニア州エメリービルのバイオエネルギー共同研究所(Joint BioEnergy Institute:JBEI=ジェイベイ)の落成式に招待した。連邦政府から1億2500億ドルの資金援助を得た当時最新鋭の同研究所は、先進的なバイオ燃料への大きな期待を反映したかのようなきらきら光るガラスで覆われたオフィスビルの最上階を占めていた。

「最高の人材が1カ所に集まり、現代において最も重要で困難な課題の1つに取り組んでいます」。カリフォルニア大学バークレー校の合成生物学者であり、JBEIの最高責任者であるジェイ・キースリング教授はそう語った。

JBEIの使命はセルロース資源から安価なバイオ燃料を製造することだ。つまり、トウモロコシなどの食用穀物ではなく、スイッチグラスなどの雑草の葉と茎を使って燃料を作ろうというわけだ。JBEIは、エタノール燃料を超えるようなカーボン・ニュートラルな燃料を作り、標準的な自動車や航空機、船舶、トラックの燃料として利用可能にしようと尽力した。もしうまくいけば、温室効果ガス排出量と米国の石油依存度の劇的な減少が約束されていた(「The price of biofuels」を参照)。

キースリング教授は、この分野を誰よりも進歩させ、新しいバイオ燃料の有望性に資金を引き寄せた人物である。JBEIの運営だけでなく、構想を現実にするためにLS9やアミリス・バイオテクノロジーズ(Amyris Bootechnologies)など潤沢な資金を備えたスタートアップ企業をいくつか共同設立した。

しかしそれから10年が経ち、この分野はほうほうの体の状態だ。JBEIなどの連邦政府から資金を得ているバイオエネルギー研究所は生き残っているが、最も先進的な研究をしていたバイオ燃料企業は夢を追うのをやめた。その中にはキースリング教授の企業も含まれている。

最後のブッシュ政権の終わりには再生可能燃料の規格が導入されたが、米国企業はその規格に基づいたセルロース系バイオ燃料をほんのわずかしか製造していない。しかもそのほとんどは、トウモロコシの茎などの農業廃棄物から派生したエタノール燃料だ。目標が達成できていないので、米国環境保護庁は高度バイオ燃料企業の債権放棄書を毎年発行し、業界がほぼ通常通り業務を継続できるように取り計らっている。

JBEIは科学的には進歩を遂げている。しかし、もし現在、JBEIの作物・技術・微生物による燃料の製造を商業規模で展開したとすると、出来上がった燃料の価格はガソリンスタンドの14倍になるだろう。

安価な高度バイオ燃料を製造することは、予想していたよりもはるかに難しい問題だったのだ。「おそらく問題を過小評価していました。加えて、おそらく売り込み過ぎてしまいました」と、キースリング教授はJBEIのオフィスで先月実施したインタビューで認めた。

それでも、キースリング教授自身は、バイオ燃料の将来に希望を失っていない。ガソリンやディーゼル、ジェット燃料の代替物になり得ると考えている。

「あっという間に望みを絶たれました」

キースリング教授はネブラスカ州の小さな町で4世代続いているトウモロコシ農場の家庭で5世代目として育った。ミシガン大学の化学工学の大学院で研究中に、大きな問題を解決できる可能性を持った遺伝子工学に魅了された。ポスドクとしてスタンフォード大学で研究した後、28歳でカリフォルニア大学バークレー校の教授に就任した。

キースリング教授は同校で、合成生物学のパイオニアとしての研究に着手した。酵母と細菌を、イソプレノイド(ゴム、抗生物質、芳香などを製造するのに使う化合物の類)を吐き出す小さな「工場」に変える研究だ。最も際立った成果は、何種類かの有機体から抽出したDNAを大腸菌と酵母に挿入して、アルテミシニン(マラリアの数少ない有効な治療薬)の前駆物質を合成する方法を開発したことだ。この研究は、合成生物学における最初のブレークスルーの1つと考えられている。

キースリング教授の研究対象が、分子的に石油に似た炭化水素であるアルテミシニンから、バイオ燃料に至ることは自然の成り行きだった。過去のインタビューでキースリング教授は、遺伝子をいくつか取り除いて別の遺伝子を追加するだけのことだと述べている。

2008年前半、キースリング教授のスタートアップ企業であるアミリス・バイオテクノロジーズは、数年以内に遺伝子操作した微生物を使って、サトウキビからバイオディーゼル燃料を年間約38億リットル、1リットル当たり38セント(1バレルあたり60ドル)と廉価で製造する計画を発表した(「Searching for biofuels’ sweet spot」を参照)。

しかし2008年の経済不況が長引くにつれ、原油価格がピーク時の1バレル当たり150ドル近辺から急落し、年末までに1バレルあたり30ドル程度にまで下がった。「原油価格が1バレル30ドル程度まで下がったときに、再生可能エネルギーに関心を向けさせることは …

10年前に鳴り物入りで始まった高度バイオ燃料の研究は、多額の投資にもかかわらず、現時点では何ら目に見える成果を出していない。燃料の単価は未だにガソリンに遠く及ばず、二酸化炭素削減に本当に役立つかどうかも課題が山積している。だが、カリフォルニア大学バークレー校の合成生物学者キースリング教授の考えは揺るがない。
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