KADOKAWA Technology Review
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The Spies Who Loved iPhones

オバマ大統領はiPhone禁止
ハイテク化進まない情報機関

米国の情報機関は、現在人気のテクノロジーが侵入しやすいことを誰よりもよく知っている。だが便利さにかなわず、スマホやWi-Fiを使い始めたスパイもいる。 by Jamie Condliffe2016.09.23

テクノロジーは、多くの人々の生活を、より効率的にするために作られてきた。だが、政府のスパイにとって、テクノロジーは諸刃の剣でもある。

周知の通り、米国国家情報局(NSA)は、私たちがデジタルライフで生み出すデータを貪欲に収集し、何年もかけて、その収集能力を向上させてきた。NSAはスマートフォンを盗聴したり、ソフトウェアのぜい弱性を利用したり、データを強引に抜き出したりする、テロリスト予備軍の罪を立証できるようなアルゴリズムを書いている(または無実の人のプライバシーを侵害している)。常に誰かとつながっていたい、という社会全体の欲求は、NSAにとってはまさに好都合だ。

スパイはデジタルなつながりにはいろいろな侵入経路があることを熟知しており、私たちの多くが当然のように使うテクノロジー(スマホ、タブレット、Wi-Fiさえも)の使用をためらってきた。しかし、こうしたテクノロジーを使わなければ、スパイの仕事の効率は高くならない。米国国家地球空間情報局(NGA)のマット・コナー補佐官(情報セキュリティ担当)はブルームバーグによる取材に「こうしたツールの使用を自ら禁じれば、私たちは、自分たちを不利な状況に追い込むことになります」と述べた。

だが、コナー補佐官の言葉には、憧れの気持ちが透けて見える。切望の気持ちが。マット、我々の理解が正しければ、私たちも君の気持ちには賛成だ。ブラックベリーは、もうちょっと時代遅れだよね。

そこで、NGA(他の政府機関向けに、地図を作成したり人工衛星が撮影した画像を提供したりしている)は、派手な買い物を(内緒で)してきた。バージニア州スプリングフィールドにあるNGA本部は、安全なWi-Fiネットワークに守られている。ただ、この高価な安全対策は、簡単には受け入れられなかった。ネットワークを外部から厳重に守るために必要な高額な機器や設備に対し「その価値があるのか懐疑的」な人が明らかにいたようだ。

NGAは、アマゾンやマイクロソフト等のクラウドサービスも、暗号化または通常ネットワークで使い始めている。さらに昨年から、ブラックベリーの代わりにiPhoneを使い始めた職員もいる。ただし、職場では使えない。そこまで気を緩めたわけではないのだ。

新奇なテクノロジーを思いつきで使い始めてしまう行為は、依然として問題があり、対策も必要だ。たとえば、もしスパイが、Webカメラ内蔵のノートPCを使う場合、レンズに目隠しをするのが賢明だ。米国連邦捜査局(FBI)のジェームス・コメイ長官は、実際そうしていると認めた

バラク・オバマ大統領には悲しい話だが、テクノロジーを制限する魔の手は、ホワイトハウスにも及んでいる。オバマ大統領のiPadは、自身が触る前に、米国国防先端研究計画局(DARPA)によって改修された。恐らくカメラやGPS、Bluetoothなどの機能(便利なものばかり)を除去したはずだ。(オバマ大統領はiPhoneの使用を許可されていない)

米国の安全を確保しながら、テクノロジーを味わうために、スパイや政府高官は、代償を払わなければならないのだ。ブラックベリーをやめるには、まだ、何か犠牲が求められる状況なのだ。

(関連記事:Bloomberg, The Hill, “The Trials of Barack Obama, Gadget Hound”)

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ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
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