KADOKAWA Technology Review
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The Human Cost of the Lithium Battery Revolution

コンゴの炭鉱労働者
自宅の床でコバルトを掘る

ハイテクなライフスタイルを支えるリチウムイオン電池の薄汚い真実。 by Michael Reilly2016.10.04

この記事を読むと心が痛むかもしれない。携帯電話やノートPC、ハイブリッドカー、電気自動車。どれかを持っているなら、座ってじっくり読むべきだ。

地域紛争の資金源獲得のため、ダイヤモンドや鉱物資源が採掘されている話は聞いたことがあるだろう。また、アップルなど、大手テック会社が消費者向の自社製品に使われる原材料の産出地を選別しようとしている(政府に命令される場合もあるが)ことも多少は耳にしているかもしれない。だが「グローバリゼーション」や「サプライチェーン」、「劣悪な労働環境」といった話は、どこか遠くの世界や単に学術的な話に聞こえてしまう。

ワシントンポスト紙は広範囲にわたる取材と悲痛な真実を連載記事で描き出した。

中国北東部にある黒鉛工場近くに住むユ・ユアンを例にしてみよう。動画内でユアンは自宅の窓枠に積もったチラチラと光るススを拭って、荒れたトウモロコシ畑を指差した。作物は黒鉛のチリで黒く染まり十分に育たない、とユアンはいう。ユアン夫婦は自分たちが吸う空気や、飲めなくなった水を嘆いている。黒鉛工場が廃棄した化学物質によって汚染されたのだ。

「あの工場がすっかり滅茶苦茶にして、ここにはもう何もないのです」

Workers in Lubumbashi, Democratic Republic of the Congo, tend to an oven that processes slag from the region's cobalt and copper-rich ores.
地元産のコバルトや銅を豊富に含む鉱石のスラグを熱処理しようとしているルバンバシ(コンゴ民主共和国)の労働者

ワシントン・ポスト紙はコバルト黒鉛を出発点に、鉱山から工場、さらにリチウムイオン電池の陰極と陽極として消費者が手にする終着点までの道のりを、現在までに2本の記事で追いかけている。世界規模の徹底した調査報道とビジネスレポートを融合した優れた記事であり、私たちのハイテクなライフスタイルを支える機器を持つことの意味に向き合えと訴えている。

黒鉛を最も採掘して加工しているのは中国だが、大量のコバルトはコンゴ民主共和国の鉱山から産出される。コンゴでは「職人技を持つ」鉱山労働者が鉱石を求めて自宅の床を掘り進めることがある。落盤事故も多く、死傷者もしょっちゅう出る。

製錬され、原材料に加工された資源は最後はアジアのどこかに行き着き、おそらく名前を聞いてもわからない企業が電池の部品に変え、世界規模の巨大電池メーカー(サムスンSDIやLG化学、パナソニックなど)が部品を購入し、電池を製造し、携帯電話やコンピューター、自動車に組み込まれる。

リチウム電池は他の化学電池と比べて軽く、エネルギー密度が高いため産業に欠かせない。電源としてリチウム電池が使えなければ今のスマホはあり得ない。リチウム電池はハイブリッドカーの電源でもあり、台数で見ればまだ多くはないが、急激に普及し始めている電気自動車は存在し得ない。

特に、電気自動車への関心は、環境を汚染しないという主張が受け入れられて加速している。確かに電気自動車のほとんどが販売される国では真実だが、視野を広くして問題を考えれば、現実は全く違うのだ。

(関連記事:The Washington Post, “Why We Still Don’t Have Better Batteries“)

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マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。
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