2009年以降生まれには一生売らない——英「たばこ根絶」への賭け
2009年1月1日以降に生まれた人には、生涯たばこを売らない——。英国が可決した世代別販売禁止は、消費削減ではなく「根絶」を掲げるエンドゲーム政策だ。だが同様の法を2022年に定めたニュージーランドは施行前に廃止し、英国でも右派政党が撤回を約束する。前例なき賭けは根づくのか。 by Jessica Hamzelou2026.07.06
- この記事の3つのポイント
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- 英国が2009年以降生まれへのたばこ永久販売禁止を法制化し、完全根絶を目指す「エンドゲーム」政策が現実化
- 類似した小規模な取り組みが広がる一方、ニュージーランドでは政権交代により廃止され、政治的持続性が課題に
- 個人の自由対依存症からの自由という論点が残るが、各国保健当局の関心が急速に高まっている
2人の幼い娘を持つ親として、私はよく、娘たちの子ども時代が自分のそれとどう違うかを考える。7歳の娘は学校で人工知能(AI)について学んでいる。5歳の娘は毎週インターネットを使った宿題が出される。そして2人とも、喫煙という考え自体に強い嫌悪感を示す。
私が幼かった頃、そのような感覚は一般的ではなかった。両親はたばこを吸っていた。家族が経営するレストランの客も吸っていた。アニメのキャラクターも吸っていた。友人たちと一緒に、煙草の箱に似た小さなパッケージに入った甘い白いスティックを買い、校庭で喫煙ごっこをしたものだ。喫煙は文化の中心的な存在だった。
だからこそ、英国が最近可決したたばこ製品に関する世代別販売禁止法は、非常に大きな意味を持つように感じられる。2026年たばこ・電子たばこ法(Tobacco and Vapes Act 2026)の一環として、小売業者は2009年1月1日以降に生まれたすべての人に対し、たばこ製品を永久に販売することが禁じられる。その人々が18歳になろうと、38歳や68歳になろうと関係ない。その日付以降に生まれた人への販売は、常に違法となる。
これは「エンドゲーム」アプローチと呼ばれるものだ。課税やショッキングな画像といった多くのたばこ規制戦略が消費量の削減を目指すのに対し、英国のような政策は完全な根絶を目的としている。これは新しいアプローチであり、効果があるかどうかはまだ誰にもわからない。
モルディブは昨年11月、世界で初めて世代別喫煙禁止法を施行した国となった。その結果がどうなったかを判断するには、まだ時期尚早だ。
また、こうした法律が存続するかどうかも不明だ。2022年、ニュージーランドはより広範な禁煙法の一環として同様の世代別販売禁止法を可決した。しかし、それが施行されることはなかった。2024年2月、新政権によって廃止されたのだ。
英国では、主要2政党がこの禁止法を支持している。しかし、近年支持率が急上昇している右派政党を率いるナイジェル・ファラージは、「リフォームUK党が混乱した国の再建に着手する機会を得れば、世代別喫煙禁止法は長くは続かないでしょう」と約束している。
弁護士で、権利擁護団体「アクション・オン・スモーキング・アンド・ヘルス(Action on Smoking and Health)」の元政策部長であるクリス・ボスティックは、11年前に米国で世代別禁止の考えを推進し始めたと語る。当時は、大手の健康慈善団体からも支持を得るのに苦労したという。「私たちは頭がおかしいと言われました。そして、これは不可能だと」。反対派は、禁止令が個人の自由を侵害すると主張した。
「公衆衛生の観点からの反論はこうです。では、依存症からの自由はどうなのか、ということです」と、英国バース大学のたばこ規制研究者ブリッタ・マテス博士は言う。喫煙者のほとんどは10代の頃に吸い始め、禁煙を望んでおり、吸い始めなければよかったと思っている。たばこは、史上最も有害な消費財と言っても過言ではない。世界保健機関(WHO)によれば、禁煙しない喫煙者の半数が命を落とす。
たばこは喫煙しない人の命も奪う。WHOによれば、毎年たばこが原因で死亡する700万人のうち、160万人は受動喫煙にさらされた非喫煙者だ。
世代別販売禁止は長期的な戦略であり、その恩恵を受けるのは将来喫煙を始める可能性のある世代だ。一方、多くの専門家は、すでに喫煙している人々への対策も政策の中核に据え、複数の施策を組み合わせることが最善だと考えている。ニュージーランドのたばこ規制政策を研究してきたオタゴ大学のジャネット・ホーク教授によれば、その有力な組み合わせの1つが、ニコチン含有量を極めて低い水準に制限することと、フィルターを禁止することだ。フィルターは、多くの人が信じているように喫煙を安全にするものではなく、環境にも悪影響を及ぼすためである。
しかし、10代の若者がそもそも喫煙を始めないようにするという発想は魅力的であり、その考えは喫煙者の多くにも支持されている。そして、このアイデアはかつてほど急進的なものとは見なされなくなってきた。
米国でも、小規模ながら静かにこうした取り組みが広がっている。2021年以降、ボストン近郊の町ブルックラインでは、2000年1月1日以降に生まれた人へのたばこ製品の販売を禁止している。この動きは徐々に広がりつつあり、ボスティック元部長によれば、現在ではマサチューセッツ州内で23の自治体が同様の販売禁止措置を導入している。さらに、ミネソタ州、ニューヨーク州、カリフォルニア州にまたがる9つの自治体では、たばこ規制の「エンドゲーム」に向けた別の政策が実施されている。
英国で法律が成立したことで、この発想はこれまでになく現実味を帯びるようになった、とボスティック元部長は言う。彼の同僚たちのもとには、すでに世界各国の保健当局から問い合わせが寄せられているという。「『英国が本当にこんなことを実現したなんて信じられない。私たちの国でもできるだろうか?』という反応です」と話す。
規範は変わる。私も多くのミレニアル世代と同じように、屋内喫煙が禁止された後、初めて夜遊びに出かけた日のことを鮮明に覚えている。服にはたばこの臭いが付かなかった。髪もまだ清潔なままで、翌朝に喉がイガイガすることもなかった。そんなことが今では当たり前になっている。私の子どもたちにとっては、「たばこのない社会」が当たり前の世界になってほしいと願っている。
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- ジェシカ・ヘンゼロー [Jessica Hamzelou]米国版 生物医学担当上級記者
- 生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
