KADOKAWA Technology Review
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How Quantum Programing Turned into a 3-D Puzzle Game

3Dパズルを解いて
量子プログラムを最適化

3Dパズルが好きなら量子プログラムも好きになるだろう。腕試しができるオンラインゲームも公開されている。 by Emerging Technology from the arXiv2016.10.10

ソフトウェアとはコード化された情報と命令から成るコンピューターの一部だ。ソフトウェアは、少なくとも従来のコンピューターに関しては、命令を実行する物理的構造物であるハードウェアから完全に独立している。

しかし近年、コンピューター科学者は、情報を処理するために不思議な量子機械工学の法則を使う量子コンピューターに注目するようになった。結果として、量子コンピューターは格段に処理能力が高いコンピューター処理を実現する。しかし、量子の世界では、ソフトウェアとハードウェアを分離するのはとても難しい。

にもかかわらず、量子ソフトウェアを考える新しい強力な方法が出現し始めている。この手法が面白いのは、量子プログラミングを3Dパズルのようなものに変換することだ。この点は興味深い疑問につながる。量子プログラミングを、有益な結果を作り出すようにゲーム化できるのだろうか?

10月7日、日本の理化学研究所(埼玉県)に所属するサイモン・デビットの研究により、その答えがわかった。デビットは量子プログラミングの将来に重要な役割を果たす可能性を秘めたオンラインゲームを制作した。このゲームは、人間がより性能の高いプログラムを制作する手助けをするだけではなく、新世代の人工知能機械が自分で作業に取り掛かれるようにする。

まずは背景知識を少し説明しよう。量子プログラムのひとつの理解の仕方は、シートのような2次元の量子ビットの格子、またはクリスタルのような3次元の格子だ。その格子に穴、もしくは欠損を作ることで情報がコード化される。

これは、情報をその位置に効果的に固定するという格子の特性のため、情報がエラーから自然と保護される非常に効果的な手法だ。

情報は、欠損を格子上で移動させ、もつれた糸の玉のようにお互いに巻きつけることで処理できる。もつれさせる過程が論理ゲートを発生させ、それと共に計算処理が実行されるのだ。

これは基本的にはトポロジー的なプロセスだ。もつれがどれだけ複雑になろうと、トポロジー数学が全過程を記述する。格子がトポロジー上同一である限りは、その他のもつれの詳細は関係ないのだ。

これは有名な「ドーナツとコーヒーカップの関連性」と類似している。ドーナツとコーヒーカップの形状はまったく異なるが、どちらもひとつの穴があり、トポロジー的には同一なのだ。ドーナツもコーヒーカップも、引き裂かずに、押したり伸ばしたりして、もう一方の形に変換できる。

量子プログラムに関してもまったく同じだ。2つのプログラムがトポロジー上同一である場合、どれだけ格子がもつれているかとは関係なく、同じ処理が実行される。

これは興味深い問題を提起する。量子コンピューター・プログラムを実装した、もつれた格子があるとする。この格子のトポロジーを保全しながら、どれだけもつれを単純にできるだろうか? 言い換えれば、量子プログラムはどう最適化できるのだろうか?

現在の量子コンピューターはたった数個の量子ビットしか扱えないので、これは重要な問題だ。量子リソースが非常に乏しいので、プログラムが単純であればあるほど、より簡単に実行できる。

この先がデビットの出番だ。デビットは量子プログラムを、連結した部分を持つ3D格子として視覚化する効果的な手法を開発した。この3Dの格子は情報が保管・処理される方法を表している。最適化の作業とは、同一のトポロジーを保持しながら連結部分を動かしたり、縮めたり、伸ばしたりして調整し、格子を単純化することなのだ。

デビットは作業をゲーム化することで研究を進めた。デビットは量子プログラムの視覚化をMeQuanicsというWebベースのパズルにしたのだ。ゲームの背景にあるアイデアは、量子プログラムによる宇宙船の操縦だ。しかし現在あるプログラムは大きすぎるため、さまざまなツールを使ってプログラムを作り直さなければならない。

ゲームは非常に面白く、他のいろいろなパズルゲームとそれほどは違わない。多少バグがあるものの見た目もよく、数分暇があるなら試してみる価値はある。

ゲームには隠れた側面がある。量子プログラム最適化の過程を早めるもうひとつの方法は、機械学習アルゴリズムが作業をするように訓練することだ。機械学習アルゴリズムは他の作業において大成功を収めており、この種の最適化に使うには理想的だ。

しかし問題がある。機械学習アルゴリズムは訓練される必要があり、また学習に使用できる例となる膨大な量のデータセットが必要だ。しかし、量子プログラム最適化は非常に新しいため、訓練に適切なデータセットはまだない。

だからMeQuanicsが重要なのだ。このゲームをプレーする過程で、機械を訓練するための例のデータベースが作られる。そして十分なデータがあれば、機械はいつか人間の性能を上回るはずだ。グーグルのAlphaGoプログラムが最近、オンライン囲碁ゲームの莫大な量のデータをむさぼり食った後、世界トップ級の人間の囲碁棋士を破った時、機械学習がどんなに威力のあるものかが証明されたように。

デビットのゲームは、新しい世代の人びとに量子プログラミングを伝える可能性を秘めた興味深い研究だ。そして何よりもまず、学習しながら楽しませてくれる。

参照:arxiv.org/abs/1609.06628:3Dパズルとコーヒーとドーナツを使うプログラミング量子コンピューター

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