KADOKAWA Technology Review
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Congress Is About to Expand Government Hacking Powers

米政府による合法ハッキングで、一般人も捜査対象に

プライバシー保護団体や法学者は、押収せずにデバイスを捜査できる令状を、捜査機関が容易に取得できることを懸念してる。 by Mike Orcutt2016.11.30

犯罪捜査でFBIがコンピューターをハッキングする権限は、木曜日までに米国連邦議会が介入しない限り、大幅に拡大される。

現状でも、捜査官は刑事事件の容疑者のデバイスの情報を遠隔からアクセスする令状を取得できる。しかし、令状は捜査対象のデバイスが存在する地域を担当する裁判官から取得する必要がある。もし捜査官がデバイスの位置を把握できない場合、あるいは誤って推測(容疑者がTorのような匿名性を実現するサービスを利用している場合にあり得る)すると、証拠を逃してしまうかもしれない。実際、2014年に児童ポルノ・サイトに関わる数百名の容疑者を捜査した際にはこうした事例があった。

木曜日から発効する新ルールでは、コンピューターの所在地が「何らかのテクノロジーで隠されている」場合、連邦裁判官は管轄外のコンピューターに遠隔からアクセスし、その情報を検索し、差し押さえ、コピーするための令状を発行できるようになる。ルールの変更により、10月に発生した大規模なインターネットのシャットダウンの原因になった類いのボットネットも調査しやすくなる。捜査官は、1枚の捜査令状で、5つ以上の管轄区域に散らばる「不正にダメージを受けた」コンピューターに遠隔からアクセスできるようになる。

米国司法省によると、連邦刑事訴訟規則第41条の変更により、オンライン犯罪に対処でき、令状の発行プロセスを効率化する以上の効果を期待できるという。ロン・ワイデン上院議員(オレゴン州選出)に宛てた11月18日付けの書簡で、司法省のピーター・カジキ長官補佐は、この修正は「現在の法律において認められている捜索や差し押さえ、遠隔技術を使った全ての捜索方法以上の権限を政府に与えるものではない」と述べた。

しかし、プライバシーや市民の自由を擁護する活動団体、グーグル等のテック企業や議会内の反対派は、修正案は政府の市民に対する監視権限を必要以上に高める危険があるという。広く解釈できる修正案の文言は政府が言及するよりもずっと多くのさまざまな状況に当てはまる、と懸念しているのだ。ワイデン上院議員は、この種の『重要な政策決定』は議会を通すべきだという。

たとえば、居場所を隠すための「テクノロジーの使用」には、VPN、所在地を特定不能にするアド・ブロッキング・ソフトウェア、ソーシャル・メディアのロケーション設定の変更まで、多くのテクノロジーや人々の行動が当てはまる。新規則の言い回しは、もし米国民がどれかに当てはまり、裁判官がデバイスと事件は関連していると判断すれば、司法当局は、誰のデバイスでもアクセスできることになる。電子フロンティア財団のレイニー・ライトマン(運動担当ダイレクター)は「もしこの規則に歯止めをかけなければ、所在地というプライバシーを何らかのテクノロジーで守ろうとすれば、検察官や、技術に疎い裁判官の手中に陥る可能性があるのです」と持論を述べた。

また、世界中に数百万台あるといわれるボットネットに組み込まれたコンピューターの所有者の憲法修正第4条(理由のない捜索や逮捕、押収の禁止)に関する権利に、新規則が及ぼす影響も懸念される。ジョージ・ワシントン大学法学部で刑事手続きとコンピューター犯罪を専門にし、規則の変更を提案した委員会の委員でもあるオーリン・カー教授は、議会は、ボットネットに組み込まれたコンピューターの所有者に対する政府の態度を検討する必要がある、という。「政府は、被害者のコンピューターを感染されたままにして介入しないのでしょうか? それとも、感染したコンピューターを修復する何らかの措置をとったり、第三者にそうさせたりするのでしょうか? もし感染を知らせ、修復するなら、どのように実施するのでしょうか?」

こうした疑念にまだ答えはなく、規則変更の反対派は、議会が精査する時間を取るべきだとしている。先週、議会の超党派グループは変更案の施行を6カ月間遅らせる法案を提出した。議会がこの変更の施行を今週にするか延期するかの決定は、トランプ政権下のオンライン・プライバシーやサイバーセキュリティー政策に関する議論の展開にも影響するだろう。

プライバシー法を専門にするサンフォード大学法学部のウッドロー・ハーツォッグ教授は、コンピューター犯罪法の歴史は、曖昧な言い回しが、テクノロジーの進化に伴って予期せぬ結果を生み出してきたという。「いかなる微細な不測の事態や、予測の誤りも、思わぬ権力の拡大に繋がる可能性があります」というハーツォッグ教授は、1986年に通過したコンピューターの不正利用と悪用に関する法律が、何を犯罪と捉えるかの点で「信じ難いほどの混乱」を生み出してきたという。このような反省からも、規則41条の変更には「もっと議論が必要ですし、また、おそらく何らかの法的な是正が必要だと思います」という。

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暗号通貨とブロックチェーンを担当するMITテクノロジーレビューの准編集者です。週2回発行しているブロックチェーンに関する電子メール・ニュースレター「Chain Letter」を含め、「なぜブロックチェーン・テクノロジーが重要なのか? 」という疑問を中心に報道しています。
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