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中国テック事情:DL数トップに突如躍り出た「Temu」って何だ?
Stephanie Arnett/MITTR
This obscure shopping app is now America’s most downloaded

中国テック事情:DL数トップに突如躍り出た「Temu」って何だ?

中国発のショッピング・アプリ「Temu(ティームー)」が米国のアップストアのダウンロード数でトップに躍り出た。一般的にはまだ無名のこのアプリは、中国発のネットサービスとして新たな成功を収められるのだろうか。 by Zeyi Yang2022.11.09

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

中国共産党第20回全国代表大会についてのニュース・ラッシュがようやく終わった。今回、私が取り上げたいのは、この間におそらく多くの方が見逃したであろうニュースだ。新たな中国の電子商取引(EC)アプリが登場し、静かに、だが急速に、成長しているのだ。その名は「ティームー(Temu)」。10月17日には、米国のショッピング・アプリのダウンロード数トップに躍り出た。

ティームーがアマゾン、ウォルマート、それに中国の競合アプリであるシーイン(Shein)を抜いたというのは、かなり大きな出来事だ。「え?ティームーなんて聞いたことすらないよ」という反応がほとんどだろう。

実は、私も聞いたことがなかった。アリババ、シーイン、そしてバイトダンス(ByteDance)に続く、中国の巨大テック企業による米国EC市場への大規模な参入の試みとして注目すべき動きではあるものの、ティームーはまだ一般には無名といっていい。

ティームー(ちなみに、このアプリ名の発音には公式発表がなく、私は「ティームー」と読んでいる)は、中国のEC企業であるピンドゥドゥ(拼多多、Pinduoduo)がグローバルに展開したものだ。ピンドゥドゥは、2015年に創業した。それまで、中国のEC市場では、アリババによる独占状態が10年以上にわたって続いてきたが、ピンドゥドゥは競争を勝ち抜き、2020年にはアリババを抜いて、中国で最も多くの顧客を抱えるEC企業に躍り出た。現在、ピンドゥドゥは7億3000万人を超える月間アクティブユーザーを誇る。米国の人口の2倍を超える驚異的な数字だ。ピンドゥドゥは、極めて安価に商品を提供していること、そしてユーザーを巧みに囲い込める革新的なギミックを展開していることで有名だ。

それでも、ピンドゥドゥは、中国国外では依然として無名の存在だ。では、ティームーはいかにして、iOSのアップストア(App Store)のショッピング・カテゴリーでトップに躍り出られたのだろうか。

EC分析会社であるマーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)の創業者であるユオザス・カジウケナスは、「この成長のほぼ大部分は広告による効果だと考えています」と話す。「ティームーについてのソーシャルメディアでの言及が比較的少ないからです。そのため、自然発生的にティームーというブランドが認知されるような状況には、まだほとんど至っていないと考えています」。

個人的な感覚としても、少なくともこの前半部分は正しそうだ。あらゆるところでティームーの広告が目に入ってきているのだ。ひょっとすると、中国語が読めるユーザーにターゲットを絞っているから(私が見た広告は中国語だった)、もしくは、ティームーという名前を(仕事のため、そして特にこのニュースレターのために)グーグル検索してしまったがために、あちこちで広告が表示されているのかもしれない。広告は、Gメールの受信箱でも目にした。

メタによると、ティームーは9月以降、メタの各プラットフォームで1000種類以上の広告を、英語と中国語で配信している(それと比較して、シーインやアリエクスプレス=AliExpressなどの、類似の中国のアプリが配信している広告は数十種類にとどまっている)。アプリストアの広告データベースであるアップ・グローイング(App Growing)によると、ティームーのiOS広告は米国およびカナダの消費者を、アンドロイド広告はその他7カ国の消費者をターゲットに設定しているとのことだ。

では、ティームーでは何が買えるのだろうか。衣類からキッチン製品まで、それに車の部品から電子機器まで、何でも揃っている。品揃え以外にティームーを差別化する要素としては、おそらく「とにかく安い」ことが挙げられる。途方もない安さだ。さっと見てみたところ、イヤリングは60セント、家庭用防犯カメラは4ドル、ワイヤレスイヤホンも4ドル、そしてスニーカーは6ドルで売られていた。Webサイトには、注文の80%は10日以内で配送されると書かれている。アマゾンよりは遅いものの、シーインとは同レベルだ。

私も正直なところ、商品がとても安くて魅力を感じた。しかし、買い物をするときには、価格以外にも考えることがある。単に安いというだけで、米国の消費者はティームーを使うようになるだろうか。

中国で安く作られた商品には、数十年前から悪いイメージがつきまとっている。それでも、中国で安く作られた商品も米国で成功する可能性はあるとされ、その例として中国のファストファッション通販であるシーインが挙げられることは多い。実際、Z世代のクローゼットは、シーインの衣類であふれつつある。一方で、安い中国の製品を提供しつつも、シーインほどの影響力を確立できていないプラットフォームが存在することも事実だ。アリババの海外向けバージョンであるアリエクスプレスは、2010年からあり、極めて安い価格で販売しているにもかかわらず、米国で本格的にブレイクするには至っていない。

シーインは、アリエクスプレスがうまくできなかったことを、うまくやってのけたのだ。それは、マーケティングと商品の見せ方だ。シーインは、インフルエンサーに報酬を支払って、その衣類を試着した様子を魅力的な動画にまとめてもらい、ユーチューブやティックトック(TikTok)で公開してきた。こうすることで、シーインの商品は何よりもまず楽しくてトレンディーだというイメージを広めているのだ。シーインの商品が中国製であるということは、副次的な情報に過ぎないということだ。

シーインとアリエクスプレスでは、ブランドイメージがはっきりと異なる。ほとんどの人は、何か安いものを探しているときにしか、アリエクスプレス(またはロシア発の類似アプリのウィッシュ=Wish)を使用しない。それに対して、シーインには、最新のファッション・トレンドをチェックして、その上で手ごろな価格で入手したい人が集まっている。

では、ティームーは、シーイン寄りの位置付けになるのだろうか。それともアリエクスプレス寄りの位置付けになるのだろうか。私の感覚では、現時点では、ティームーはアリエクスプレス寄りに見受けられる。安価であること以外には、大きな利点が打ち出されていないからだ。

カジウケナスは、「広告に頼る以外に購買を訴求する方法がないモデルは、いつか破綻します。残念ながら、同じ理由で、ウィッシュは失敗しました」と言う。いずれかの時点で、広告はあまりに割高、そしてあまりに非効率的になり、その費用に見合わなくなるのだ。

ティームーは、そうした障壁を乗り越えるには、その他の中国や米国の買い物プラットフォームと大きく差別化しなければならない。実際のところ、ピンドゥドゥ多多は中国では効果的な差別化に成功している。ピンドゥドゥのアプリは、病みつきになり、ときに消費者を巧みに操ることで知られている。追加の大幅割引を餌にして、人々に対してソーシャル・プラットフォームで購入商品を共有するよう促しているのだ。過去2年で、ピンドゥドゥが先駆者となって確立した「ソーシャルeコマース」という考え方は、中国の消費者向けテック分野で、最も成功したイノベーションの1つに数えられるようになっている。

しかし、この考え方が米国でどこまで成功するかは、未知数でもある。米国のショッピング業界は、中国のトレンドをなかなか取り入れようとしてこなかった。私は以前までは、中国で極めて人気となっている生配信での買い物は、世界中で取り入れられて、ECを根底から変えていくだろうと考えていた。しかし、それから何年も経ったが、そのようなことは起きていない。いつ起きるのかと待っていると、『ゴドーを待ちながら』の主人公のような気分になってきた。

カジウケナスは、「こうした実験的試みはちらほらと小規模に行われていますが、過去10年で何か実際に大きく変わっているでしょうか。それほど変わっていませんよね。アマゾンの見た目はまったく変わっていません」という。「ひょっとすると、西洋では中国と比較して、経済面でも技術面でも環境がはるかに確立されており、中国で見られたような破壊的な大革命が起きる可能性は低いということが読み取れるのかもしれません」。

というわけで、ティームーには幸運を祈るしかない。ティームーが次の動きを準備している間も、皆様はまた何度もその名前を目にすることになるだろう。私は、あちこちに表示される広告をクリックしたくなる衝動を抑え続けることになるだろう。

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ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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