KADOKAWA Technology Review
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現存する最古のメタバース、
ウルティマオンラインの教訓
Arik Roper
カルチャー Insider Online限定
Welcome to the oldest part of the metaverse

現存する最古のメタバース、
ウルティマオンラインの教訓

オンライン・ロールプレイング・ゲーム「ウルティマ オンライン」はメタバースの走りとも言えるサービスだ。その25年間の歩みからは、バーチャル世界の構築に伴う課題についての重要な教訓を学ぶことができる。 by John-Clark Levin2023.04.17

メタバースはまだ、今日のメディアにおいては途半ばのぼんやりとした夢のように扱われている。だが、メタバースを「住める」バーチャル世界のネットワークと定義するならば、現存する最古の地は実に25年前から存在している。オンライン・ロールプレイング・ゲーム「ウルティマ オンライン(Ultima Online)」に作られた、中世のファンタジー王国だ。このブリタニア王国は市場競争、経済の混乱、政争を耐え抜いてすでに四半世紀になる。では、ウルティマ オンラインとそのプレイヤーは、未来のバーチャル世界の創造について何を教えてくれるのだろうか。

ウルティマ オンライン(ファンはUOと呼ぶ)は初のオンライン・ファンタジー・ゲームではない。古くは1980年、MUDとして知られる「マルチユーザー・ダンジョン(multi-user dungeons)」では、アーパネット(ARPANET)で接続された大学のコンピューターがホスティングする、テキスト・ベースのロールプレイング・アドベンチャーが体験できた。1991年のワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の誕生により、「キングダム・オブ・ドラッカー(Kingdom of Drakkar)」や「ネバーウィンター・ナイツ」などグラフィックを取り入れた後継がいくつか登場した。そして、数十人から数百人のプレイヤーがデジタル空間を共有し、協力してモンスターを倒せるようになった。1996年になると「大規模多人数同時参加型(MMORPG)」というジャンルが生まれ、「バラム(Baram)」や「メリディアン59(Meridian 59)」といったゲームが万単位の有料会員を集めた。

だが、1997年に登場したUOは、(ゲーム中の)全世界をシミュレーションするという革命的な野心でゲーム界を一変させた。ほぼ戦闘の背景しかない小さくて静的な環境とは違い、UOにはあらゆるものと相互に触れ合える広大で動的な空間が広がっていた。プレイヤーは木に実った果物をもいだり、棚から書籍を取り出して実際に読んだりできた。UOは、誰もが英雄的な騎士や魔法使いといった役を演じるそれまでのゲームとは異なり、パン職人や物乞い、鍛冶師、海賊、政治家にもなれるまったく新しい社会を実現した。

もっとも重要だったのは、実際にUOの世界に人が暮らせるようにしたことだろう。それまでのゲームでは、プレイヤーはログイン中にゲーム内に居住できたとしても、オフラインになるとその状態は持続しなかった。「フルカディア(Furcadia)」ではプレイヤーが一時的に接続できるカスタマイズしたミニサイズの空間を作成できたが、UOでは、プレイヤーが構築したものは作成者がログオフした後も残り、他のプレイヤーがその構築物を利用できた。空いている土地であればどこにでも永続的なコテージや城を建て、好きなように装飾もできた。また、町役場を作るのも、バーチャルのビールを飲んだり、羊の肉を食べたりしながら交流する友人を持つのも自在だった。つまり、1つの「場」が約束されていた。

この壮大なビジョンには、UOを開発したオリジン・システムズ(Origin Systems)のメンバーの経歴を反映されていた。リチャード・ギャリオット創業者は、プレイヤーの自由と、複雑な倫理基準の選択に重きを置くシングルプレイ用「ウルティマ」シリーズを20年近く制作してきた。UOのデザインを主導したレイフ・コスターと主要プログラマーたちは、テキストベースのMUDで経験を積んできた。計算量の多いグラフィックがないため、サーバーは他のゲームではできないような奥深い定量的モデリングに集中できた。活発なMUD愛好家サークルは、農業、気象、漢方薬などの複雑なシミュレーションを何年も実験してきた。

コスターと妻のクリステン(オリジンのデザイナー)はこうしたアイデアを大規模に応用することに没頭し、ウルティマのゲーム世界をリアルに実現する精巧な資源生態系システムを考案した。畑に草が生え、草食動物が草を食べ、肉食動物が草食動物を狩る。ドラゴンは勇者に殺されるのをじっと待つだけではなく、まずは食物、次に棲家、そして最後にようやくピカピカの宝物を欲しがるといった、マズローの欲求階層説のように欲を満たそうとする。この過程で、真に独創的な思考が育まれる。プレイヤーは町の平和を守るためにうろつき回るモンスターを倒すのではなく、おいしいシカをおびき寄せることを選べるのだ。アルファ版ではこのシステムは適切に機能した。チームは、綿密な計画と強力なシミュレーションによって、ゲームの流れを実質的にコントロールできると実感した。

一般公開されたベータ版では、不都合な事実が明らかになった。前代未聞の5万人が5ドルを支払って早々とゲームに参加した。そしてイナゴの大群のようにUOの世界を覆い尽くし、目に入ったものすべてを殺してしまったのだ。ウサギはオオカミに狩られるまでもなく死んでしまい、ドラゴンは倒す動機を与えられる前に虐殺された。それは生態系の崩壊だった。そして、裏で処理していた人工知能(AI)プログラムの負荷でサーバーが悲鳴をあげると、開発チームはシステム全体を解体するしかなかった。開発者の手にも負えない事態を強調するかのように、ベータ版の公開終わり近くには、あるプレイヤーが王、つまりギャリオット創業者のアバターであるブリティッシュ公を暗殺してしまった。

1997年9月に正式版がリリースされたときも、大勢のプレイヤーがブリタニア王国を練り歩き、あらゆるものをクリックし、オリジン・システムのプログラマーが予想もしなかった方法でゲームの仕組みを利用した。残忍な大工の集団が木製の家具で他のキャラクターの動きを邪魔できることに気づくまでに、それほど時間はかからなかった。彼らは大都市の門に数百のテーブルやタンスでバリケードを築き、逃げようとする者を待ち伏せした。被害者たちはオリジン・システムに訴えたが、コスターはシミュレーションを重視した対策を打ち出した。プレイヤーが自分で …

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