KADOKAWA Technology Review
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This Asian App Could Blunt Snapchat’s Global Ambitions

韓国製アプリ・スノーはスナップチャットの世界制覇を妨げるか?

日中韓で大人気の画像アプリ「スノー」は、スナップチャットが攻めきれずにいる東アジア市場でスナップの成長を鈍化させる要因になっている。韓国製アプリだが、各国の嗜好に合わせるLINE同様の戦略が功を奏している。 by Yoochul Kim and Elizabeth Woyke2017.03.02

From left to right: Snow made this special-effects “Year of the Rooster” lens for Chinese users and this face-altering “blue demon” lens for Japanese users. The pink mouse lens is Snow’s top design in Korea, the teddy bear is the most popular lens in Japan, and the hand-drawn cat leads in China.
スノーが用意した特殊効果(左は中国ユーザー向けの「酉年」レンズ、中央は日本のユーザー向けの顔を変化させる「青鬼」レンズ、右のレンズでピンクのネズミが韓国で1位、日本ではテディベアが一番、中国では手描きのネコが人気のデザイン)

自撮り写真を漫画風のネコに変形させたり、数秒で自動消滅する映像メッセージを友達に送ったりするだけなら、スナップチャットもスノー(韓国)も同じように使える。だが、写真を少し修正したり、肌をきれいに見せたり、アニメーションGIFを作ったり、加工済みの画像を数日間だけ表示したりするのはスノーにしかできない。スナップチャットにはできないことだ。

スノーは機能が充実しており、日本と韓国で一番人気の写真・映像アプリだ。中国でもトップクラスのマルチメディア・アプリで、月間アクティブユーザー数は4000万~5000万人にもなる。もちろん、スナップチャットの規模ははるかに大きい。1日のユーザー数は1億6000万人以上、親会社スナップの新規公開株(IPO)は、テック企業として米国市場で2014年以来の大きな規模になると予測されている。ただし、スナップがIPOに向けて提出した書類を読むと、スナップチャットの成長は減速中だ。特に、スナップチャットの主要市場である北米と欧州以外の地域で鈍化が目立つ。スノーが、スナップチャットの世界的普及を鈍らせる可能性はあるだろうか?

スノーは、タイミング、つながり、消費地ニーズに合わせたきめ細かなカスタマイズを成功の3本柱にしている。2015年9月に「スノー」アプリが立ち上がったとき、スナップチャットはアジア市場で4年先行していたものの、しっかりした地歩は築けていなかった。スノーはわずか5カ月でスナップチャットが未開拓だった韓国を席巻し、日本と中国で普及した。スノーの主要市場は現在、日中韓の3カ国だが、すでに米国を含め、世界140カ国に進出している。スノー・ユーザーのほとんどは10代から20代前半で、スナップショットと同じターゲットを食い合っている。

スノーは、韓国最大のWebポータルであるネイバーと日本で人気が広がったメッセージング・アプリ「ライン」(ネイバーの子会社)とのつながりも活かしている。ネイバーとラインはスノー株を多数保有しているのは、ネイバーの子会社キャンプ・モバイルがスノーを開発したとき、ネイバーがスノーを別の子会社として設立し、ラインが4500万ドル(株主議決権持ち分の25%相当)を出資したからだ。

スノーはユーザーに、各地の嗜好を反映させたデジタル画像を提供している。消費地ニーズへの細かな対応は、LINEが東アジアと東南アジア最大のメッセージング・アプリになったのと同じ戦略だ。たとえば、中国のユーザーは酉年を記念したレンズ(画像加工フィルターのこと)で写真の顔を変形できる。日本のユーザーは、人の顔を青鬼のように変えるレンズ(ホラーゲーム「青鬼」がベース)を楽しめる。現在、スノーが提供するステッカーとレンズは約1500種類で、背景フィルターは約50ある。スナップチャットよりはるかに豊富に選べるし、スノーは毎日新作を追加している。

さらにスノーは、ユーザーがスノー・アプリで作った画像をFacebookやInstagram、ツイッター、WeChat、LINE、KakaoTalk(韓国)といったソーシャル・ネットワークに直接アップロードできる。

特に中国では、スノーの戦略が大いに奏功してきた。当初、中国では画像交換を中心としたメッセージング・アプリとして運営していたが、2016年9月から中国専用のアプリ「スノー・カメラ」に切り替えた。スノー・カメラは、写真や映像の撮影と編集に特化したアプリだ。中国の規制で、スノー・カメラの画像をソーシャル・ネットワークで共有するには、ユーザーはWeChatにスノー・カメラをリンクする必要がある。インスタグラムやスナップチャット等の欧米系競合企業は中国進出を阻まれているが、スノー・カメラは、WeChatとのリンクの義務付けに対応することで唯一、中国での運営が認められた。市場調査会社プライオリ・データによれば、スノー・カメラは、中国のiOSアップ・ストア(App Store)で写真・映像アプリ部門のトップ10位内、総合でトップ50位内を維持している。

アジアで強いスノーだが、アジアを超え、世界的普及も見据えている。ネイバーは最近、スノーの世界市場での競争力を強化するために投資(スノーとの提携やアプリ統合が可能な世界中のスタートアップ企業、テクノロジーに投資する4300万ドルの基金をソフトバンクと共同で設けた)した。

スノーは、欧米の嗜好に合わせたデザインを多く開発中だという。顔を面白おかしく変形させるレンズも、欧米向け機能のひとつだ。スノー・アプリはまだ黒字化していないが、スノーの代表者によれば、今後、広告機能を用意する。アプリ分析企業アップ・アニーのアミール・ゴドラティ(市場調査・研究担当ディレクター)は、スノーはスナップチャットと同種の広告商品を提供するだろうと考えている。ゴドラティ・ディレクターは「スノーは、間違いなく今売れ筋のアプリです。アジアを中心に好評のアプリですが、スナップチャットの潜在的競合企業です」という。

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