KADOKAWA Technology Review
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What if there was a Moore’s Law for reducing carbon emissions?

10年ごとに半減 二酸化炭素排出量にもムーアの法則が必要だ

半導体業界は、半導体性能の成長ペースを「ムーアの法則」を掲げることで、数十年間繁栄してきた。シンプルな目標を掲げ、熱意を持って遂行すれば、二酸化炭素排出量の削減について、世界各国の政府を説得し、21世紀半ばまでに二酸化炭素排出量を実質ゼロにできるかもしれない。 by Jamie Condliffe2017.03.28

人類が気候変動に悪影響を及ぼさないため、世界各国が足並みを揃えて政策を実行するには、二酸化炭素排出量の削減について、わかりやすい目標を掲げれば済むのかもしれない。

再生可能エネルギーの導入が不可逆に進んでいるのは確実だ。それでも、再生可能エネルギーに関する各国の政策はバラバラで、パリ気候協定の目標達成に必要な二酸化炭素排出量の削減を実現できるほど、導入は進んでおらず、熱意もないと批判されている。

問題の一因は、地球の将来を守るための先進的政策と、現実の政策をどう結びつけるかに各国政府が苦労していることだ。また、温室効果ガスを減らすのではなく、地球が受ける太陽の熱の一部をテクノロジーで遮断する気候工学の手法、米国での政権交代もあり、熱意や一貫性のある、実現可能な目標は立てにくい状況だ。

そこでヨーロッパの研究グループが、斬新でわかりやすい解決策を提案した。研究グループが「炭素の法則」(ガーディアン紙は「炭素版ムーアの法則」)と名付けた包括目標はシンプルだ。全世界で、10年ごとに二酸化炭素排出量を半減させる。

基本的にそれだけの目標だ。この法則は「すべての業種、どんな規模の国」にも適用されるのが理想で「短期間での大胆な行動」を促す。炭素税やエネルギー効率規制の導入は短期間で効果を上げられる政策だし、内燃機関自動車の削減やカーボン・ニュートラル(ある経済活動に関わる二酸化炭素の吸収量と排出量が等しいこと)の建築基準など、長期的政策の結果として、劇的な変化を自然に起こす必要があり。

政治家が炭素の法則を守れば、再生可能エネルギーによる電力供給は今まで通り5年半ごとに2倍ずつ増え続ける。21世紀半ばまでに地球上で二酸化炭素排出量を実質ゼロにするには、二酸化炭素隔離テクノロジーを強化する必要がある、と研究グループはいう。一方で、石炭火力発電は2030年までに、石油火力発電所は2040年までに使用を中止する。

このアイデアに問題があるのは明らかだ。特に、この構想を採用するよう世界各国を説得するのは至難の業だろう。提案内容をシンプルにすることで実現可能だと訴えられる長所は、「世界中のエネルギー供給や消費をどう変更するのか、こんな簡単なルールで実際の考えをまとめられるか」と批判を受ける短所にもなる。

ガーディアン紙の例を少し引用しよう。ムーアの法則は、半導体業界には効果があった。自然界の法則ではないのに、半導体業界が十分な額を投資し、法則を守ろうと熱意を持ち、業界全体で取り組んだおかげで、少なくとも数年前までの数十年間、ムーアの法則どおりに半導体の性能は向上した。気候について、同じことができる可能性だって当然あるはずだ。

(関連記事:Science, The Guardian, “トランプ政権、初の予算提案で気候変動対策をぶち壊し,“ “パリ協定発効でも地球を救えない理由,” “オバマ大統領がサイエンス誌に寄稿「再生可能革命は不可逆」”)

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クレジット Photograph by Lukas Schulze | Getty
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
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