オバマ大統領がサイエンス誌に寄稿「再生可能革命は不可逆」
経済の実態の変化は、米国がすでに二酸化炭素排出量を減少させていることを意味するが、大統領はこのプロセスを加速するためにさらなる行動が必要だと話す。 by Michael Reilly2017.01.10
再生可能エネルギー革命はすでに始まっており、誰にも止められない。
バラク・オバマ大統領が 1月9日のサイエンス誌の記事で述べた「クリーンエネルギーに向かう流れを逆転できない4つの理由」で訴えたことの主旨だ。
オバマ大統領は大きなことを最初に述べている。長年、経済成長はエネルギー使用の上昇と関係があるという説が正しいと信じられてきた。エネルギー使用の上昇は、温室効果ガス排出量の増加を意味する。この説は数十年間正しかった。しかし2008年から、米国のエネルギー源に劇的な変化が起きた。オバマ大統領によると、その結果、2008年から2015年にかけてCO2排出量が低下した一方で、経済は10%以上成長した。この説明はMIT Technology Reviewが伝えてきたこととも合致しており、オバマ大統領はこの傾向が世界的に広まったと主張しているのだ。
米国では、石炭から天然ガスに大規模に移行したことが、この流れの最も大きな要因だ。天然ガスの復興は、石炭火力発電所を廃業に追いやっている。
オバマ大統領は続けて、自動車の燃費と、家庭用電化製品のエネルギー効率の向上における、オバマ政権の業績を挙げた。しかし恐らく、オバマ大統領の記事は、ある程度、来たるべきトランプ政権と共和党主導の議会が成果を台無しにしないように訴えかけるのが目的であり、共和党が嫌う「規制」という言葉を聞くのはこれが最後になるだろう。今後はエネルギー効率を高めたり、再生可能エネルギーに移行したりすることは、企業が自身で決断するビジネスの話になる。オバマ大統領はいいたいのはこういうことだ。「ほら、市場の見えない手が、二酸化炭素排出量の少ない未来へと我々を導いているよ」
これは部分的には真実だ。しかし、気候変動が招く最悪の事態に先手を打てるほど、物事は早く変化していない。
オバマ大統領は、テキサス州やアイオワ州など、いくつかの州は風力発電の急激な増加による恩恵を受けており、他の多くの州も化石燃料への依存を減らそうと努力している、と的確に述べている。しかしオバマ大統領の記事は、再生可能エネルギーの普及を阻む最大の要因には触れていない。米国中でエネルギーを信頼できる方法で輸送し、保管できるようにエネルギー網を更新するには、多額のインフラ費用が必要なのだ。この点についてテキサス州では興味深い事例があったが、オバマ大統領はそれについては言及していない。
最後は画期的成果であるパリ気候協定だ。大統領選挙中、ドナルド・トランプは、大統領に選ばれたら米国をパリ協定から脱退させると発言した。オバマ大統領は、世界の温室効果ガス排出量の75%に相当する国が排出量の削減に合意しており、気候変動を食い止めるまたとない機会だと述べている。米国には他の加盟国からの期待がかかっているのだ。
退任にあたり、オバマ大統領は、自身の政策は気候変動に対処する唯一の方法ではないかもしれない、という。トランプ政権が他の方法を見つけて、同じ結果にたどり着く可能性も多いにある。重要なのは、解決方法ではなく、課題を解決することなのだ、とオバマ大統領は記している。
(関連記事:Science, “オバマ大統領、再生可能エネルギー促進のため油田の新規開発を禁止,” “トランプ政権は、炭鉱労働者の希望と地球の未来を粉砕する,” “Carbon Dioxide Emissions Keep Falling in the U.S.”)
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- マイケル レイリー [Michael Reilly]米国版 ニュース・解説担当級上級編集者
- マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。