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「科学的証拠を無視」CDCで何が?1カ月で解任された元所長明かす
Samuel Corum/Sipa via AP Images
A pivotal meeting on vaccine guidance is underway—and former CDC leaders are alarmed

「科学的証拠を無視」CDCで何が?1カ月で解任された元所長明かす

CDC元所長のスーザン・モナレスが上院公聴会で衝撃の証言。ケネディ保健福祉長官から「科学的証拠に関係なくワクチン推奨事項を承認する」よう求められ、拒否したところわずか29日で解任されたという。 by Jessica Hamzelou2025.09.21

この記事の3つのポイント
  1. CDC元所長らが上院公聴会で、科学的証拠を無視したワクチン推奨の事前承認を求められ辞任したと証言
  2. 保健福祉長官がワクチン批判者として知られ、諮問委員会メンバーを反ワクチン派に刷新している背景
  3. 新委員会の推奨変更により米国の小児ワクチンアクセス再構築と接種率低下が懸念される
summarized by Claude 3

今週は米国の公衆衛生機関にとって波乱に満ちた一週間だった。米疾病対策予防センター(CDC)の元幹部2人が上院公聴会に出席し、突然の辞任理由を説明。CDC職員が科学的証拠に背を向けるよう指示されている実態を語った。

9月17日水曜日、上院委員会で質問に応じたのは、CDCの元所長であるスーザン・モナレスと元最高医務責任者のデブラ・ハウリー。両氏は混乱状態にある保健機関の実態を浮き彫りにし、本来守るべき人々に害を与えるリスクがあると述べた。

翌18日木曜日には、ワクチン指針を策定するCDCの諮問委員会が複数の小児ワクチンについて2日間の議論を実施するため会合を開いた。本記事の執筆時点で進行中のこの会議で、委員会メンバーはこれらのワクチンについて議論し、その使用に関する推奨事項を提案する予定だった。

(追記)CDCの諮問委員会は19日、4歳未満の子どもにはMMRV混合ワクチン(麻疹、おたふく風邪、風疹、水痘)を接種せず、代わりに2種類のワクチンを別々に接種するよう勧告した。

モナレス元所長は小児ワクチンへのアクセスが脅威にさらされており、公衆衛生への影響が深刻化する可能性があると懸念している。「ワクチンによる保護が弱められれば、予防可能な疾患が復活してしまうでしょう」と彼女は述べた。

現在の保健福祉長官であるロバート・F・ケネディ・ジュニアは、公衆衛生への脅威を監視し、対応するCDCを含む連邦政府の保健・科学機関を監督している。その役割には、ワクチンに推奨事項の策定も含まれる。

これまでに指摘してきたように、RFK・ジュニアは長らくワクチンを批判してきたことで知られる人物である。一般的に使用される成分を自閉症と誤って関連付け、さまざまなワクチンに関連するリスクについて他の誤った発言をしてきた。

それでも彼は、そうしたワクチンに関する信念を共有しないモナレスをCDC所長に起用する人事を承認した。7月31日に宣誓就任したモナレスは微生物学者・免疫学者で、すでに同機関の所長代理を務めていた。彼女は先端研究計画局保健部門(ARPA-H)や生物医学先端研究開発局(BARDA)など、他の連邦機関や省庁でも要職を歴任していた。ケネディ長官は彼女を「非の打ちどころのない科学的資格を持つ公衆衛生専門家」と評した。

だがその後、彼の意見は多少変わったようである。モナレス元所長は就任からわずか29日後、CDCから追放された。そして今週の公聴会で、彼女はその理由を説明した。

8月25日、ケネディ長官はモナレス元所長に2つのことを求めたという。第一に、CDCの科学者を解雇することを約束してほしいと要求した。第二に、CDCの予防接種実施諮問委員会(ACIP)が作成するワクチン推奨事項(勧告)について、それらを支持する科学的証拠があるかどうかに関係なく、承認することを「事前に約束」してほしいと求めたという。「彼はただ包括的な承認を望んでいました」とモナレス元所長は証言で述べた

彼女は両方の要求を拒否した。

モナレス元所長は、米国民の安全を守る重要な役割を果たしている勤勉な科学者たちを排除したくなかったと証言した。そして、科学的証拠を検討せずにワクチン推奨事項を承認することを約束すれば、自身の誠実性を保てないと述べた。そして彼女は解任された。

これらのワクチン推奨事項は現在議論中であり、モナレス元所長のような科学者たちはそれらがどのように変更される可能性があるかを懸念している。ケネディ長官は6月にACIPの委員17人全員を解任した(モナレス元所長は解任について相談を受けておらず、報道を通じて初めて知ったと述べた)。

「ワクチン科学への国民の信頼を再構築するには全面的な刷新が必要だ」とケネディ長官は当時、ウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿に記している。彼はその後、委員を8人の新メンバーと交代させたが、その中にはワクチンの著名な批判者やワクチンについて誤情報を拡散してきた人物も含まれていた。1人は後に辞退した。

この新しい委員会は2週間後に会合を開いた。会議には、ケネディ長官が自閉症と誤って関連付けており、現在は米国のワクチンに含まれていないチメロサールという化学物質についての発表と、MMRV混合ワクチン(麻疹、おたふく風邪、風疹、水痘)を4歳未満の子どもに提供しないよう推奨する提案が含まれていた。

今週初め、5人の新たなメンバーが委員に指名された。その中にはワクチン義務化に反対し、mRNAベースの新型コロナワクチンを市場から撤去すべきだと主張してきた人物も含まれている。

全12人の委員が2日間の会議に参集している。CDCのWebサイトに公開されている議題によると、MMRVワクチンと新型コロナウイルス感染症およびB型肝炎のワクチンに関する推奨事項を提案するという。

これらがモナレス元所長が「包括的承認」を求められたと述べる推奨事項である。「私の最大の懸念は、子どもやその他の必要な人々への命を救うワクチンへのアクセスを減らすような何かを承認する立場に置かれることでした」と彼女は述べた。

その職務は現在、これらの推奨事項を承認する権限を持つ保健副長官兼CDC所長代理のジム・オニール(長寿愛好家でもある)に委ねられている。

これらの推奨事項がどのようなものになるかはまだ分からない。しかし、承認されれば、米国の小児や脆弱な人々のワクチンアクセスを再構築する可能性がある。委員会の元委員長6人がスタット(STAT)に寄稿したように、「ACIPは、米国の約50%の小児に無償でワクチンを提供する小児ワクチン・プログラムと、米国の約1億5000万人にACIP推奨ワクチンの保険適用を義務付ける医療費負担適正化法に直接関連している」。

ワクチン接種率の低下は、すでに今年の米国での麻疹流行に寄与しており、これは数十年で最大規模である。2人の子どもが死亡した。我々はすでに小児ワクチンへの信頼が損なわれた影響を目の当たりにしている。モナレス元所長が述べたように「この問題は理論上のものではありません」。

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